六、カラオケ大会
「えー、ただ今よりカラオケ大会を開催します。僕は開催には反対したのですが、校内でアンケート調査を実施したところ賛成多数だったので、民主主義の精神に則って開催に至りました。それでは!出場者のみなさん、準備をお願いします」
なんか・・モヤシみたいに小柄で細い男子・・
ってか・・理屈っぽい・・
「あれはあかんな・・」
「そうでありんすな・・」
いやいや・・それは別にいいでしょ・・私たちと関係ないし・・
「小春、私らも行こか」
「あ、うん」
「小春、緊張してはダメでありんすよ」
「うん・・」
私はこの大勢の前で『呪い』を歌うことに、まだためらいがあった。
そりゃ・・うちの学校での文化祭では優勝したけど・・ここはE高校なのよ・・
絶対に引かれるに決まってる・・
「ねぇ・・曲・・変えちゃダメかな・・」
「なに言うてんの。もう決まってしもてるし」
「いや・・『呪い』って・・。違うと思うんだけど・・」
「往生際が悪いで、小春」
「ほら、もっと明るい曲っていうか。あ!ラブソングなんてどう?西野カナちゃんの『トリセツ』とか」
「あかんあかん。そんなん歌とたら、引かれるって。絶対に『呪い』やって」
「もう覚悟を決めるでありんすよ。『トリセツ』は、かわいい女子が歌う歌でありんす」
「うっ・・そうよね・・」
そういえば・・あれも一年前だった。
三人でカラオケへ行った時だったな・・
私が『トリセツ』歌ってる時に、飲み物を運んできた店員が・・バカにしたように笑ってたもんなぁ・・
あの時・・美琴がジュースを店員にぶっかけたんだった・・
そんなことも、美琴は忘れているんだろうけど・・
そうね・・今更・・あれこれ考えても仕方がないわ・・
『呪い』で行くしかないか・・
そして大会は始まり、和樹王子の番がきた。
きゃ~~・・和樹王子、素敵~~~!
やがて歌が始まり、観客の人たちはうっとり見惚れる者もいたり、目を瞑って聴いている者もいたり・・
あ・・静ちゃんって子も・・和樹王子を見つめている・・
うわっ・・その横で、たけちゃん王子と翔王子も聴いている・・
でもなんだろ・・和樹王子の、この切ない歌声は・・
たけちゃん王子・・なに・・その感慨深げな表情は・・
翔王子も同じだわ・・
っていうか・・この後、私よね・・
『呪い』よね・・
そして和樹王子は歌い終わった。
「私・・感激したでありんす・・」
紬はしみじみそう呟いた。
「ますます和樹王子が・・好きになったでありんす・・」
「ほんまやね。なかなか、ああは歌えんよ」
「えーでは、次の方、どうぞ」
私たちは司会のモヤシ男子に呼ばれた。
「お名前をどうぞ」
モヤシ男子は私にマイクを向けた。
「えっと・・薄柿小春です・・」
「歌うのは薄柿さんですね」
「はい・・」
「では曲名を言ってください」
「え・・あの・・」
「どうかしましたか」
「いえ・・えっと・・山崎ハコさんの『呪い』を歌います・・」
すると観客から「ええーー」という声が挙がった。
うわっ・・早くも引かれてる・・
はっ・・たけちゃん王子も・・引いてる・・
「では、どうぞ」
この司会者の男子は・・引いてない・・
そして美琴と紬が私を挟む形で、横に立った。
ええーーい、こうなったら、やりきるしかないよね!
そして私は、できるだけ無機質な声で歌った。
いいもん!引かれたっていいもん!
そして私は、藁人形に釘を打ち付ける真似もして見せた。
すると観客から「きゃあ~」という声が挙がった。
そうそう・・怖がって。
もっと怖がって~~~!
