七、卑下するな
「しっかり話すでありんすよ」
「私ら、ここで待ってるからな」
紬と美琴は、私が時雨王子とちゃんと話せるよう、手を握って健闘を祈ってくれた。
「うん。私、頑張る!」
そして私は、時雨王子が待つ、屋台があったところへ向かった。
よーーし・・よーーしっ・・ちゃんと話すぞ・・
ちゃんと・・
・・え・・?
私・・何を話せばいいの・・?
ぎゃあ~~~何も考えてないじゃないの~~!
あっ・・そうか・・
まず名前よね・・名前。
「たけちゃん」しか知らないし・・
まさか「時雨たけちゃん」であるまいし・・
んでんで・・誕生日・・?
いやいや・・まだ早いか・・
あっっ!!一番肝心の、彼女がいるかいないかを訊かないと!
それとあれよね・・
翔王子と和樹王子のフルネームを、美琴と紬のために訊いてあげなくちゃね・・
それと二人の王子にも、彼女がいるかどうかも訊かないと・・
「おい」
げっ・・きっと振り向くと、時雨王子が立ってるに違いないわ・・
ううう・・恥ずかしい・・
さっき『呪い』歌ったばっかりだしな・・
「はい・・」
振り向くと時雨王子が私を見下ろしていた。
きゃあ~~~~素敵ぃぃ~~~!
「で、話ってなんだよ」
「え・・いや・・あの・・」
「立ち話もなんだし、あっち行くぞ」
時雨王子はそう言って、私の前を歩きだした。
え・・ど・・どこへ行くのですか・・
ひ・・人がいないところへ・・?
それは・・そ・・それは・・まだ早すぎるというか・・時雨王子・・
すると時雨王子は、校庭のベンチに座った。
あ・・単なるベンチだったのね・・
人も結構いるし・・
あはは・・そうよね・・
「座れよ」
きゃあ~~~時雨王子って、結構命令口調なのよね・・
なんだか、ゾクゾクするんですけどぉぉ~~!
「は・・はい・・」
そして私は、時雨王子から少し離れて座った。
「で、話ってなんだよ」
「えっと・・それはですね・・。あっ!下の名前を・・教えてください・・」
「健人」
「たっ・・健人さんですか・・いいお名前~~」
「そうかよ」
「あのっ・・時雨王子・・」
「ってかさ・・その王子ってのやめろよ」
「えっ・・」
「俺、王子じゃねぇし。そういうの嫌い」
「そ・・そうですか・・。ではなんとお呼びしたらいいのでしょうか・・」
「時雨でいいよ」
「しっ・・時雨さん!」
っていうか・・私の名前なんて興味ないのね・・
全く訊いてくれないし・・
「薄柿さ・・」
え・・
いま・・私の苗字をっっ!!
