五、文化祭
「ここで見てても仕方がないでありんすよ」
「そうやな。買いに行くしかないで」
「だけど・・すごい人だかりよ・・」
私は、いまいち決心がつかないでいた。
「行こうでありんすよ。王子たちは私たちを知ってるのでありんすから」
「そうそう。もう他人やないねんから」
「いやいや、他人でしょ・・」
すると和樹王子は、店から離れ、かわいい女子と話をしていた。
「な・・な・・なんと。あの女子は誰でありんすか」
紬がショックを受けていた。
いや・・そりゃそうでしょうよ・・
彼女の一人や二人・・いるに決まってる・・
和樹王子と女子は、とても楽しそうに話をしていた。
「王子の仕事の邪魔をするとは・・ちょっと許せないでありんすね」
「え・・なにっ、紬」
私の不安をよそに、紬は和樹王子のところへ歩いて行った。
「ち・・ちょっと!紬~~!」
「紬~~!早まったらあかん!」
私と美琴も後を追った。
和樹王子は紬を見つけ、「あっ」というような表情をしていた。
わあ~~王子、気がついたわ・・
「和樹王子・・焼きそばを買いに来たでありんす」
「えっ・・あ・・そうなんだ。ありがとう・・。でも、王子って・・」
「私は!王子が焼いた焼きそばを食べたいのでありんすよ~!」
「ああ・・そうなんだ。わかった・・」
和樹王子は「静ちゃん、後でね」と言い、再び「仕事」についた。
王子と一緒にいた女子は、驚いた表情で紬を見ていた。
静ちゃんって言うんだ・・このかわいい女子・・
「こんにちは・・」
静ちゃんは、ちょっと引き気味だったが、紬に挨拶をした。
「こんにちはでありんす」
「はあ・・どうも・・」
「ちょっと・・紬・・。焼きそば、並ばなくちゃダメじゃない・・」
「ああ、そうでありんした」
紬は列に並んだ。
「静ちゃんって、和樹王子の彼女なん?」
うわあ~~ストレート過ぎる~~美琴。
「えっ・・」
「もしちゃうんやったら、ちゃうって言うてな」
「いや・・あの・・えっと・・」
「ちゃうんやったら、私ら遠慮せぇへんし」
「まあまあ・・美琴。静ちゃん困ってるし・・」
「ごめんなさい・・失礼します・・」
静ちゃんはそう言って、私たちから離れた。
「なんや、はっきりせぇへん女子やな。これなら紬は何とかいけるかもな」
「えぇぇ・・いけるのかな・・」
「物事、なんでもはっきりせなあかん!あんなフニャフニャな女子はあかんで」
「でも・・和樹王子、楽しそうだったよ・・」
「いやいや、あかん。紬は押すべきやな」
「買ってきたでありんす~~」
紬は焼きそばを持って、戻ってきた。
「小春も美琴も買ってくるでありんすよ~」
「あ・・ああ・・そうね」
「小春、行こっ」
そして私と美琴は列に並んだ。
「きみたちも来てたんだね」
店の前に立っている翔王子がそう言った。
きゃ~~翔王子!かわいいっ!
「は・・はいっ!」
「翔王子!後で話があるんやけど!」
げっ・・美琴・・まさか、告る気・・?
「えっ・・王子・・?」
翔王子は明らかに引いていた。
「そう!翔王子、私らあっちで待ってるから、後で来てほしいんやけど!」
「あ・・えっと・・」
「わかった?来てな」
二人がそう話しているのを、耳で聞きながら、私はたけちゃん王子に見惚れていた。
なっんて素敵なの~~!
