四、ブスで悪いか
「ふっわ~~、ちょっとビビったでありんす」
紬は電車を降りて、そう言った。
「でも和樹王子と話せたじゃない~」
「あれは・・話せたというレベルでありんすか」
「ええやん。とにかくきっかけが大事やん」
「まあ・・そうでありんすな」
「それと美琴も、翔王子と話せたじゃない~」
「まあね・・でもあれでよかったんやろか」
「ちょっと押しが強かった気がするけど、いいんじゃない?」
「それより!今月末に、文化祭があるって言うてたやん」
「そうそう!言ってたよね」
「屋台やるとか、言ってたでありんすな」
「なあ、行ってみぃひん?」
「えっ・・!」
私は驚いて、思わず叫んだ。
「びっくりすることないやん。これは絶好のチャンスやで」
「確かにそうでありんす。電車の中は狭いし、ろくに話もできないでありんすが、文化祭となると話し放題にありんすよ」
「そうだけど・・いいのかな・・」
「なに言うてんのよ~。ここはチャンスやん~」
「小春・・。チャンスは待ってても来ないでありんすよ。だけど今回は向こうからそのチャンスをくれたのでありんすよ。行かずしてどうするでありんすか」
「そっか・・そうだよね!」
そして私たちは、E高校の文化祭へ行くことに決めた。
文化祭の一週間前・・
私たちは街に出て、新しい服を買うことにした。
「ねぇ、予算いくらくらい?」
「私は一万円やで」
「そっか。紬は?」
「私も同じでありんす」
「だよね。それくらいが相場よね」
私は余裕を持って、二万円持って来ていた。
「服だけにするの?」
「どういうことなん」
「いや・・お化粧品とか・・」
「ああ~~、それな。でも知らんしなぁ・・」
「それなら美容部員みたいな人に、教えてもらうでありんすよ」
「美容部員?」
「ほら・・お化粧してくれる人が店頭にいるでありんしょ」
「ああ~・・なるほど・・」
「そやな・・まあ試しにしてもらうのも、ええかもな」
それから私たちは、女子向けの服屋へ行き、それぞれ試着した後、買った。
「私のサイズはなかったでありんした」
「紬・・。大丈夫?」
私は少し気を使った。
「大丈夫でありんす。私は化粧品を買うでありんす」
「そっかあ。まあしゃあないな」
「私も化粧品、買うからね」
「いや、あまり無駄遣いしなくても、私のを使えばいいでありんすよ」
そして私たちは、大型店舗の中にある、化粧品売り場へ行った。
「いらっしゃいませ」
若くてとても綺麗なお姉さんが迎えてくれた。
「あの~・・私たち化粧したことがないんですけど・・」
「そうでございますか。えっと・・今日はされます・・?」
「あ・・はい。化粧の仕方を教えてほしいんです・・」
「わかりました。では、ここにかけてください」
お姉さんは、カウンターの前に置いてある椅子に座るよう促した。
「誰が座るの・・?」
「そりゃ言いだっしぺの、小春やん」
「そうでありんす」
「そっか・・じゃ・・」
私は椅子に座り、お姉さんは化粧品を手に私の前へ立った。
次から次へと、色々と塗りたくられ、やがて仕上がった。
「鏡をどうぞ」
お姉さんは私に鏡を差し出してくれた。
どれどれ・・
「ぎゃっ・・」
私は自分の顔を見て、驚いた。
な・・なに・・これ・・
まるでお化けじゃない・・
私の顔は真っ白になり、頬はピンク、唇は真っ赤・・アイシャドウは真っ青・・
なにこれ・・
心なしか、お姉さんは笑っていた。
「わ・・笑うなんて・・酷いじゃないですか・・」
「あ・・ごめんなさい。お化粧っていうのは、最初は見慣れないものなのよ。違和感っていうのかな・・ぷぷ・・」
「また笑ってる・・」
「いえ・・違うの。ち・・違うの・・ぷぷ・・あ、ダメ・・ごめんなさい・・あ・・あはは・・あははは」
お姉さんは我慢できなかったのか、大声で笑った。
「小春・・行こ・・」
美琴が私の手を引っ張った。
「でも私・・ヤダ・・。この顔で帰りたくない・・」
「店員さん、小春の化粧を落としてくれん?」
「あら・・そうですか・・」
「はよして!」
美琴はお姉さんにせっついた。
やがて私はスッピンに戻った。
「店員さん、酷いな。ここでは買わんわ!」
美琴は捨て台詞を吐いて、歩いて行った。
私と紬も後に続いた。
「ったく・・なんやあの店員」
外に出て美琴がそう言った。
「酷いでありんした」
「もういいよ・・私、平気だから」
「まあ、化粧なんかせんかったって、別にええやん」
「そうそう。そうでありんす」
「うん。そうだよね!」
「私、化粧品買ってないから、そのお金でなにか食べようでありんすよ」
「え・・もったいないよ・・」
「いや。私が食べたいのでありんす。小春と美琴に奢ってあげるでありんす」
そう言って紬はファミレスに入った。
そして私と美琴は、紬に甘えてご馳走になった。
「なんでも注文していいでありんすよ」
「そっかあ~・・んじゃ・・ステーキでもいい?」
「当然でありんす」
「じゃ~私は、特上ステーキでええ?」
「なんでも来いでありんす」
紬は私のことを心配して・・
きっと私が傷ついていると思ってるのね・・
ありがとう・・紬。
私たちは半ばやけ食いして、店を出た。
「紬・・ありがとう。今度は私がご馳走するからね」
「ほんまほんま。ありがとうな。紬」
「なにを言うでありんすか。友達でありんしょ」
「うん・・」
「ったく~~・・ブスで何が悪いねんっ!」
美琴は帰る道すがら、そう叫んだ。
「そうでありんすよ~。ブスだって女でありんすよ~~!」
「そうだーー!化粧がなんだって言うんだ~~!」
街を歩く人たちは、私たちを笑いながら見ていた。
それでも私たちは、引け目を感じることなく、明るく笑い飛ばした。
そして一週間後・・
E高校文化祭の日がやってきた。
私たちはいつものように電車に乗り、E高校前で降りた。
結局、服もいつも着ている物を選んだ。
それは美琴も同じだった。
紬はサイズがなくて買えなかったので、私たちは紬を思いやってそうした。
「さあ~~いっちょ張り切って参るでありんすよ~」
「おうーー!王子さまゲットするでぇ~~!」
「私も~~!たけちゃん王子のもとへいざ!」
校門近くまで来ると、大変な人で賑わっていた。
わあ~~・・人気あるんだなあ・・
トップの進学校だし・・そりゃそうよね・・
「小春・・屋台を探すでありんすよ」
「うん、そうだね!」
私たちは校門の中へ入り、早速、王子たちを探していた。
「あっ!あれちゃうのん?」
美琴が指をさしてそう言った。
「あ・・ほんとだ・・」
「おお~~我らが王子さまでありんすな~」
「よっしゃー行くでっ!」
美琴を先頭に、私たちは王子たちの屋台の近くまで行った。
おおぉぉぅぅ・・焼きそばの屋台だ・・
きゃ~~美味しそう~~。
王子三人は、頭に鉢巻をつけて、すごく手慣れた様子で焼きそばを焼いていた。
「はーい、いらっしゃーい。美味しい焼きそばですよ~」
翔王子が店の前で、呼び込みをしていた。
きゃ~~かわいいっっ!
たけちゃん王子は・・パックに詰める担当なのね~。
和樹王子が焼いてるのね~~。
その姿を私たち三人は、遠巻きに見惚れていた。