「あの・・なんで私の苗字を知ってるのですか・・」
「はあ?お前、カラオケの時、自己紹介してたじゃねぇか」
「ええええ~~~!お・・覚えてくださったのですか!」
私は思わず大声で叫んでしまった。
「お・・おい・・落ち着けよ・・」
時雨王子は、かなり引いていた。
「あのさ・・俺、言いたいことあんだけど」
うっっ!早くも話の核心を突いてきた・・
きっと・・「お前のこと嫌い、ブスは嫌い」とか言われるんだ・・
「な・・なんでしょうか・・」
「お前ってさ、どんな歌、歌ってもいいけどさ、あんな自虐的になるのやろめよ」
「え・・」
「ああいうの、見ててぜっんぜん、つまんねぇよ」
「・・・」
「で、お前の話ってなんだよ」
私は今まで、ああいうことして笑われたり受けたりしたことはあったけど、「やめろ」って言われたことない・・
いわば「ブス」を逆手に取って、なんとか自分を保ってきた・・
それは美琴も紬も同じだ・・
それを時雨王子は・・「やめろ」って・・
どういう意味なんだろう・・
「あの・・やめろって・・どういう意味ですか・・」
「どういうって、そのままだよ」
「え・・」
「お前な、自分の見た目をお前自身で落としてどうすんだよ」
「ど・・どういうことですか・・」
「卑下すんなっつってんだよ」
「卑下・・」
「とにかく俺は、ああいうの嫌いだから」
「そ・・そうですか・・」
「で、話は終わり?」
「い・・いえっ!あのっ!和樹王子に彼女はいるのですかっ!」
「だから王子じゃねぇっつってんだろ」
「あ・・はい・・」
「和樹は彼女、いるぜ」
「え・・や・・やっぱり・・」
「で、他に話は?」
「翔・・さんは・・どうですか・・」
「お前、誰かに頼まれたのか」
「い・・いえっ・・違います!」
「俺、関係ねぇから」
そう言って時雨王子は立ち上がった。
「あ・・あのっ!待って!」
「っんだよ、さっさと言えよ」
「ど・・どうして・・私と話をする気になったのですか・・」
「なんだよ、それ」
「だって・・私、優勝してないし・・」
「紫苑も言ってたけどさ、あんな大勢の前で告るって、ふつーはあり得ねぇよ。その勇気に免じてだよ」
「そ・・そうですか・・」
「んじゃ、俺、行くから」
「ま・・また・・電車で・・お話しても・・いいですか・・」
「いいけどさ、俺はお前の気持ちには応えらんねぇから。これは先に言っとく」
そう言って時雨王子は去って行った。
これって・・フラれたのよね・・私・・
いいじゃない・・
最初からわかってたことだよ・・
少しでも王子と話しできたことを・・喜ばなくちゃね・・
でも・・時雨王子っていい人だな・・
普通だったら、あんなイケメンなんだから、「やめろ」とか言わないはず・・
笑ってからかって・・バカにしたっていいはずなのに・・
私は美琴と紬の待つところまで、トボトボと歩いて行った。
「どうでありんしたか~~」
「小春~~」
そう言って二人は駆け寄ってきた。
「私、フラれましたぁぁ~~!」
「そりゃそうでありんすよ」
紬は平然とした顔でそう言った。
「げっ・・なに、それ」
「初めから上手くいくはずがないでありんす」
「そうやって。大事なのはこれからやん!」
「えええ~~まだ、なにかやるの?」
「これから策を練るでありんす」
「あ・・そういえば・・和樹王子ね・・彼女いるんだって・・」
「そ・・そうでありんしたか・・」
「なんやの~紬。そんなん当たり前やん。あのイケメンやで?おらん方がおかしいやろ」
「ま・・まあ・・」
「で・・翔王子は、わからなかったわ・・」
「おおっ、小春、翔王子のことも訊いてくれたんや」
「まあ・・ね」
「わからんっちゅうことは・・望みはあるってことやな。ま、別におったって不思議じゃないし」
「でもさ・・」
私は少し間をおいてポツリと呟いた。
「時雨王子ね・・自分を卑下するのやめろって言ってた・・」
「え?どういうことでありんすか」
「ほら、『呪い』のことよ。自虐的なことするなって・・」
「へぇ~」
「俺はそういうの嫌いだって」
「なんやあれやなぁ・・時雨王子って、喋り方は突き放した感じやけど、根は優しいんやなあ」
「うん・・私もそう思った」
「う~~ん、これはますます、ゲットするでありんすよ」
「えええ~~~無理だって!」
「そうだ!ちょっと二人とも、耳貸すでありんす」
私たちはそう言われ、紬の話を聞いた。
「ええええ~~~!そんなっ、ストーカーみたいなこと・・できない~~~」
「いや・・紬の案はええかも知れん」
「ええ~~美琴まで~~」
「じゃ、後日、早速決行するでありんす」
そんな~~無理無理っ!
王子の後をつけて、家を突き止めるだなんてぇぇ~~!




