二、痴漢、アカン!
次の日も同じ時間帯の電車に乗り、同じ扉付近に私たちはいた。
「もうすぐでありんす~」
「あかん・・ドキドキしてきた」
「多分さ・・顔は覚えてもらってたと思うんだ。ほら・・私たち個性的だし」
「ほんまやな。そこは十人並みの子らとは違うわな」
「親に感謝しないと、でありんす~」
ほどなくして駅のホームに到着した。
来たああぁぁ~~
本日も爽やかでございますぅぅ~~たけちゃん王子~~
そこでたけちゃん王子は、私に気がついて「あっ」という表情をしていた。
きゃ~~やっぱり覚えてくれたんだわ~~
「小春・・よかったやん」
「もう手中に収めたようなものでありんすな」
「そっ・・そかな・・」
いよーーしっ。話しかけるぞ!
すると誰かが私のお尻を触ってきた。
え・・嘘でしょ・・痴漢?
「美琴・・」
「なに?どうしたん」
「ち・・痴漢かも・・」
「げっ、マジで?」
美琴は私の後ろに立っている人を確認した。
「小春・・ハゲ親父が立ってるけど、こいつなん?」
「わ・・わかんない・・でもお尻触られてる・・」
およ・・?待てよ・・このシチュエーションって・・
絶好のチャンスじゃないの?
私がたけちゃん王子に助けを求めて、たけちゃん王子が痴漢を退治してくれるのよ・・
ひゃっは~~、痴漢ジジイ、ありがとう!
そして私は、たけちゃん王子に視線を送った。
お願い~~こっち向いて~~
するとたけちゃん王子は私の熱い視線を感じたのか、こっちを見た。
や・・やったーー!今だ!
「あ・・あのっ・・」
「ちょっと~~、なにをするでありんすか!か弱い女子高生のお尻を触るなんて、不届きものでありんすよ~~!」
「ほんまや!ハゲジジイ!この手はなんや!」
え・・あの・・違うんですけど・・
美琴と紬は、あろうことかハゲ親父を攻撃したのだ!
ハゲ親父は美琴に手を掴まれ、真っ赤になって下を向いていた。
たけちゃん王子を見ると、少し笑っていた。
王子さま・・その笑顔はなんですか・・
どういう意味の笑顔なんでしょうか・・
「痴漢か!この親父。次の駅で下りろよ」
なんか全然関係ない中年男性が、ハゲ親父の腕を掴んでいた。
あの・・あなたじゃないんですけど・・
それは、たけちゃん王子の役目なんですけどぉぉ~~・・
「きみ、大丈夫か?」
中年男性が私を心配してくれた。
「はい・・大丈夫です・・」
「きみも次の駅で下りなさい。僕が着いて行ってあげるから」
「え・・」
なんか・・ぜっんぜん違う展開になってるんだけど・・
たけちゃん王子を見ると、他の王子さまたちと向こうを向いて話していた。
げ~~
「小春、大丈夫?」
「美琴・・」
「な・・なんなん?」
「バカ・・」
「は・・?」
そして次の駅に到着し、私たち三人と中年男性とハゲ親父が下りた。
「もう~~なに触ってくれてんのよ!」
私は怒りを爆発させた。
「す・・すみません・・」
「すみませんじゃないわよ!何もかも台無しじゃない!」
「え・・」
あっ・・しまった・・私、変なこと言っちゃったかも・・
「ちょっときみ、ひょっとしてさっきのってお芝居・・?このおっさんとグルなのか?」
中年男性が怪訝な顔をして、そう言った。
「いや・・あの、違うんです。ほんとに痴漢されたんです・・」
「じゃあ台無しってなに?」
「そ・・それは・・」
「小春・・なに言うてんの・・?」
「美琴・・違うんだったら・・」
「どうしたでありんすか」
「違うの!これにはわけがあって・・」
「なんか怪しいな・・」
中年男性は、またそう言った。
「そもそも、きみみたいなブスに、痴漢するなんておかしいんだよね」
「え・・」
「だって意味ないもん」
「失礼な!なによ!」
「このオジサンに頼んだんじゃないの?」
「ちょっ~~と、待ったりぃな」
美琴が怒りを露わにした。
「ブスやから痴漢はされんやと?聞き捨てならんな」
「そうでありんすよ~、セクハラでありんす~」
「ってか、きみたちもだよ。まあ、揃いも揃って・・」
「なにが言いたいでありんすか~」
「もうこのオジサン、解放してやってもいい?」
中年男性がそう言い、ハゲ親父は口をポカーンと開けて見ていた。
「あかん!痴漢あかん!」
「はいはい。じゃ、きみたちで駅長室へ行って」
そして男はホームのベンチに座った。
私たち三人は、ハゲ親父を連れ、駅長室へ行った。
駅長室でも、私たちの方が笑われる始末だった。
なによーーっ。ブスだとありがたく思え、くらいに考えてるんじゃないの!?
