十一、自然体
今日は祝日で、昨日に引き続きお休みだ。
いつもなら、美琴と紬と三人で出かけるところだけど、私は家に一人でいた。
両親は親戚の法事で、出かけていなかった。
私にも「行きなさい」と言ってたけど、断った。
私は昨日のことがあって、やはり・・落ち込んでいた。
あ~~あ・・
もう時雨王子とは、話もできないんだなぁ・・
きっと見ても無視されるんだろうな・・
もう・・同じ電車に乗るの、やめようかな・・
私は自室のベッドに寝ころび、天井を見上げていた。
ええ~~い、あれこれ考えても仕方がない!
気晴らしに出かけるとするかっ!
私は服を着替え、家を出た。
美琴と紬も誘おうと思ったが、なんだか気まずくて、それはためらった。
私は電車に乗って、時雨王子の住む街へ行った。
もし・・もしよ?偶然会ったとしても・・これは言い訳ができるよね。
買い物するために、この街へ来たって不思議じゃないもんね・・
私はどこかで、時雨王子に偶然会えることを期待していた。
っていってもね・・そんな偶然なんてなかなかないよね・・
そう考えながら、私は雑貨店や服屋さんなど、適当に見て歩いた。
あっっっ!!
あれは・・第四のイケメン王子じゃないですか~~!
そう・・道を歩く人の中に、時雨王子と和樹王子の住むアパートに入って行った王子が歩いていたのだっっ!
ひゃ~~・・かっこいいぃぃ~~
え・・横にいる女性って・・誰・・?
いやいや・・私の見間違いよね・・
でも・・手を繋いでるし・・
しかも・・ブスなのに・・手を繋いでる・・
ええええ~~~!あの王子は何者っっ!?
そしてあの女性は何者っっ!?
私はそこで一気に気持ちが高ぶった。
だって・・悪いけど・・私も人のこと言えないけど・・ブスよ・・?
なのに・・手を繋いで歩いてるってことは・・
もしかして恋人同士??
きゃあ~~~!
わ・・私も・・ひょっとして・・チャンスがあるのかな・・
私は気になって、二人の後をつけてみた。
すると二人はお洒落なカフェに入って行った。
私もすぐに入り、二人と近い席に座った。
ここなら・・会話とか聞けるかも・・
「でさ、葵ちゃん、式はいつにする?」
「真人くん、そんなに焦らなくてもいいんじゃない?」
「だってさ~俺は早く結婚したいんだよ」
「わかるけど~、まだ貯金が足りないしね」
「俺、もっともっと働くからさ。ね~、結婚しようよ」
げ・・
な・・なんでしょうか・・この会話・・
私は夢でも見ているのでしょうか・・
私が来る日も来る日も夢に描いてた光景が・・いま、まさにっ!現実として・・目の前で起こっているじゃないですかぁぁ~~!
しかもですよ~~!女性の方が言い寄られてるって・・
こんなことって、あるんだぁぁぁ~~~!
「健人だって、早く結婚しろって言ってんだよ」
「まあね~。わかるけど、もう少しお金を貯めてからにしようよ」
「っんなぁ~・・」
「それにね、健人くん、大学へ行くんでしょ。だったら尚更じゃない」
「だーかーらー、それは奨学金で行けるんだって」
「私たちが結婚しちゃったら、健人くんと和樹くん二人でどうやって生活するの?」
「そうだけどさぁ・・」
「せめて、二人が高校卒業するまで待ちましょうよ」
「またそれかよ・・。この話、いつもここで終わるんだよな・・」
「あはは。でも私、嬉しいわ。ありがとう、真人くん」
「葵ちゃん・・」
ぐはぁぁ~~~・・なっ・・なんと熱い会話なのでしょうかぁぁ~~!
葵さんか・・いいなぁ~~・・羨ましいなぁ・・
ガチャン!
ぎゃあ~~!
な・・なんてことを・・
そう、私は二人の会話に夢中になったあまり、コーヒーカップを床に落としてしまったのだっ!
