十八、デ・・デートぉぉ?
それから数日後、私は、とある漫画喫茶に来ていた。
もう私は・・やっぱり二次元世界の王子さまへ恋する方に、気持ちが傾きかけていた。
紬と美琴は、誘っても来ることがない。
なので漫画喫茶には、いつも私一人で来ていた。
私は一冊の漫画本を手にして椅子に座った。
そうそう・・これこれ。
森本梢子先生の『アシガール』、好きなのよね~。
若君・・最高だわあ・・
「あ・・」
私の横で誰かが声をかけてきた。
顔をあげると、なんとっ!翔王子が立っていた。
「うわあ~~!なっ・・なんで・・」
「あはは。すごい驚きようだね」
翔王子はヤクザ漫画を手にして、笑っていた。
「し・・翔さん・・」
「きみ、漫画好きなんだね」
「あ・・はい・・」
「僕も好きだよ」
「そ・・そうなんですね・・」
「あ、ここ、座ってもいい?」
翔王子は、私の向かい側の席を指してそう言った。
「え・・」
う・・嘘でしょ・・翔王子が私と同じテーブルに・・
「あ・・ダメならいいよ」
「あっ!いえっ・・ダメじゃありません」
「そう?じゃ、お邪魔します」
うはあ~~・・なんという偶然。
翔王子も一人なのかな・・
時雨王子は・・来ないのかな・・
「翔さん・・お一人なんですか・・」
「うん」
「あの・・時雨王子は・・」
「たけちゃんは、漫画に興味ないからね」
「そうなんですね・・」
「薄柿さんだっけ・・」
「え・・はい・・」
「たけちゃん、あんなだけど、特に怒ってるわけじゃないからね」
「あ・・そ・・そうですか・・」
「たけちゃんね、意地っ張りなところがあってさ」
「そう・・ですか・・」
「僕、薄柿さんのこと、気の毒だなって思ってたんだよ」
「え・・」
「だってさ、一週間も謝ってるのに、たけちゃん何も言わないんだもんね」
「あ・・はい・・」
翔王子・・やっぱり優しいな・・
いい人だな・・
「あのさ・・」
翔王子は突然、小声で何かを言いた気だった。
「はい・・?」
「薄柿さん、たけちゃんと話がしたいんだよね」
「あ・・はい・・。でも、もう諦めました・・」
「僕が会わせてあげようか?」
「えっっっ!!」
なっ・・なにを言うかと思えば!
時雨王子と会わせてあげるって・・どういうこと?
「今度の日曜日、二人で会っちゃいなよ」
「ええええええ~~~~!」
私は、思いっ切り叫んでしまった。
すると店内にいたお客さんは、一斉に私たちの方を見た。
「し~~っ・・」
「あああ・・すみません・・」
「僕がたけちゃんを誘い出すから、薄柿さんも来てね」
「えっ・・ど・・どういうことですか・・」
「デートだよ、デート」
「でっ・・!デー――トぉぉぉぉ~~~!」
「こらこら・・静かに・・」
「うはっ・・すみません・・」
「で、どうする?来る?」
「え・・でも~~・・」
「無理にとは言わないけど」
「・・・」
「さっきも言ったけど、僕、薄柿さんが気の毒でさ・・」
「あ・・はい・・」
「なんとかしてあげたいなって、思ってたんだ」
「そ・・そうなんですか・・ありがとうございます・・」
翔王子・・なんて優しい人なんだろう・・
元はと言えば、私たちが悪かったのに・・
翔王子だって、ほんとはもっと怒っていいはずなのに・・
それどころか、時雨王子と会わせてくれるなんて・・泣きそうになる・・
「あのっ・・私、会います。会わせてください」
「うん。じゃ、駅前で十時にしようか」
「あ・・はい・・」
「あまり緊張しないでね」
「はい・・」
そして翌日・・
私は美琴と紬に、早速、昨日のことを話した。
「げ~~~!マジかいなっ!」
「うん、そうなのよ。もう私、びっくりしちゃって」
「それにしても・・翔王子は、優しいでありんすなぁ・・」
「でしょ~~。すごくいい人~~」
「でも時雨王子は、このこと知らんのとちゃう?」
「うーん・・それはわかんないけど・・」
「駅前に行って、いきなり小春が待ってたら、また怒るんとちゃう」
「ど・・どうなんだろ・・」
「翔王子が提案してくれたのでありんすから、無下にはしないと思うでありんすよ」
「だといいんだけど・・」
「よーーしっ。日曜日は私らも行くで」
「ええええ~~~!着いてくるの??」
「ちゃうがな。別行動やっちゅうねん」
「別行動って・・様子を見るってこと・・?」
「あったり前田のクラッカーやん」
「またそれを・・。なんなのよ、それ」
