九、やっぱりそうなの・・?
そして次の日の朝、三人王子はいつものように電車に乗ってきた。
ああ・・時雨王子の顔を見れないわ・・
とてもじゃないけど・・見れない・・
横を見ると、紬と美琴も王子たちから視線を逸らしていた。
「今日の体育は、嫌でありんすな~」
「私は体育は好きやで」
「私、この体格でありんしょ・・走るのしんどいでありんすよ」
「確かにそうやな。でも走ったらダイエットになるやん」
紬・・美琴・・普段、そんな話しないじゃん・・
わざとらし過ぎるでしょ・・
「翔、ゆうべさあ、和樹がさ~、また俺の布団に入ってきやがって。こいつ寝ぼけたらすぐに間違うのな」
「あはは、相変わらずなんだね~」
「健人くん、きみだってこの間、間違えたじゃないか」
三人王子の会話に聞き耳を立てていた私たちは、思わず顔を見合わせ絶句していた。
「なんと・・公の場で行為を赤裸々に・・言葉を失うでありんす・・」
いや・・行為って・・そこまでは言ってないんじゃ・・
「すごいな・・布団とか具体的なこと言い過ぎちゃう?」
いやまあ・・確かに布団なんて・・ちょっとびっくり・・
そして翔王子の意味深な発言・・
「相変わらず」と・・
ってことは・・やっぱりそうなんだわ・・
私が時雨王子を見ていると、目が合った。
きゃあ~~~!素敵いぃぃ~~!
でもっ・・時雨王子は・・違うのよね・・ダメなのよね・・
「お・・おはようございます・・」
「おう」
「き・・今日もいい天気ですね・・」
「そだな」
「かっ・・和樹王子とは・・」
私がそう言いかけたら、紬が私の腕を引っ張った。
「タブーに踏み込んだらダメでありんすよ・・」
「え・・」
「小春・・なにを訊くつもりなん・・」
「いや・・別に・・」
「なんだよ、和樹がどうかしたのか」
時雨王子は私にそう言った。
「いや・・あの~・・」
「小春はちょっと、体調が悪いでありんして・・」
紬が出まかせを言った。
「そうなのか。風邪か?」
「いや、そうじゃなくて・・悪夢を見たでありんすな・・小春」
「えっ・・」
紬・・なにを言ってるの・・?
「ふーん」
時雨王子は全く興味を示さなかった。
キキーーーッ
そこで電車が急停車した。
立っていた乗客は倒れそうになったが、実際には倒れる人はいなかった。
あああ~~びっくりした。
時雨王子を見ると、和樹王子の身体を支えて、いわば抱きしめる形になっていた。
ぎゃあ~~~!
「和樹、大丈夫か」
「うん。平気。ありがとう」
二人はお互いの顔を見つめ合って、そう言った。
紬と美琴を見ると、唖然としていた。
「ダメでありんす・・変な想像が・・頭を駆け巡るでござんす・・えっ・・いや、ありんす・・」
うわあ・・紬、言い間違えてるし・・
「しかし・・絵になることは絵になるな・・。やっぱりイケメンって得やな~」
「えっ・・美琴・・なに言ってるの・・」
「これが汚いおっさんやったら、私、吐きそうになるけどさぁ・・」
「ち・・ちょっと待って。無いって・・無いって・・」
「ふーん・・なるほどなぁ・・」
美琴は何かを考えている風だった。
なるほど・・って・・どういう意味よ・・
「私さ、もう翔王子のことは諦めるわ」
駅を出たところで、美琴がいきなりそう言った。
「えっ・・美琴、どうしたの?」
「翔王子もいいんやけどな・・やっぱりあの二人やで」
「なにを言ってるでありんすか・・」
「いや・・ほんまにあの二人がそうなんか、確かめたいねん」
「えっ・・マジっ?」
「それを確かめて、どうするでありんすか」
「だってさぁ~・・絵になるやん・・」
げっ・・ひょっとして・・美琴って腐女子??
