十九、ぎこちない二人
「あの・・」
私は時雨王子の少し後ろを歩きながら、そう声をかけた。
「なんだよ」
時雨王子は立ち止まり、振り向いてそう言った。
「私・・その・・すみませんでした・・」
「・・・」
「ほんとに悪かったと反省してます・・」
「もういいよ・・」
「え・・ほんとですか?許してもらえるのですか・・」
「ああ・・」
「よ・・よかった・・よかった・・」
私は時雨王子が許してくれたことで、急に体の力が抜け、その場にへたり込んだ。
「お前、こんなところで座ってんじゃねぇよ」
「あ・・はい・・すみません・・」
「さっさと立てよ」
そう言って時雨王子は、私に手を差し伸べてくれた。
ぎゃあ~~~!王子の手がっっ!時雨王子の手があ~~~!
私はドキドキしながら、時雨王子の手に触れた。
きゃああああああ~~~~!
大きい手!しかも温かい!
時雨王子は手を握り、私を立たせた。
「ありがとうございます・・」
私が立つと、時雨王子はすぐに手を離した。
「ちゃんと歩けよ」
「はい・・歩きます」
「つか・・お前、なんだよ、その格好」
「え・・」
ううっ・・やっぱり指摘された・・
変だと思ってるんだわ・・
「ゆ・・浴衣もいいかなぁ~~・・なんて・・。でもっ!変ですよね。似合ってないですよね!あははは」
「なに笑ってんだよ」
「いえ・・別に・・」
「いいんじゃねーの」
「え・・」
いいんじゃねーの・・ってことは・・
とりあえず、よかったってことよね・・
よかった!やったーー!
「あのさぁ・・」
「はい・・?」
「今日は、ほんとは翔と遊園地へ行くはずだったんだよ」
「え・・」
「これ」
そう言って時雨王子は、遊園地の入場券を私に見せた。
「あ・・」
「んで、お前、どうすんの」
「え・・なにを・・ですか・・」
「行くのか、行かねぇのかって訊いてんだよ」
えええええ~~~~!
時雨王子とぉぉぉ~~~、時雨王子とぉぉぉ~~~ゆ!遊園地っっっ!
きゃあ~~~~行きたい!行きたいですぅぅぅ~~!
「あのっ!行きます!行きたいですっ!」
こうして私は、時雨王子と遊園地へ行くことになった。
時雨王子・・「話を聞くだけだぞ」って言ってたのに・・遊園地へ連れて行ってくれるなんて・・
やっぱり・・優しいな・・
「俺、なんかおかしいと思ったんだよな」
「え・・」
「このチケットさ、翔が用意してくれたんだけど、二枚ってのが変だと思ったんだよ」
「・・・」
「ふつーは、三枚か四枚のはずなのによ」
「そうなんですか・・」
「和樹と由名見も誘うはずなんだよ。翔ならぜってーそうする」
「由名見・・」
「ああ、由名見って和樹の彼女な」
「ああ・・」
文化祭で会った静香さんっていう、あのかわいい女子のことかな・・
「それが二人で行こうって・・変だと思ったんだよな」
「な・・なるほど・・」
「こういうことだったんだよ。ったく・・翔のやつ、後で覚えてやがれ」
「なんか・・私で・・すみません・・」
「はあ?なんだよ、それ」
「いえ・・その・・私なんかで申し訳ないというか・・」
「っんだよ、申し訳ないって」
「だって・・」
「あのな!もう行くと決めたんだよ!申し訳ないって思う方が失礼だと思わねぇのか」
「・・・」
「そんなだったら、俺、行かねぇし」
「あっ!すみません!私・・ほんとは死にそうなくらい嬉しいんです!申し訳ないなんて思いません!」
「だったら普通にしてろよ」
「はい・・」
そうね・・
もう行くと決めたんだもん・・
堂々と・・デートしなくちゃね!
それにしても翔王子・・チケットまで用意してくれたんだな・・
ほんと優しい人だなぁ・・
それから私たちは遊園地に到着し、まずは何に乗ろうかと考えていた。
「お前、苦手なもんとかあんの?」
「うーんと・・特には・・」
「へぇー、ジェットコースターとかもいけるわけ?」
「はい。全然、平気です」
「マジかよ・・」
時雨王子は少し驚いていた。
「むしろ好きっていうか・・」
「へぇー」
「時雨さんはどうですか?」
「っんなもん、平気に決まってんだろ」
「そうですか!よかった~~」
「でも、それ、後な」
「はい!楽しみは後の方がいいですよね!」
それから私たちは、まず、コーヒーカップに乗ることにした。
「俺さぁ・・実は遊園地なんて、殆ど行ったことがねぇんだよ」
「え・・そうなんですか?」
「俺、親に捨てられたから、家族で遊園地なんて行ったことねぇよ」
「え・・」
時雨王子・・親に捨てられたの・・?
なんでっ・・どうして・・
でも・・そんなこと訊いちゃダメよね・・
「親戚の家族と行ったことはあるけどさ。でも全然、楽しくなんかなかったぜ」
「そうなんですか・・」
なんか複雑そう・・
色々あったのかな・・
「ほら、乗るぞ」
時雨王子がそう言って、私たちはコーヒーカップに乗った。
「これってさ、グルグル回すんだろ?」
時雨王子は手すりを握ってそう言った。
「はい。これを回すと、カップが余計に回るんですよ」
「らしいな」
台が回り始めると、時雨王子は手すりを思いっ切り回しだした。
ひぃ~~~!ちょ・・ちょっと回し過ぎじゃ・・
げぇ~~~・・吐きそうになってきた・・
「あははは、面白れぇ~~」
時雨王子は私を見もせずに、一人で楽しんでいた。
「あの・・あの・・」
「なんだよ」
「き・・気持ち悪いです・・」
「あははは、マジかよ」
「マジ・・です・・」
「大丈夫か?」
私は、今朝、食べたものを戻しそうになり、口を押えていた。
「お・・おい・・ここで吐くなよ」
「・・・げ・・ゲボっ・・」
「おい・・マジかよ・・」
私は苦しかったが、なんとか堪えた。
すると冷や汗が出てきた。
うう・・マジでダメだ・・気持ち悪い・・
「お前・・めっちゃ汗かいてんぞ」
「・・・」
「ほら」
時雨王子は私にハンカチを差し出してくれた。
「ああ・・す・・すびばせん・・」
やがて私たちはコーヒーカップから降り、とりあえずベンチに座った。
「お前、大丈夫か?」
「は・・はい・・」
「苦手なもんねぇって言ってたじゃねぇか」
「そ・・そうですけど・・あんなに回されては・・」
「そっか。悪かったな」
「い・・いえ・・」
しばらく休むと、気分はよくなってきた。
「あの・・もう大丈夫です。すみませんでした・・」
「そうか。もっと休まなくていいのか?」
「はい・・。あの・・ハンカチは洗ってお返ししますので・・」
「いいよ。お前にやるよ」
ええええ~~~!時雨王子のハンカチが・・私のものにっっ!?
絶対に洗わないぞ~~~!
一生の宝物にする~~~!
「んじゃ~、次行くか」
「はいっ!」
そして私たちは、お化け屋敷へ入ることにした。