「別にええやん。紬、あんたも行くやろ?」
「ええ・・まあ、そうでありんすな」
「げ~~~・・紬まで・・」
別行動とは言え・・なんか・・嫌な予感しかしないんだけどぉぉ・・
でも、来るなって言っても・・絶対に聞かないよね・・この二人は。
「私・・何を着て行けばいいのかな・・」
「そらもう~~一張羅やん」
「なんか・・美琴って・・ますますおっさんみたいな話し方になってるよね」
「かまへんがなっ」
「そうでありんすな~~・・小春は白が似合うでありんすから、白のワンピースにしたらどうでありんすか」
「ワンピースか・・」
「それって、いかにもって感じとちゃうか?」
「そうでありんしょか」
「そうそう。いっそのこと、浴衣にしたらどうや」
「ゆ・・浴衣・・」
「日本人女子なんやから、やっぱり古風なのもええで」
「でも・・時雨王子、びっくりしないかな・・」
「ええやん。びっくりさせたったらええねん」
「髪も、おさげにして、かわいさをアピールするでありんすよ」
「おさげか・・」
私の髪は、肩より少し下のセミロングだ。
そうよね・・浴衣を着るなら・・やっぱり括らないとね・・
おさげなら、いいかも・・
「ひゃ~~日曜日が待ち遠しいやんかいさ~~」
「美琴ってば・・時雨王子のことディスってなかったっけ・・」
「そうやけどさぁ~。だってな、我々の中から初デート者が現れるとは、夢にも思わんがなっ。これは行くしかないやろっちゅう話やがな」
「そうでありんすな~。めでたい話でありんす」
「めでたいって・・。まだ何も・・」
「いやいやあ~。翔王子さまさまやな」
「そうでありんすな~」
そしてあっという間に日曜日がきた。
私は朝から、そわそわしっぱなしで、朝ごはんも喉を通らない状態だった。
「小春。浴衣って、ほんとに着るの?」
母が浴衣を手に持ってきた。
「うん。それ着るの」
「こんなの着て、どこへ行くのよ」
「紬たちと遊びに行くの」
「まあ最近、若い子の間で浴衣、流行ってるらしいし、いいかもね」
「うん」
ああ~~・・ダメだ・・ドキドキしてきた・・
なんか、ジェットコースターに乗ってるみたいな感覚・・
胃が・・キュウ~ってなる・・
「じゃ、ご飯済んだら着せてあげるよ」
「うん。お願いね」
はあ~~・・時雨王子・・どんな顔するのかな・・
引かれちゃったらどうしよう・・
いや・・笑われちゃったらどうしよう・・
ううう・・もしそうなったら・・私・・生きていけない・・
そして私は母に浴衣を着せてもらい、下駄を履いて家を出た。
よーーしっ!いざ出陣だ!
最初になんて挨拶すればいいかな・・
やっぱり、おはようございます・・かな・・
んで・・謝った方がいいのかな・・
いや・・謝るってのは・・もうさんざんやったし・・
普通に笑って・・元気に明るく笑って・・
そして私は電車に乗り、時雨王子たちが住む駅前に着いた。
携帯を見ると、九時五十分だ・・
あと十分・・あと十分で・・時雨王子が・・
うはあ・・ダメだ・・吐きそうになってきた・・
ああ・・心なしか眩暈もしてきた・・
ダメだ・・帰ろうかな・・
もう心臓が口まで上がってきてる感覚・・
マジで・・吐きそうだわ・・
「おい・・お前、こんなところでなにやってんだよ」
げ~~~!!しっ・・時雨王子が目の前にっっ!
ぎゃあ~~~・・な・・なんて言えば・・
ダメだ・・言葉が出ない・・
ダメよ・・小春!
ちゃんと挨拶しなくちゃ!
「おっ・・おはっよう・・ございますっ・・」
「ああ」
「あのっ・・!あの・・」
「っんだよ」
「きょ・・今日は・・す・・すみません・・」
「はあ?」
「えっと・・そのっ・・翔さんに・・」
「え・・?なに言ってんだよ」
「そのっ・・時雨さんと・・会わせてくれると・・」
「なに~~~!くそっ・・翔のやつ・・騙しやがったな・・」
「えっと・・翔さんは・・まだですか・・」
「ちょっと待て」
そう言って時雨王子は電話をかけていた。
「翔!てめぇ・・なに考えてんだ!ああっ?知るかよっ!だったらお前も来い!はあ??あり得ねぇよ。あっ!こらっ翔!くそっ・・」
時雨王子は電話を切り、私の方を見た。
「あの・・私は・・どうしたらいいのでしょうか・・」
「ったく・・翔のやつ・・なに考えてんだ・・」
「・・・」
「話を聞くだけだぞ」
「あ・・はいっ!」
そして私たちは少し離れて歩き出した。