ったく・・
「それにしても小春さ。台無しってなんやったん?」
「あ!それよ、それ!」
「どうしたでありんすか」
「私さ~、たけちゃん王子に熱視線送って、助けてもらおうと思ったのに~~」
「え・・」
「美琴と紬・・ハゲ親父を撃退するんだもん」
「ああ~~・・そういうことか」
「恋愛経験ない私たちには、ちょっとレベルが高かったでありんすな。読むのは難しいでありんす」
「せっかくのチャンスだったのにぃ~~・・。しかもたけちゃん王子、ちょっと笑ってたし・・」
「そうなんやあ」
「ね、あれってどう言う笑いかな・・」
「そりゃあ・・面白かったんでありんしょ」
「やっぱりね・・」
そりゃそうだわ・・
笑うなんてあり得ないもん。
普通はびっくりするか、それこそ割って入って助けてくれるかよね・・
やっぱりブスが困ってても、心配するんじゃなくて、笑うんだ・・
私は二次元のイケメンにしか恋をしたことがなかったので、三次元のイケメンの現実を知り、恋を成就させるにはまだまだ遠い道のりなのだと痛感していた。
次の日・・
「あれ?小春、あの車両に行かへんの?」
「どうしたでありんすか」
私は昨日、たけちゃん王子に笑われたことが、意外とショックで引きずっていた。
「もういいよ・・」
「え・・なに言うてんの」
「どうせ私なんか、ダメだもん・・」
「なに言うてんの~~。常にポジティブ、常に前向きが私らのモットーやん」
「そうでありんすよ」
「だってまた無意味に笑われたりしたら・・」
「大丈夫やって~。小春らしくないなあ」
「小春~、ガツンと当たって砕けろでありんすよ~」
「そうそう、さっ、行こっ」
私は美琴に手を引っ張られ、「いつもの」車両の前に並んだ。
やがて電車が到着し、次の駅まで走った。
ああ~~なんか、顔を合わせ辛いな・・
向こうは何とも思ってやしないし・・それどころかバカにしてるんだし・・
そして電車は王子さまたちが乗ってくる駅に着いた。
あ・・来た・・
私はそれとなく顔を見た。
するとたけちゃん王子は、ニコッと微笑んでいた。
え・・笑ってることは笑ってるんだけど・・
なんか・・優しい笑顔っていうか・・
なに・・一体、何が起こってる・・?
「おはよ」
え・・マジですか・・たけちゃん王子が私に「おはよ」と・・「おはよ」とぉぉぉ~~~
「お・・おはよう・・」
「お前、昨日、大変だったな」
え・・え・・えええええ~~~~
たけちゃん王子が・・たけちゃん王子が・・わ・・私に声を・・
「え・・あ・・はい・・」
「でもさ、お前のダチ、いいやつじゃん」
「え・・」
「ハゲ親父から救ってくれたじゃねぇか」
「あ・・」
え・・たけちゃん王子・・それで昨日・・笑ってたの・・?
もしかして・・バカにされたとか・・私の勘違い・・?
美琴と紬は、あまりの意外な展開に、呆然としていた。
「今度、へんなやつがいたら、大声だせよ。そしたらみんなが助けてくれるぜ」
「はい・・はい!そうしますっ!」
「ば・・バカかっ!いま大声出してどうすんだよ」
「あ・・あはは~~・・」
他の王子二人も私たちの会話を、笑って見ていた。




