十二、王子の真相
私が学校へ着くと、校門のところで美琴と紬が待っていた。
「小春~~、あんたどうしたんよ。電車待ってたのに」
「そうでありんすよ~。電話したのに繋がらないでありんすし」
よかった・・美琴と紬・・いつも通りだ・・
で・・待っててくれたんだ・・
「え・・電話って・・」
私は携帯を見たら、電池切れになっていた。
げ~~~
「あ・・ごめん。電池切れになってる・・」
「ったく・・小春は~~」
「小春らしいでありんすな・・」
「あの・・私、この間、ごめん・・」
「なに言うてんの~。私らかて悪かったんやし」
「そうでありんす。ごめんでありんす、小春」
私たちは並んで校門の中へ入った。
「あ!そういえば!さっきの電車で、時雨王子と一緒だったの~~!」
「マジか!で、どうやったん?」
「怒ってなかったし、これからも話していいって!」
「なるほど~。小春、なにかありんしたか」
「あ・・そうそう。昨日ね・・」
そして私は、昨日の葵さんのことを話しをした。
もちろん、葵さんがブスであることも。
「げ~~~!第四の王子は、そっちじゃなかったんか・・」
「美琴・・なにショック受けてんのよ」
「しかし・・第四の王子・・イケメンでありんすが、性格もイケメンでありんすな~」
「そうなの~!もうね「結婚しようよ」とか言っちゃって~」
「葵さんの優しさに惚れたでありんしょ・・」
「第四の王子ね、真人っていうの」
「おお~真人王子でありんすか」
「これで・・真人王子は脱落やな・・」
「脱落ってなによ・・」
もう~~美琴は、BL妄想劇にのめり込み過ぎ!
「でも、小春。よかったでありんすな」
「うん。時雨王子・・自分から「おはよ」って言ってくれたの~」
「これで完全に「あの二人」やな・・」
「美琴・・変なこと考えないでよね・・」
「ええやん・・二人でええやん・・」
美琴は一人、BL妄想劇に浸っていた。
それから数日後、私と紬は美琴に誘われ、時雨王子たちの住む街の書店にいた。
「私、あっち行って来るわな」
美琴はそう言って、漫画コーナーの奥へ行った。
「きっと・・特別なコーナーへ行ったでありんしょ・・」
「え・・特別なコーナーって?」
「BL漫画が置いてあるコーナーでありんすよ」
「げっ・・美琴って・・そんなに心酔してるの・・?」
そして私たちは、美琴がいる場所の近くまで行った。
すると紬の予想通り、美琴はBL漫画が置いてある場所で立っていた。
ぎゃあ~~~!美琴!
なんか・・次から次へと手に取って見てるし~~・・
でも・・BLのコーナーに・・結構、若い女子が群がってる・・
そっか・・人気あるんだね・・
私と紬は「普通」の漫画コーナーへ行き、あれこれ見ていた。
するとそこに、ぬぁんとっ!翔王子がいたっっ!
「紬・・」
「ん・・?どうしたでありんすか」
「翔王子が・・来てる・・。ほら、あそこ」
私が指す方向を、紬が見た。
「あっ!ほんとでありんすな~。翔王子一人でありんすな・・」
「翔王子・・漫画好きなのかな・・」
「そうでありんしょ・・。でないと来ないでありんしょ」
「わあ~~・・どんな漫画が好きなのかな・・」
「近づいてみるでありんす・・」
「えっ・・」
私と紬は、そっと翔王子の近くまで行った。
翔王子は漫画を選ぶのに夢中になっているようで、私たちには全く気がつかなかった。
そして私は、翔王子が手に取っている漫画の単行本を見た。
げっ・・ヤクザ漫画・・?
