二十一、次の約束?
「飯でも食うか?」
私たちは遊びを堪能し、気がつくとお昼もとっくに過ぎていた。
「そうですね。時雨さん、なにが好きですか?」
「ハンバーガーにしねぇ?」
「はい!」
そして私たちは、園内にあるバーガーショップへ行き、ハンバーガーとフライドポテトとコーラを注文し、テーブルに着いた。
「遊園地に来るとわかってたら、私、お弁当作ってきたのに」
「弁当さ、俺って毎日、自分で作ってんだぜ」
「わあ~、すごいですね」
「別にすごくねぇし」
「そうですかねぇ~、すごい思いますよ」
「そうかー?俺にとっちゃ普通のことだよ」
「時雨さんの作ったお弁当、食べてみたいです」
「はっ。マジかよ。あんなクソ不味いのをかよ」
「好きな人が作ったお弁当なんて、不味いはずがありません」
「え・・」
ぎゃっ・・私ってなにを言ってるのかしら・・
「お・・お前さ、お前も弁当作るのかよ」
なんだか時雨王子・・ちょっと変・・?
「いつもは母が作ってくれるのですが、デートの時は私が作るって決めてるんです」
「そ・・そうかよ・・」
「今日は、そのチャンスだったのにな・・」
「っんなもん、いつでも作ればいいじゃねぇか」
「そうですかねぇ。自分のために作ってもなぁ・・」
「あのさ・・」
「なんですか?」
「いや・・その・・さっきは、ありがとな」
「え・・」
「ジェットコースターでよ・・」
「ああ~~、いえ~」
「俺さ、親戚と遊園地行ったっつっただろ」
「はい」
「そん時・・初めてジェットコースターに乗って、すごく怖かったんだ。でもな、そん時、隣には親戚のババアが座っててよ。俺が怖がってるのを見て笑いやがったんだ」
「え・・」
そんなことがあったんだ・・
親戚のおばさんに、冷たくされたのね・・
「あれでトラウマになってよ・・」
「そうだったんですね・・。だから怖かったんですね」
「まあ・・な・・」
「そんなことも知らずに・・私ったら・・すみません」
「お前、関係ねぇじゃん」
「はい・・」
「でも、手を握ってくれて、俺、ちょっと安心した・・」
「・・・」
「ありがと」
時雨王子は恥ずかしそうに言った。
「時雨さん」
「なんだよ」
「私でよかったら、いつでも一緒に乗りますから!」
「え・・」
「ジェットコースターって、ほんとは楽しい乗り物なんです。だから時雨さんにも楽しんでもらいたいです」
「うん・・」
「笑って乗りたいですよね」
「んじゃ、お前はお化け屋敷を楽しめよ」
「えええ~~~!それは無理無理!絶対に無理~~!」
「あはは。お前、めっちゃ叫んでたもんな」
「だってほんとに怖いんですから~~!」
「俺が手を握っててもか・・?」
え・・
今の・・どういうこと・・?
どういう意味なの・・
「時雨さん・・今のって・・」
「ほら~ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと食えよ」
「え・・?あ・・はい・・」
今のって・・今のって・・
また遊園地へ行こうってことよね・・?
私・・勘違いしてないよね・・
ダメだ・・嬉しくて叫びそう・・
きゃあ~~~~って言いたい!
またデートできるんだよね~~~~!?
これって夢・・?
夢じゃないよね・・?
現実だよね・・
私は自分の頬をつねってみた。
イダダダダ・・
「はっ、お前、なにやってんだよ」
「え・・いや・・その・・夢じゃないかと・・」
「あはは。バカじゃねぇのか」
「あのっ!今度はお弁当作ってきます!」
「ああ」
ああって言ったよね・・言ったよね~~~!
きゃあ~~~!もう死んでもいい!
あああ~~・・諦めなくてよかった!
また時雨王子とデートができるぅぅぅ~~~!