「美琴・・その道へ行くでありんすか・・」
「その道・・って。その筋の人みたいに言いなや」
「美琴・・BLに興味があるの・・?」
「いや・・興味っちゅうか・・これは芸術やと思うねん」
「芸術?」
「美しいものを美しいと感じる・・これが芸術の真髄やん・・」
いやいや・・それを腐女子って言うんだけど・・
美琴・・時雨王子と和樹王子を見て・・新たな扉が開いたのね・・
「小春はどうなん?」
「え・・どうって・・」
「時雨王子と和樹王子の真相を確かめたないん?」
「いや・・私はどっちかって言うと・・知りたくない派なんだけど・・」
「紬はどうなん?」
「私でありんすか・・まあ・・確かめたくないと言えば嘘になるでありんす・・」
「げ~~。二人とも、なに言ってんのよ・・」
「私は、決定的瞬間を見たいわぁ・・それってええやん・・」
「やめて~~!ってか・・美琴、お願い、戻って来て!」
「戻る・・?そんなアホな・・」
ダメだ・・美琴・・完全にイッちゃってる・・
紬もなんか変なこと言ってるし・・
「あっ!そうでありんす」
「なっ・・なにっ?」
「若い二人は・・休日になると、きっとデートするに違いないでありんすよ・・」
「若い二人って・・なに年寄り臭いこと言ってんのよ。私たち高二でしょ。年下じゃない」
「今度の日曜日がチャンスでありんすな・・」
「それ、ええやん・・」
「ちょ・・ちょっと待って。どうするつもりなの?」
「どうするって・・そりゃ・・みなまで言わなくてもわかるでありんしょ・・」
「それ、ええやん・・」
「美琴!美琴ってば!」
私は美琴の身体をゆすった。
「なに?」
「美琴、ええやん・・ばっかり言って・・。しっかりしてよ!」
「しっかりしてるやん」
「してない!美琴、どっか行ってる!」
「いくら小春でも、私の脳内まで邪魔することはできひんで・・」
「そうでありんすよ、小春。想像とはイメージの世界。イメージを膨らますことによって、脳が活性化されるでありんすよ」
「なに言ってるの・・」
「つまり・・美琴は誰にも止められないってことでありんす」
「え・・説明になってないんだけど・・」
それからあっという間に、日曜日がきた。
私たちは朝から、時雨王子と和樹王子のアパートを張っている。
なに~~これ、マジでストーカーか、刑事の張り込みじゃない~~・・
美琴は双眼鏡とか・・準備してるし・・
ちょっとぉぉ~~・・あり得ないんですけど!
「あっ!出てくるで!」
双眼鏡をのぞいている美琴が叫んだ。
「えっ・・」
「玄関が開くで・・」
すると美琴の言う通り、時雨王子と和樹王子が出てきた。
きゃあ~~~!私服も素敵ぃぃ~~!
「出かけるでありんすな・・」
「よしっ・・後をつけるで・・」
そして私たちは王子たちにばれないよう・・後をつけた。
「ねぇ・・翔王子はいないね・・」
「そうでありんすな・・やはりでありんす・・」
「な・・なによっ・・」
「翔王子がいたら、事を始められないでありんしょ・・」
「あ・・そうか・・って!事ってなによ、事って!」
「小春・・まだまだ子供でありんすな・・」
なによ~~・・それくらいわかるわよ・・
でも・・なんだか、未だに信じられないんだけどなぁ・・
「あっ・・バスに乗るみたいやで」
「え・・そうなんだ・・」
「バスに乗って・・人気のないところへ行くでありんすか・・」
「私らも乗らなあかんで」
「えぇ~~・・でも、絶対にバレるよ・・」
「あっ・・小春。あんた小さいから、あんただけ乗り」
「えっ!」
「それで、下車したバス停を電話で教えて」
「えぇ~~・・美琴と紬はどうするの?」
「私らは次のバスで追いかけるわ」
「うん。それは名案でありんすな」
「そ・・そんなあ~~・・私一人なの・・?」
「大丈夫やって。小さい身体、今、活かさずしていつ活かすん?」
「今でしょ!で、ありんすな」
「ひぃぃ~~・・」
こうして私は王子たちが乗るバスに、同乗することになった。
「幸い・・人がたくさん並んでるやん。絶対にバレへんって」
「わ・・わかった・・」
そして私は列の最後尾に並び、小さい身体を更に小さくしていた。
ほどなくしてバスが到着し、私は一番最後に乗った。
どうか・・バレませんように・・
するとバスは十分くらい走ったところで、「U公園墓地前」に到着し、王子たちは下車した。
私も慌てて、下車した。
幸い王子たちにはバレずに済んだ。
「もしもし」
「あ、小春か。で、どこなん?」
「えっと、U公園墓地前」
「なんやとぉぉ~~!墓地かいな・・」
「早く来て!」
「わかった。五分後のバスに乗るから、待っててな」
待つって言っても・・王子たち・・歩いて行ったしな・・
後をつけないと見失うよね・・
私は少しずつ後をつけて行った。
すると王子たちは墓地の中へ入って行った。
げ~~~・・墓地でなにする気なの・・
やっぱり・・人のいないところで・・「なに」を・・
いやああぁぁぁ~~~!