ヤダ・・翔王子のイメージが・・
「意外でありんすな・・」
「だよね・・」
「あれでありんしょ・・。自分にないものを求めるという、人間特有の性でありんしょ」
「なるほど・・そうかも・・」
「いやあ~~もう、どれを買ったらええか、迷ったわ~~」
げ~~~・・
美琴は大声をあげて、私たちのもとへやってきた。
すると翔王子は、当然、私たちの存在に気がついた。
「あっっ!翔王子やん~~」
「ああ・・どうも・・」
「いや~~、翔王子、奇遇やん?漫画、買いに来たん?」
「うん・・そうだけど・・」
「私もやねん。ほら~、これ見て」
そう言って美琴はBL漫画を翔王子に見せていた。
「え・・」
翔王子はめちゃくちゃ引いていた。
「あ、そうそう。翔王子」
「なに・・?」
「時雨王子と和樹王子・・その後、どうなん・・?」
「え・・どういうこと・・?」
「まったぁ~~、しらばっくれんでもええがな。実は、そうなんやろ・・?」
「ち・・ちょっと、美琴・・」
私は美琴の腕を引っ張った。
「なによ~、小春」
「突然、なに訊いてんのよ・・」
「いやいや、時雨王子と和樹王子はヒャクパーそうやで」
翔王子はポカンと、呆れて私たちを見ていた。
「翔王子・・申し訳ないでありんす・・気にしないででありんす・・」
「うん・・」
翔王子はそう言って、その場を去った。
「ちょっと待ってぇなあ~翔王子~~」
美琴はそう叫んでいたが、翔王子は振り返ることがなかった。
「美琴・・あんた、完全に引かれちゃったわよ・・」
「うん。別にええよ」
「え・・なんで・・?」
「だから、私は翔王子のことは諦めたんや」
「そ・・そっか・・」
「もう~~せっかく真相を確かめられるチャンスやったのにぃ~」
「美琴・・ちょっと決めつけ過ぎじゃない・・?」
「いや!私は絶対にそうやと思てる。くっそ~どうやって確かめよかな・・」
また美琴は何かを考えている風だった。
「もうこれ以上、余計なことしないで」
「ええ~なんでやの」
「だって違うかも知れないし、もしそうだとしても、知られたくないんじゃない・・?」
「そうやとしたら、小春、あんた完全に失恋やで」
「そりゃそうだけど・・」
「そうであるか否かを、確かめん限りは、希望もへったくれもないがなっ」
「え・・」
へったくれって・・なによ・・
「否の場合、次善策を練ることとかできるけど、ストライクの場合は、策の練りようもあらへんし、練ったところでアホらしいだけやん」
「・・・」
「だからっ!とにかく確かめな」
「ねぇ・・紬はどう思う・・?」
「そうでありんすな~・・確かに美琴の言うことにも一理あるでありんすな」
「げ・・」
「小春は時雨王子と友達になりたいのでありんすか?」
「え・・それは・・」
「違うでありんしょ。恋人になりたいのでありんしょ」
「うん・・」
「そうでありんすなら、やっぱり確かめた方がいいでありんすよ」
「確かめるって・・どうやって?」
「そら~~、もう本人に訊くしかないやろ」
「げぇ~~。私、そんなこと訊けないって・・」
「私が訊いたるがなっ」
「いやいや・・それはいいって・・」
「ほんならどうするん?」
どうするって言ったって・・
私にはわかんないわよ・・
そして翌日・・
いつものように私たちは電車に乗っていた。
隣を見ると、美琴は昨日買ったBL本を読んでいた。
さすがに・・ブックカバーはつけていた。
「美琴・・それ、面白いの・・?」
「ん・・?めっちゃ面白いよ。小春も読むんやったら、貸したるで」
「いやいや・・結構です・・」
やがて王子たちが乗ってくる駅に着いた。
来たぁぁぁ~~~!
今日も爽やかだわああ~~!
「おはようございます」
私はもう、オドオドするのはやめ、はっきりとした口調で挨拶した。
「おう、おはよ」
きゃあ~~~!なんて親しみのある返事なのかしら!
時雨王子は、少し微笑んでそう言った。
「昨日ね、翔・・さんと本屋で会ったんですよ」
「らしいな。翔が言ってたよ」
「あれ・・?今日は、翔さんは、お休みですか」
私は翔王子がいないことに気がついた。
「いや、忘れもんしたってよ」
「そうなんですね」
私はふと、時雨王子の手に目をやった。
え・・
なに・・
ええ~~~!
なんなの~~~!?
そう・・時雨王子と和樹王子は手を繋いでいたのだっっっ!
う・・嘘でしょ・・
和樹王子を見ると、知らん顔して向こうを見ていた。
なに・・なにっっ・・これって・・
私は時雨王子の顔を見た。
すると時雨王子は、意味深な含み笑いをしていた。