もう私はヤケクソだった。
やがて私は歌い終えた。
そこで紬が提案したことを、私は大きな声で口にした。
「あの!たけちゃん王子!」
するとたけちゃん王子は、私の方を見て唖然としていた。
「わ・・私っ!優勝したら・・たけちゃん王子!私と話しをしてください!お願いしますっ!」
すると観客から「おおお~~」という声が挙がった。
たけちゃん王子は、更に唖然としていた。
「わっ・・私・・あなたが好きですっ!」
つ・・ついに・・言ってしまった・・
「この大会に出たのも、そのためですっ!たけちゃん王子!あなたが好きです!」
「きみは・・時雨くんが好きなのか」
司会のモヤシ男子がそう呟いた。
時雨・・時雨くんっていうんだ・・
「はいっ!好きですっ!」
「そうか。わかった。時雨くん聞いただろう。彼女が優勝したら、話をしてやりたまえ」
「紫苑!うるせぇよお前!」
時雨王子はそう叫んでいた。
紫苑・・この男子は紫苑っていうんだ・・
「あ・・ありがとう・・」
私は紫苑に礼を言った。
「いや、いいんだ。それにしてもきみ、女性でありながら大した度胸だ」
「え・・」
「なかなか大勢の前で、愛の告白はできないものだぞ」
「はい・・」
「では結果を待っていてくれ」
そして私たちは、ステージから下りた。
「やったやん!小春。たけちゃん王子、唖然としてたけど、でもええやん」
「そうでありんすよ。人事を尽くして天命を待つ!まさしくこのことでありんすよ」
いや・・別に人事を尽くしてないけど・・
でも・・もう告ってしまったものは、仕方がない・・
観客たちは、私たちを好奇の目で見ていた。
「そうよね・・あんなブスが・・」
ふいにそう呟く声が聞こえてきた。
なによ・・いいじゃない。
ブスだって誰かを好きになるし、恋だってしたいのよ。
「そうよねぇ・・しかも『呪い』ってさ。告る時に歌う歌?あはは・・」
またそう聞こえた。
「告られた人・・呪われるんじゃないの・・おお・・こわっ」
あちこちからそういう声が聞こえてきた。
「ちょっと~、なんなん、あんたら」
美琴がそう言って迫った。
「な・・なによ・・」
「別にええんちゃうん。誰がどんな歌を歌おうが、どこで告ろうが、あんたらに関係ないやろ」
「なによ・・」
「小春は精一杯自分の気持ちを、勇気を振り絞って伝えたんや。それの何が悪いん?」
「うざいわね・・行こう」
そう言って私をディスっていた数人は、その場を去った。
「ありがとう、美琴」
「かまへんがな。それにしても、小春、立派やったで」
「そうそう。はっきりと愛の告白。素晴らしいでありんしたよ」
「そ・・そうかな・・」
「ま、結果を待つでありんす」
そして間もなく結果発表がされた。
「えー、優勝者は、外部からお越しの山田一郎さんです。おめでとうございます」
・・・
やっぱり・・ダメだった・・
仕方がないよね・・
「小春、やるだけのことやったんやから、それでええやん」
肩を落とす私に、美琴がそう言ってくれた。
「そうでありんすよ。これで終わったわけではないでありんすし」
「え・・」
「押しの一手、あるのみでありんす」
「でも・・もう無理かも・・」
「いやいや・・まだまだでありんす」
「おい・・」
えっ・・
ぎゃっ・・時雨王子!!
な・・なにっ・・
そう・・時雨王子が私に声をかけてきたのだ。
「な・・なんですか・・」
「話ってなんだよ」
「え・・」
「え・・じゃなくて、俺に話があんだろ」
「え・・いや・・あの・・そうですけど・・でも私・・優勝してないし・・」
「俺が話を聞くっつってんだよ。嫌ならいいぜ」
「え・・」
い・・今・・なんて言った・・?
「俺が・・話を聞く」って・・言ったよね・・
言ったよね~~~!
きゃあ~~~!
「あ・・あのっ・・はい・・話が・・時雨王子と話がしたいですっ!」
「じゃ、屋台の片づけ終わるまで待ってろ」
「は・・はい~~~はい~~~!」
そして時雨王子はその場を去った。
嘘でしょ・・これって夢なの?
時雨王子が・・私と話を・・
そして「待ってろ」とぉぉぉ~~~!
「小春・・小春!」
「えっっ!なにっ?美琴!」
「やったやん~~!」
そういって美琴は私に抱きついてきた。
「よかったでありんす~~!私も嬉しいでありんすよ~~!」
「紬ぃぃ~~!私、生きててよかった~~!」
私は時雨王子の優しさに、涙が溢れてきた。