それから私たちは食事を終え、園内を歩いていた。
すると、周りの人が私たちを見て、なにかヒソヒソと話していた。
時雨王子のイケメンぶりを、話してるに違いないわ・・
で・・横にいるのがブスの私・・
不釣り合いなカップルだと思ってるんだろうな・・
「・・ねぇ・・私もそう思ったわ・・。あんなのありなの?」
「あの男子・・物好きよねぇ・・」
「そうそう・・世の中、もっとかわいい子、いくらでもいるのにね」
女子の集団が、そう話しているのが聞こえた。
やっぱりだ・・
きっと時雨王子にも聞こえてるはず・・
私は思わず下を向いてしまった。
「お前、顔を上げろよ」
「え・・」
「下を向くなっつってんだよ」
「は・・はい・・」
それでも私は、顔を上げられなかった。
「んでさ・・浴衣なんて着ちゃって。似合ってると思ってるのかしらね」
「あーあ。もったいないわ。私が代わりたいくらいだわ」
「ほんとよねー。鏡を見なさいって感じよねー」
私はすぐにでも逃げたい心境にかられた。
なんだか・・自分が情けない・・
時雨王子に申し訳ない・・
「小春。あっちへ行こうぜ」
そう言って時雨王子は私の手を引っ張り、女子たちと離れたところへ歩いて行った。
今・・小春って言った・・?
薄柿じゃなくて・・小春って・・
「あの・・」
「っんだよ」
「その・・小春って・・」
「はっ?お前の名前、小春ってんだろ」
「そ・・そうですけど・・」
「なんか問題でもあんのか」
「いえ・・ない・・です・・」
「でさ。人がなにを言おうが、堂々としてろよ」
「・・・」
「ぜってー下を向くな」
「・・・」
「わかったか!」
「・・・」
時雨王子とデートできるのは、ほんとに、めちゃくちゃ、死にそうなくらい嬉しいけど・・
周りの人の目は・・着いて回るのよね・・
気にしたくないけど・・やっぱり気になる・・
お洒落したって・・顔は隠せないもん・・
「俺は、お前がそんなだと、今後はもう会わねぇからな」
「えっっ!」
「っんな、下を向いて歩くようなやつと一緒にいても楽しくねぇからな」
「・・・」
「もう俺は、二度と下を向くなって言わねぇからな」
「・・・」
「わかったか!」
「は・・はい・・」
そうだよね・・
顔を上げようが・・下を向こうが・・私であることに変わりはない・・
それなら・・顔を上げる方がいいに決まってる・・
なにより・・時雨王子に幻滅してほしくない・・
一緒にいて、楽しいと思ってもらいたい・・
「でさ、小春」
「はい・・?」
「またお化け屋敷入る?」
「げ~~~!嫌ですぅぅ~~!無理無理っ!」
「あははは」
「じゃあ、ジェットコースターに乗りますか?」
「いや・・それは・・」
「あははは」
「てめぇ・・笑いやがったな!」
「時雨さんだって笑ったじゃないですか~~」
「くそっ・・ぜってー克服してやる!」
「おお~~言いましたね!約束ですよ!」
「じゃ、お前もな。お化け屋敷」
「わ・・わっかりましたよ・・」
「あはは~こりゃ楽しみだぜ」
「なんですかぁ~もう~」
そうよね・・
こうやって普通に話せばいいのよ。
ありのままの自分でいいじゃない!
時雨王子も笑ってるし、それで十分よね。
ほどなくして私たちは遊園地を後にした。
「時雨さん、今日はとても楽しかったです。本当にありがとうございました」
「俺も楽しかったよ。ありがとな」
「あの・・よかったら携帯の番号を・・教えてくれませんか」
「うん」
それから私たちは互いの番号を教え合った。
「んじゃ、また連絡すっから」
「はい!私も連絡しますね!」
「気をつけて帰れよ」
「はい。時雨さんも」
そして私たちは別れた。
ああ~~・・なんて幸せな一日だったんだろう・・
こんな日が来るなんて・・思いもしなかった・・
そして、また会えるなんて・・
神さま・・お願いします・・
もう少し・・私に夢を見させてください・・




