十七、大人げない
そして私は次の日、美琴と紬とは別の電車に乗っていた。
そう、王子たちが乗ってくる時間の電車に戻し、時雨王子に声をかけるところから始めようと思っていた。
美琴と紬も同乗すると言ったが、三人だと、一層警戒されると思い、私はそれを断った。
む・・無視されるかも知れないけど・・やっぱり謝りたい・・
やがて王子たちが乗ってくる駅に着いた。
うわあ~~・・きた・・
時雨王子は私を見つけ、直ぐに向こうを向いた。
うっ・・やっぱり、無視だ・・
いや・・怯んじゃいけない・・
ちゃんと謝らなくちゃ・・
「あの・・おはようございます・・」
私がそう言っても、時雨王子は無視したままだ。
「あの・・その・・色々とすみませんでした・・」
それでも時雨王子は無視したままだ。
その様子を翔王子と和樹王子は、少し気の毒そうに見ていた。
「私・・すごく反省してます・・。もう二度と詮索したりしません・・」
翔王子は、時雨王子の肩を突いていた。
それでも時雨王子は、向こうを向いたままだった。
「私のしたこと・・許してください・・。本当にすみませんでした・・」
するとそこで時雨王子は、イヤホンを耳に着けた。
え・・これって・・私の話なんか聞く耳持ってないアピールよね・・
そっか・・聞きたくないんだ・・
やがて電車はE高校前に着き、王子たちは降りて行った。
私は一人取り残され、周囲の乗客は私を好奇な目で見ていた。
「あんなブスがね・・」
乗客からそんな声が聞こえた。
「なにやったのからしね・・どうせ付きまとったんじゃないの・・」
「迷惑よねぇ・・。鏡を見ればいいのに・・」
私は何も言えずにいた。
ブスだと・・イケメンと話しする権利もないの・・?
私は顔も上げられず、ポタポタと涙が床に落ちた。
そして次の日も、私は同じ電車に乗った。
今日も謝るんだ・・
許してくれるまで・・謝るんだ・・
やがて王子たちが乗ってくる駅に着き、王子たちは乗ってきた。
時雨王子は、「またかよ」と言った表情でうんざりしていた。
「あの・・おはようございます・・」
時雨王子は昨日と変わりなく、無視していた。
「えっと・・その・・本当にすみませんでした・・」
すると時雨王子は、またイヤホンを着けた。
イヤホンを着けられると、私の声が届かない・・
「たけちゃん・・」
そう言って翔王子は、時雨王子の腕を引っ張っていた。
「なんだよ」
時雨王子はイヤホンを外してそう言った。
「彼女・・かわいそうだよ・・」
「はっ、知るかよっ」
「あのっ・・」
私は翔王子にそう言った。
「翔・・さん。いいんです・・」
「だって・・きみ・・」
「いいんです・・。悪いのは私ですから・・」
「でも・・謝りたくて、この電車に乗ったんでしょ」
「はい・・。ちゃんと謝りたくて・・」
「ほら、たけちゃん・・彼女、こう言ってるじゃん」
「知らねー」
そう言って時雨王子は、またイヤホンを着けた。
和樹王子も、苦笑いをしていた。
「きみ、もういいから」
翔王子が気の毒そうに言った。
「いえ・・私、翔さんや、東雲さんにも・・申し訳ないと思ってます・・」
「いや、もういいから・・」
「僕はもう、気にしてないよ」
和樹王子は笑って、そう言ってくれた。
「うん、僕も気にしてないから」
翔王子もそう言ってくれた。
「はい・・すみません・・」
それでも時雨王子は、ずっと私を無視していた。
やっぱり・・無理だよね・・
もう一度、気持ちを伝えるどころか・・許してさえもらえないなんて・・
そしてE高校駅前へ着き、王子たちは降りて行った。
時雨王子・・
よっぽど私たちのやったことが、許せないんだよね・・
翔王子や和樹王子に許してもらえても・・私の心は暗く沈んだままだった。
それでも私はしつこく、次の日も、また次の日も同じことを繰り返した。
しかし・・時雨王子の態度が変わることはなかった。
「この一週間・・ずっと謝り続けたけど・・時雨王子、許してくれないの・・」
「そうでありんすか・・」
「なんか、子供みたいやな。時雨王子」
私たち三人は、昼休み、校庭で話をしていた。
「葵さんは・・根に持つような子じゃないから大丈夫よって言ってたのに・・」
「それにしても・・満員電車で毎日、女子が謝り続けているのに、話も聞かないとは・・ちょっと酷いでありんすな・・」
「ほんまやで。時雨王子は子供過ぎるわ」
「でも悪いのは、私たちだし・・」
「そうやけどさ。でも普通、謝ったら許すやろ。しかも毎日、謝ってんねんで」
「あれかな・・私のことが嫌いだからなのかな・・」
「もしやで?もし。この先、奇跡的に時雨王子と付き合えることになったとしても、あれは・・ちょい難しい男やで」
「え・・どう言うこと?」
「小春が苦労する、言うてんのや」
「え・・。いや・・私、苦労したっていい!時雨王子と付き合えるなら、死んだっていい!」
「アホか。小春」
そこで美琴はハァ~ッとため息をついた。
「え・・」
「そら私らはブスかも知れん。せやけど、っんな細かいことずっと怒ってて、おまけに許しもせぇへん男に、傅く必要なんかあらへん」
「・・・」
「アンタは時雨王子の奴隷になりたいんか?」
「そ・・そんなっ・・」
「せやろ。小春はもう謝ったんや。しかも一週間も。もうええんちゃうか?」
「だけど・・」
「私はあの男は、アカンと思うで」
美琴・・もはや王子から男って言い方になってるし・・
「紬は・・どう思う・・?」
「そうでありんすなぁ・・。翔王子や和樹王子なら優しいし、いいと思うでありんすが・・」
「・・・」
「時雨王子は、ちょっと大人げないっていうか・・でありんすなぁ・・」
「でも私・・時雨王子が好きなの・・」
「小春。もう目を覚ました方がええで」
「え・・」
「イケメンなんて、他にもいてるって」
「いや・・あんなイケメン・・いないよ・・見たことないもん・・」
「そらそやけどさ。私は諦めた方が小春のためやと思うで」
「・・・」
「どんなにイメケンでも・・性格に問題あり・・では、違うと思うでありんすよ」
「・・・」
「今は辛いでありんしょが・・早く忘れた方がいいでありんすよ」
私は二人の話に、半分納得しかけていた。
そうよね・・
こんなに謝ってるのに、聞いてさえくれないなんて・・
私・・やっぱり諦めた方がいいのかなぁ・・
「あ・・それより美琴・・」
「なに?」
「最近、漫画読んでないよね」
私は美琴が、BL漫画を手にしていないことに気がついていた。
「ああ~~・・あれもなぁ、なんちゅうんか、ワンパターンでな」
「そうなんだ・・」
「もう飽きたわっ」
げ~~・・美琴、あんなにはまってたのに・・
翔王子のことも、すぐに飽きたし・・
美琴って熱しやすく冷めやすいよね・・
まあ・・こっちに戻って来てくれてよかったけど。
王子たちとのことも・・短い間だけでも夢を見ることができたってことで・・もう・・忘れた方がいいよね。
時雨王子は、やっぱり私には手の届かない王子さまだったのよね・・
二次元の世界から、突然現世に現れただけなのよ・・
ブスはやっぱりブスらしく・・妄想で楽しむしかないのよね・・