十三、特別な関係
E高校前に着き、時雨王子と和樹王子は降りて行った。
さっきのは・・なに・・?
えええ~~・・あの二人って・・本当にそうだったんだ・・
和樹王子に彼女がいるって・・あれはやっぱりカムフラージュだったんだ・・
「小春・・?どうしたでありんすか」
「え・・」
「せっかく時雨王子と話ができたでありんすのに」
「いや・・あの・・」
「マジで、どうしたでありんすか」
「時雨王子と和樹王子・・手を繋いでたの・・」
「えっ・・本当でありんすか・・」
「やっぱり・・そうだったのよ・・」
「手を繋いで・・。しかも満員電車の中で・・。小春の言う通り、これは決定的でありんすな・・」
私たちが話をしていても、美琴は漫画を読むのに夢中になっていた。
やがて駅に到着し、私たちは下車して学校へ向かった。
「ああ~~おもろかった!」
「えっ・・美琴、もう読み終わったの?」
「そやで。次は何を買おうっかな~」
「美琴・・」
「なに?紬」
「時雨王子と和樹王子・・やはり、そうでありんしたよ・・」
「えっっ!それって、そういうことやんな?」
「そうでありんす・・」
「え、なになに?なんでわかったん?」
「小春が見たでありんすよ・・決定的瞬間を」
「えええ~~~!どういうことなん?」
「時雨王子と和樹王子が・・手を繋いでいたでありんす・・」
「げ~~~!マジかいな!小春っ!ほんまなん?」
「うん・・見ちゃったの・・」
「っんもう~~、なんで言うてくれへんかったんよ~!」
「いや・・美琴、本に夢中になってたし・・。で、私・・あまりにショックで・・」
「そっかあ~~!やっぱり私の勘は的中しとったな」
美琴・・めっちゃ大喜びしてるけど・・
私は複雑なのよっ!
だって・・これでもう・・私の恋は儚く散ったのよ・・
「もう・・時雨王子を諦めた方がいいよね・・私・・」
「そら~しゃあないわな」
「そうでありんすなぁ~・・こればっかりは、致し方がないでありんす・・」
「だよね・・」
はあ~~・・せっかく三次元のイケメン王子と出会えたと思ったのに・・
こんな最悪な結果になるとは・・
やっぱり神さまっていないのね・・
「小春・・」
「なに・・紬・・」
「明日からどうするでありんすか」
「どうするって・・」
「同じ電車に乗るでありんすか・・」
「それなのよねぇ・・」
例え時雨王子と話ができたとしても、「それ以上」は望めないもんなぁ・・
友達という選択肢もありっちゃあ・・ありだけど・・
でもそれじゃ・・空しいだけだもんなぁ・・
「私は同じ電車に乗るで」
「えっっ!美琴、なに言ってるの」
「せやかて、私、決定的瞬間、見てへんもん」
「え・・」
「見たいやんかいさ~~。リアルBLっちゅうやつ」
「それは・・そうでありんすな・・私も見たいでありんす・・」
「げ~~二人とも、なに言ってんのよ」
「小春はもう、見んでええやん」
「は・・?」
「見たくないやろし」
「そりゃそうだけど・・」
「でも電車で一緒になることくらい、かめへんやん」
はあ~~~・・この二人は・・まったく・・
完全にそっちへ行っちゃってるし・・
「私・・ヤダな・・」
「小春・・そんなに嫌でありんすか・・」
「だって~~!好きな人が目の前で男子と手を繋いでるとこなんて、見たくないもんっ!」
「・・・」
「私・・前の時間帯ので行く」
「あらら・・それでは淋しいでありんすよ・・」
「別にいいじゃない。学校で会えるんだし」
「そうでありんすか・・」
「小春。ほな悪いけど、私らはいつもので行くで」
「うん、わかった」
こうして私は、一人で通学することになった。
その後も美琴と紬は、王子たちと同じ電車に乗ってるけど、決定的瞬間をまだ見れないでいるらしい。
そりゃそうよ・・
いくらそういう仲だって、そうそう頻繁に人前で露骨なことするはずないよね。
私だって時雨王子に会いたいけど・・でも会ってどうなるのって話だし・・
私はそんなことをボ~ッと考えながら、朝の通学電車に乗っていると、なんと乗り過ごしてしまったのだ!
ぎゃあ~~~ここって、どこっっ?
「次は~K駅~K駅でございます」
車内アナウンスが流れた。
げ~~~K駅って、もう三つも乗り過ごしてるじゃない!
