八、後をつける
「あ・・お・・おはようございます・・」
次の日、いつものように三人の王子が電車に乗ってきた。
私は早速、時雨王子に挨拶をした。
「ああ」
え・・「ああ」だけ・・?
しかもすごく不愛想だし・・
やっぱり昨日のこと、相当迷惑だったのかな・・
仕方がないよね・・私ってブスだもん・・
「あの・・昨日は・・ありがとうございました・・」
「別に」
「あの・・焼きそば、美味しかったです・・」
「そうかよ」
「あれは僕が焼いたんだよ」
そう言って和樹王子が、ニコッと微笑んでくれた。
きゃあ~~和樹王子!なっんて優しいのぉぉ~~・・
「そうでありんすよね~。私は焼いていたのを見ていたでありんすよ」
すぐに紬が話に加わってきた。
「あはは。きみって、面白い話し方をするんだね」
「そうでありんすか~。照れるでありんす~」
「ほんとにね。昔の人みたいだね」
きゃあ~~今度は翔王子がぁぁ~~
「そ・・そうやねん。紬って、ずっとこんな喋り方やねん!」
美琴もここぞとばかりに、翔王子に話しかけていた。
「へぇ~紬っていうんだ。かわいい名前だね」
いやあぁぁ~~翔王子!やっさし~~~!
「わ・・私は美琴!美琴って言いますねん~~」
「へぇー美琴さんか。いい名前だね」
「そうでっしゃろ~~!親がつけてくれたんですわぁぁ~~」
うわあ・・美琴・・ちょっと畳みかけ過ぎじゃ・・
ほら・・翔王子、引いてるし・・
んで・・「でっしゃろ」って・・
「きみって関西の人なの?」
引きながらも翔王子はそう言った。
「そうですねん~~!関西から引っ越して来たんですわああ~~」
「あの・・もう少しボリューム下げて・・」
「あっっ!そ・・そうでしたね・・またおっちゃんに怒られるところやったわ~」
「あは・・あはは・・」
翔王子・・顔引きつってるんですけど・・
時雨王子は・・あっち向いてるし・・
どうしよう・・
「和樹王子~~、苗字はなんというでありんすか」
「え・・東雲だけど」
「東雲ぇぇ~~なんて素敵な苗字でありんすか~~」
「そうかな・・ありがとう」
「私は路考でありんす~。路考紬でありんすよ~」
「そうなんだ」
和樹王子・・紬の名前に全く興味がないって感じ・・
にしても・・東雲っていうんだぁぁ・・素敵だなあ・・
「私は、柴土、柴土美琴いいますぅ~~」
「そ・・そうなんだ」
美琴・・アピールの相手、間違ってるし・・
あ~~あ・・翔王子も向こう向いちゃったし・・
電車は早くもE高校前に着き、三人の王子は降りて行った。
それでもなぜか、紬と美琴は満足気だった。
やっぱり話せたことが嬉しかったんだね・・
「さて・・決行の日がきたでありんすよ」
二日後の放課後・・紬は学校を出てそう言った。
「え・・やっぱりやるの・・?」
「当然でありんす」
「そら~~やらんと。前に進まへんがな」
「そうなんだけどぉ・・」
「では・・いざ、E高校駅前へ行くでありんす!」
そして私たちは、駅前の人目につかないところで三人を待っていた。
すると、ほどなくして三人が歩いてきた。
きゃあ~~!今日も素敵だわ~~!
ほんと・・こんなに素敵な男子って・・他にいないよ・・
「今日は別の車両に乗るでありんすよ」
「そやね。私らのこと見られたらマズイもんな」
「なんだかなぁ・・」
「なんでありんすか。小春」
「やっぱりこんなこと・・やめない・・?」
「どうしてでありんすか」
「別に・・家を知りたいわけじゃないし・・毎朝、電車で会えるし・・」
「なにを言ってるでありんすか。私たちは「普通」に行動していては、不利でありんしょ。それをわかってるのでありんすか」
「・・・」
「私たちは積極的になって、なんぼでありんす」
「そうそう。諦めるのはいつだってできるんやし」
「そうなんだけど・・」
「四の五のは必要ないでありんす。さっ、行くでありんすよ」
紬はそう言って、王子たちの後をつけた。
そして私たちは別の車両に乗り、王子たちが降りるのを待っていた。
とある駅で王子たちは降り、私たちは後をつけた。
へぇ~・・時雨王子が住んでる街ってここなんだぁ・・
こんなストーカーみたいなことダメだと思ってたけど・・やっぱりなんか、嬉しいな・・
ほどなくして、翔王子は、時雨王子と和樹王子と別れた。
あれ・・和樹王子と時雨王子は、もっと近所なのかな・・
するとボロアパートに、二人が入って行った。
え・・二人で住んでるの・・?
