四十、美琴と紬
「小春、一人暮らしはどうや?」
お昼休み、美琴がそう訊ねてきた。
「うん・・まあね・・」
「なんやの~、元気ないやんかいさ」
「バイトはどうでありんすか」
「うん・・」
「小春、どうしたでありんすか」
「私・・あまり役に立ってないんだぁ・・」
「は?どういうことなん?」
「覚えが悪いっていうのかな・・。迷惑かけてばかりで・・」
「っんなん、まだ一週間やろ」
私がバイトを始めて、一週間が過ぎていた。
「そうなんだけどね・・」
「そんなん大丈夫やって」
「時雨王子は、なんと言ってるでありんすか」
「時雨さんも気にすんなって言ってくれてるんだけどね・・」
「元気出すでありんすよ~小春」
「そうやで~」
「せっかく日本に残れたのに、小春がそんなんでありんしたら、私たちも辛いでありんすよ」
「うん・・ごめん・・」
「あっ!そやっ。小春の家に泊まりに行ってもええ?」
「おおお~、それはいいでありんすな」
「えっ!来てくれるの?」
「っんな、あったり前田のクラッカーやがなっ!」
私は二人が泊まりに来てくれることで、幾分が気持ちが明るくなった。
「来て来て~~」
「よっしゃー、ほな、早速、今日の帰りに行こか」
「えっ・・そんな突然で大丈夫なの?」
「私は家に電話するわ」
「紬は?」
「私もするでありんす」
「やったぁ~~!嬉しいな」
こうして美琴と紬が、泊まりに来てくれることになった。
そして放課後になり、私たちは家に向かっていた。
「そういや、小春。ご飯とかはどうしてんの?」
「うん・・出来合いの物とか・・ばっかりで・・」
「あかんがなっ!」
「えっ・・」
「ちゃんと作らな」
「そうでありんすよ。栄養が偏るでありんすよ」
「わかってるんだけど・・私、作ったことがなくて・・」
「もう~~しゃあないなっ。私が教えたる!」
「えっ!美琴って料理できるの?」
「バカにしたらあかんで。うちさ、両親が仕事で忙しいやろ。だから妹のご飯、私が作ったりしてるんやで」
「ええええ~~~!そうだったんだ・・」
「それは私も初耳でありんした・・」
「ほな、食材とか家にないんやな?」
「うん・・」
「ほな、スーパー寄ろか」
そして私たちはスーパーに寄り、食材を購入した。
そのお金は全部、私が出した。
家に到着し、美琴は早速キッチンに立って料理をし始めた。
私はそれを横でずっと見ていた。
アスパラを豚肉で巻いて・・焼くのね・・ふむふむ。
最初にアスパラを茹でてて・・なるほど・・
「美琴、ちょっと待って」
「なんやの」
「ノート取ってくる」
私は鞄からノートを取り出し、鉛筆を持って美琴の元へ戻った。
「アスパラって・・何分茹でたらいいの?」
「まあ~・・アスパラの太さにもよるけど、五分くらいやな」
「五分ね・・なるほど・・」
「んで、これが茹であがったら、豚肉で巻くんや」
美琴はアスパラを半分に切り、何本かを束ねて豚肉で巻いていた。
「それでな、後は炒めるだけや」
「へぇーそうなんだ」
「味付けは、醤油と砂糖で甘辛く、もええんやけど、私は塩コショウが好っきゃねん」
「なるほど・・」
私はそれらを全部メモした。
「小春、レタスをお皿に乗せて」
「あ・・はいはい・・」
私は袋からレタスを取り出し、それをちぎってお皿に乗せようとした。
「あかんあかん。洗わな」
「え・・洗うんだ・・」
「水でササッと洗ろて」
「はい」
「水切り、ちゃんとしぃや」
「はい」
「ほな次や」
美琴はそう言って、人参とシイタケと高野豆腐と子芋を取り出した。
「高野豆腐は水で戻すんやで」
「へぇー」
「ボールないん?」
「あ・・えっと・・」
私は流し台の下からボールを取り出した。
美琴はそれに水を入れ、高野豆腐を戻していた。
すると、ほどなくして高野豆腐は大きく膨らんできた。
「わあ~~・・こんなになるんだ」
「そやで」
そして美琴は慣れた手つきで、それぞれの食材を適当な大きさに切り、鍋に水を入れて食材も入れていた。
「味付けやけどな、出汁、醤油、みりん、料理酒や。まあ・・砂糖ちょっとだけ入れてもええけどな。そこはお好みや」
「なるほど・・」
「一旦煮立ったら、後は弱火で三十分くらい煮たらええかな」
「なるほどぉ~」
私はもう、夢中になってメモをした。
「えっと・・豚肉のアスパラ巻は・・焼かないの?」
「アホかっ。今から焼いたら冷めるっちゅうねん」
「ああ・・そっか・・」
「煮物が出来上がってからで、ちょうどええねや」
「なるほど~!」
「小春・・」
「なに・・紬」