ひゃ~~これは・・遅刻は確実だ・・
そしてK駅に到着し、私は一旦下車し、向かいのホームで電車を待った。
早く引き返さなくちゃ~~
「おや・・きみは」
そこで私は誰かに声をかけられた。
見ると、あのモヤシ男子だった。
そう・・E高校の文化祭のカラオケ大会で、司会を務めていたあの男子だったのだ。
「あ・・」
「きみ、この駅から乗っているのか」
「いえ・・ちょっと乗り過ごしちゃって・・引き返すところなんです」
「そうか」
「えっと・・紫苑さん・・でしたよね」
「そうだが」
「紫苑さんはこの駅から・・?」
「そうだが。なにか?」
「いえ・・別に・・」
「そういえば、きみ。その後、時雨くんとはどうなってるんだ」
げ~~・・それを訊く・・?
「どうって・・別に、どうもなってません・・」
「そうか。あの告白は無意味だったのだな」
「無意味って・・」
なによ~~・・このモヤシ・・
無神経な人ねっ・・
「あの・・」
私は時雨王子と和樹王子のことを、訊いてみようと思った。
「なんだ」
「その・・時雨さんと東雲さんって・・どういう関係なんでしょうか・・」
「どういう意味だ」
「いや・・その・・お友達・・なのかなぁ~って・・あはは・・」
「そうだが、単なる友達ではないぞ」
「えっっ!!」
私は思わず大声を挙げた。
「なんだ、いきなり」
「いえ・・すみません・・」
「あの二人・・いや、朝桐くんも含めたあの三人は特別な関係だ」
「朝桐って・・翔さんの苗字ですか・・?」
「そうだ」
「ええええ~~~~!!」
「きみっ!朝の通勤通学として利用する乗客の多さに気がつかないのか」
「え・・」
「そんな大声出して、はた迷惑だと言ってるのだ」
「あ・・はい・・」
「それと、ある意味、僕も特別な関係であった」
「・・・」
ちょ・・ちょっと・・
なんなんですかぁぁ~~~この展開!
よ・・四人っっっ!?
「関係であった・・って過去形ですよね・・。ってことは、今は違うんですか・・」
「そうだが」
「そ・・そうですか・・でも・・過去には関係があったのですよね・・」
「そうだが?それがなんだと言うのだ」
「マジ・・ですか・・」
げ~~~・・どう理解したらいいの・・?
えっと・・ペアとしては・・やっぱり時雨王子と和樹王子でしょ・・
ってことは・・翔王子と紫苑さん・・?
ぐはっ・・なんか・・気持ち悪くなってきた・・
「紫苑さんは・・やっぱり翔さんと・・」
「うーん。僕は時雨くんと行動を共にすることが多かったな」
げぇぇ~~~~!!し・・時雨王子とっっ!う・・嘘でしょ・・
「しかし、時雨くんは強引な面があってな。僕は何度も彼を制したよ」
「ひぃ~~~・・」
「なんだ」
「い・・いや・・ちょっと・・露骨っていうか・・」
「聞いてくれるか。彼は僕の女装姿を見て笑ったのだぞ。しかもすぐに僕の頭を触り「かわいい」とか言うのだ。失礼なやつだ」
いやああああ~~~~!もうやめて!
それ以上は聞きたくな~~~~い!
「しかし・・一時はどうなるかと思ったが、東雲くんもやっと落ち着いて、今では学園生活を謳歌しているぞ」
「え・・」
「僕には友達など必要ないが、彼らはいつもつるんでいる」
「ケンカでもしたのですか・・」
「ケンカ?誰が」
「いや・・紫苑さんが・・時雨さんたちと・・」
「バカな。僕は自分のすべき役目を終えただけだ」
「え・・」
なんか・・頭がおかしくなりそう・・
役目って・・それって・・女性としての役目を終えたってことよね・・
女装とか言ってたし・・ぐはあ・・
「電車が来たぞ」
「あ・・はい・・」
そして私たちは並んで座席に着いた。
「きみ、その制服はC高校だな」
「はい・・」
「生徒会長の長谷部くんに、よろしく伝えてくれ」
「え・・どういうことですか?」
「僕は彼と親戚なのでね」
「そ・・そうなんですか・・」
それからほどなくして、電車が駅に到着し、私は紫苑さんと別れた。
しかし・・衝撃的な話だったわ・・
まさか・・翔王子もそうだったなんて・・
これは・・美琴が聞いたら・・どうなるか・・