ええ・・えええ~~二人ってどういう関係なのっ!?
「見てはいけないものを、見てしまったでありんすな・・」
「これは・・腐女子が大喜びする・・BLってやつやん・・?」
「げぇ~~~!マジっ?」
「でも美男子同士・・絵になることは間違いないでありんす・・」
「でもさ・・和樹王子には彼女がいるって言ってたよ・・」
「カムフラージュでありんしょ・・」
ま・・マジ・・?
それじゃ・・いくらこっちがアピールしたってダメじゃん!
な・・なんという・・こんな結果が待っていようとは・・
「う~ん・・これは意外でありんした・・」
「ほんまやな・・」
「でも、翔王子は、まだどうかわからないでありんしょ・・」
「そうやけど・・でも、時雨王子と和樹王子の関係は知ってるんとちゃう?」
「その可能性は高いでありんすな・・」
「もし・・知ってるとしたら・・翔王子もそっち系ってことになるやん?」
「いや・・そう考えるのは早計過ぎるでありんすよ」
「なんで?」
「二人の関係を認めてても、翔王子は違うってこともありんしょ・・」
「そうか。友達としてなら付き合えるもんな・・」
「ねぇ・・紬と美琴は、今後、どうするの?」
「女に興味がないのなら・・これはいくら頑張っても無理でありんすな・・」
「それより、小春はどうすんの?」
「え・・どうするって言ったって・・」
「時雨王子・・無理やで」
「あっっ!」
紬がいきなり叫んだ。
「なっ・・なにっ!」
「これはもう・・確実でありんすよ・・」
アパートを見ると時雨王子と和樹王子が、洗面器を抱えて出てきた。
うわあ~~・・お・・お風呂・・?
しかも、すっごく楽しそうだし・・
うわあ~~!時雨王子・・和樹王子の肩を抱いちゃってるし・・!
「ああ・・もう見てられないでありんす・・」
「マジか・・こんなん、ほんまにあるんやな・・」
「嘘でしょ・・そんな・・」
「小春・・もう諦めた方がええよ」
「・・・」
「こればっかりは、しゃあない」
「そうでありんすな・・ブスとか美人以前の問題でありんすから・・」
「だよね・・ああ~~ショック!!」
「帰ろか・・」
「そうでありんすな・・」
私たちが帰ろうとしたら、アパートに一人の男性が入って行くのが見えた。
え・・誰っっ!
ってか・・めちゃくちゃイケメンなんですけど!!
「ねぇ・・あの人誰なんだろうね・・」
「めっちゃイケメンやったな・・」
「う~ん・・どういうことでありんしょ・・」
「ま・・まさか・・二人じゃなくて・・三人・・?」
「長身イケメン三人揃って・・いやいや・・間違いであってほしいでありんす・・」
「三角関係ってことやんな・・」
「そ・・そんなっ・・」
「揉めたりしないんでありんしょか・・」
「割り切った関係ってこと・・?つまり・・セフレ・・」
「ヤダ~~、美琴。そんなこと言わないで!」
「でもそうやん。あんなんおかしいって」
「しかも・・とても狭そうなアパートでありんしょ・・男が三人・・狭すぎると思うでありんす」
私たちの妄想は留まるところを知らなかった。
それにしても・・時雨王子・・ほんとにそうなの・・?
でもさっき・・和樹王子の肩を抱いてしたしな・・
これはマジでそういうことかも知れない・・
ああ~~早くも私の恋が・・