「ご飯は炊いたのでありんすか」
「あああ~~~!忘れてた!」
「あはは、今から炊き」
「わ・・わかったあ~~」
美琴って・・すごいな・・
まるで主婦みたいだわ・・
「それにしても・・美琴にこんな特技がありんしたとは・・」
「特技ちゃうっちゅうねん」
「いやいや・・立派な特技でありんすよ」
「そうだよ~。もう尊敬しちゃうわ」
「アホな。こんなん慣れやって」
「そうなの・・?」
「毎日のようにやってたら、嫌でも覚えるっちゅうねん」
そっか・・
そうよね・・
私もバイト・・きっと慣れるよね・・
毎日の積み重ねが大事なんだね・・
「美琴・・今度、ハンバーグの作り方、教えてくれない?」
「ええけど」
「やった~~!時雨さん、ハンバーグ好きなの」
「そうかいな~。ほな、和風ハンバーグっちゅうのん、教えたるわ」
「おおお~~和風~~」
「時雨王子、喜ぶでありんすな」
「うんっ!」
なんか・・元気出てきた。
やっぱり美琴と紬は・・私にとってかけがえのない友達だわ・・
そして私たちは夕食も済ませ、テレビを観ながら寛いでいた。
「小春・・」
「なに・・?紬」
「ところで・・時雨王子は・・部屋に来ないでありんすか・・」
「え・・なによ、それ」
「いや・・別に・・」
「なんかね、お風呂に入りに来てって言っても、そんな軽はずみなことできるか!って言われちゃってね」
「ほぅ~~・・」
「私・・安易に誘っちゃったんだけど、時雨さん・・私の母に約束したからって言って。私を守るってね・・」
「まさしく王子!これぞ王子やな!」
「え・・」
「貧乏とか風呂がないとか、ボロアパートとか関係あらへんっ!これぞ本物の王子やっ!」
「そんなにはっきり言わなくても・・」
「いやっ!私、時雨王子、見直したわ」
「ほんとでありんすなぁ・・でも・・時雨王子・・辛いでありんしょな・・」
「え・・辛いってなによ・・」
「みなまで言わせるでありんすか・・」
「な・・なによ・・」
「まさに・・餌を目の前にして・・お預けを食らう犬のようでありんす・・」
「い・・犬って・・。んで・・餌って・・」
「例えは悪いでありんしたが、そういうことでありんすよ」
「そやな~。おっさんならともかく、十八やで!十八!そらもう・・鼻血出まくりやがな」
「あのね~~、時雨さんはそんな人じゃないの」
「バカをお言いでないよ・・」
「紬・・おかみさんになってるよ・・。ありんすはどうしたでありんすか・・」
ぎゃ・・私までつられちゃって・・なに言ってるんだろう・・
「小春は子供でありんすなぁ・・。時雨王子は耐えているでありんすよ」
「そ・・そんなことないって!」
「まあ・・こればっかりは・・成り行きに任せるしかないでありんしょ・・」
「成り行きって・・そんなこと絶対にあり得ない!」
まったくもう~~・・
まあ・・この類の話になるとは思ってたけど・・
時雨さんは絶対にそんな人じゃないのよ。
「小春はどうなんよ」
「え・・どうって・・」
「その気がないんか」
「その気って・・そんな・・ないって!」
「王子の胸に抱かれたいと思わないでありんすか」
「む・・胸って・・なに言ってるのよ」
「胸は胸でありんす」
「そ・・そんなっ・・ないって・・」
「もし・・王子が求めてきたらどうするでありんすか」
「も・・もっ・・求めてって・・なに言ってるのよ~~」
「求めては求めてでありんす」
「あのねっ!話が飛躍しすぎなのっ!」
「え・・ということは・・キスもまだでありんすか」
「えっ・・」
キスって・・紬はもう~~・・なに言ってるのよ~~!
「まだなん?」
「美琴まで~~」
「それくらい教えてぇな」
「そっ・・そんなことっ・・」
「私、料理教えたったやん~。give&takeやん?」
「それって・・こんな時に使う意味?」
「そやで」
「ったく・・まだよ・・」
「えっ!そうなん?」
「まだでありんしたか・・」
「別にいいじゃない!そんなことしなくったって・・時雨さんは時雨さんだもん・・」
「まあ、やるとしたらやっぱりこの部屋やな」
「やるって・・」
「そうそう。決行の場所はここでありんす」
「決行って・・もう・・二人とも・・」
「やったら言うんやで」
「え・・」
「私らの今後の参考にせなな」
「参考って・・」
「時雨王子と小春が・・あら~~・・意外と照れるでありんすな」
「変な想像しないで~~!」
というように・・話はもうそっち系に傾いてしまったけど、私は改めて、二人の存在に救われる思いがしていた。