電車で見るたけちゃん王子も素敵だけど、こうして汗を流しながらせっせと働く王子も、より一層輝いてるわあ~~。
「こ・・こんにちは・・」
「おう」
たけちゃん王子は、すでに私に気がついていたようで、驚きもしなかった。
「大変ですね・・」
「別に」
うっ・・ううう・・「別に」・・か。
「あの!お店は何時に終わるのですか!」
一か八か・・私も大胆にそう口走ってしまった。
「はあ?なんだよ」
「えっと!終わるまで待ってますから・・!」
「はっ?待たなくていいし」
「え・・」
「午後もあるし、待たなくていいっつってんだよ」
「そ・・それは・・帰れという・・ことですか・・」
「そうだよ」
「そ・・そうですか・・」
そして私と美琴は、焼きそばを受け取り、紬のもとへ行った。
「帰れって言われた・・」
「小春~~、気にしたらあかんって」
「だってさ・・帰れって・・」
「小春」
「なに・・紬」
「どうやら、この後、カラオケ大会が行われるでありんすよ」
「カラオケ大会・・?」
「そうでありんす」
「それがどうかしたの?」
「私、考えたでありんすよ。カラオケ大会で勝負したらどうでありんすか」
「あっ!それや、それっ!」
「なっ・・なにっっ?」
「小春~~。なに言うてんの。あんた、めっちゃ歌上手いやん。カラオケ大会に出ぇな」
「ええ~~~!」
私は驚きのあまり、箸を落としてしまった。
「あらあら・・小春はあわてん坊でありんすな」
「いやいや・・大会に出るって、あり得ないんだけど」
「私には、ある考えが浮かんだでありんすよ」
紬はそう言って、その考えとやらを話した。
「えええええ~~~!そっ・・そんなっ!ないって・・ないって・・」
「いや・・ここは一発勝負で決めるでありんすよ」
「それはええわ!妙案やわ」
「美琴まで~~!」
「で・・これには絶対条件がありんすよ。必ず優勝することでありんす!」
「・・・」
「いいね、小春。優勝しかないでありんすよっ!」
ぎゃあ~~・・紬はなんて大胆なことを・・
どうしよう・・出るべきか否か・・
それからほどなくして、カラオケ大会出場者を大会役員が募っていた。
「小春・・申し込むでありんすよ」
「でもっ・・」
「小春~~、今更何を。あんたの実力、見せたりぃな」
「実力って・・」
「で・・なにをエントリーするでありんすか」
「え・・」
「小春の十八番って、あれやったやんな、ほら・・」
十八番か・・
私はそう考えながら、遠くを見ていた。
そう・・あれは一年前のことだった・・
私たち「ブストリオ」は自虐ネタとして、山崎ハコの『呪い』を学校の文化祭で歌ったのだ。
それがものすごく好評で・・っていうか・・実際には逃げ出す人もいた始末で、私はダントツで優勝したのだ。
歌は私が歌い、美琴と紬は、私の両側で無表情に立っているだけだったが、これが受ける一つの要因でもあった。
ええ~~・・あれを再び歌うのか・・
しかもっ!たけちゃん王子の前で!
ヤダ~~、絶対に引かれる・・
「もう決断する時でありんすよ」
「そうやって!小春、申し込むべきやって」
「え・・そうなのかな・・」
「もう~~、はっきりせんなっ!私が申し込んでくるわ!」
そう言って美琴は、強引に申し込みに行った。
「んで・・小春、わかってるでありんすな」
「え・・ああ・・うん・・」
「必ず言うでありんすよ」
「うん・・」
私は遠くから、たけちゃん王子を見た。
王子・・絶対に驚くだろうな・・
逆効果になったら最悪だ・・
「ちょっと、ちょっとおおお~~」
美琴が慌てて戻ってきた。
「どうしたの?」
「なんとっ!和樹王子もエントリーしてるんや~~」
「えええっっ!!」
和樹王子~~~!マジですか~~!
しかし・・意外といえば意外かも・・
結構、大人しそうな王子なのに・・歌が好きなのかな・・
「なんですと!和樹王子が出るでありんすか!」
紬も驚いていた。
「そ・・それでっ!和樹王子は何を歌うでありんすか!」
「それがさ~~・・アンジェラ・アキの『手紙、拝啓~十五の君へ』やねん」
「おおぉぉぅぅ・・なんとっ・・心に残るメッセージソングでありんすな・・」
「手紙・・選曲が・・私と違うね・・」
和樹王子~~~!なんて素晴らしいの~~!
でも・・歌詞を考えると・・意味深だわぁ・・
和樹王子・・過去になにかあったのかしら・・
そしてやがて・・カラオケ大会の時間が訪れた。