うわ・・注目されてる・・
「大丈夫?」
きゃあ~~!葵さんが声をかけてくれた・・
「あ・・はい・・」
「はい、これで拭いて」
そう言って葵さんは、私にハンカチを差し出してくれた。
カップが落ちた際に、私のスカートにコーヒーのシミがついてしまったのだ。
「あ・・いえ・・持ってますから・・」
「そう?シミになったら大変よ。早く拭き取った方がいいよ」
そう言って葵さんは、私のスカートを拭いてくれようとした。
「いや・・あの・・自分でやりますから・・」
「いいから、いいから」
葵さんはハンカチに水を含ませて、私のスカートにあててくれた。
「お客様、大丈夫ですか?」
そこで店員が布巾を持ってきた。
「あ・・すみません。私、ボーッとしてて・・」
「カップは拾いますので、お客様、席を移動してください」
「いや・・あの・・私、もう出ます」
それから私は葵さんにお礼を言って店を出た。
あああ~~・・焦ったわ・・
それにしても・・葵さん、なんて優しい人なんだろう・・
私は葵さんのために、ハンカチを買うことにした。
早く買わないと・・どっかへ行ってしまうかも・・
私はさっき覗いた雑貨屋へ行き、白地に花柄のハンカチを買った。
それを持って、カフェの前で待つことにした。
ほどなくして二人は店から出てきた。
「あ・・あの・・」
私は葵さんに声をかけた。
「あら、さっきの」
「さっきは本当にありがとうございました」
「あら~それを言うために待っててくれたの?」
「あ・・はい。それで、これ・・どうぞ」
私は包みを差し出した。
「え・・なにかしら?」
「あの・・ハンカチを汚させてしまったので・・買ってきました・・」
「そんな~~。全然、大したことないのに。気を使わせちゃったわね」
「いえ・・嬉しかったです・・」
「んじゃ、お言葉に甘えて頂戴します。ありがとうね」
葵さんはすごく優しい顔をして、微笑んでいた。
「いえ・・じゃ・・私これで・・」
「あなた、お名前は?」
「え・・薄柿小春です・・」
「薄柿さんか。私、水柿葵です。苗字が似てるわね」
「そ・・そうですね・・」
「葵ちゃん、よかったな」
真人王子は、とても嬉しそうだった。
きゃあ~~~!なんて素敵な笑顔なの~~!
「じゃ、薄柿さん、またね」
「はいっ!ありがとうございました!」
そして二人は手を繋いで歩いて行った。
ああ~~・・いいなぁ・・
ほんと羨ましい・・
私ってブスってことを逆手に取って生きてきたけど・・葵さんはそんな感じしないなぁ・・
ありのままっていうか・・すごく自然なんだよね・・
そういえば・・時雨王子が「卑下するな」って言ってたっけ・・
ってか・・時雨王子も葵さんのこと知ってるってことよね・・
真人王子とどういう関係なんだろ・・
あっっ!もしかしてお兄さんとか・・?
うーん、和樹王子と兄弟かも・・
いやあ~~わかんないわ・・
でもこれで、真人王子はそっちじゃないってことは確かよね・・
それだけでもよかった・・
そして次の日・・
私は一人で違う時間帯の電車に乗っていた。
美琴からも紬からも電話がかかってこない・・
怒ってるのかな・・
まあ・・電車はこの時間の方が空いてるし・・
私は座って本を読んでいた。
「おはよ」
えっ・・誰っ?
顔をあげると、目の前に時雨王子が立っていた。
ぎゃあ~~~~!
なっ・・なんで時雨王子・・
しかも一人で・・
「あ・・えっと・・」
「なんだよ、挨拶くらいしろよ」
「お・・おはようございます・・」
なんで・・なんで私に話しかけてきたの・・?
怒ってるんじゃなかったの・・?
「お前さ、昨日、葵ちゃんにハンカチプレゼントしたんだってな」
「え・・ああ・・はい・・」
「葵ちゃん、喜んでたぜ」
「そ・・そうですか・・」
そっか・・あの後、私のこと話ししたんだ・・葵さん・・
「俺、名前聞いてびっくりしたぜ。まさかお前だったなんてよ」
「はあ・・。あの・・時雨・・さん」
「なんだよ」
「今日は、なんでお一人なんですか・・」
「家を出たところで忘れもんに気がついてさ。ってか、お前こそなんで一人なんだよ」
「え・・それは・・」
美琴と紬とケンカしたことなんて、言えないしな・・
「わ・・私も忘れ物をして・・」
「ふーん」
「あの・・この間は・・すみませんでした・・」
「あ?」
「その・・バードウォッチングのこと・・」
「別にいいよ。もう気にしてねぇし」
え・・気にしてないんだ・・気にしてないんだぁぁぁ~~~!
神さま・・ありがとう~~~!
「あのっ・・これからも話をしてもいいですか・・」
「ああ」
きゃあ~~~!「ああ」って!やったぁぁぁ~~~!
「あのっ・・あのっ!ありがとうございます!」
「お前って、変なやつだな」
「え・・」
「大勢の前で告ったかと思えば、今みたいにオドオドしててよ」
「・・・」
「お前、もっと自分に自信を持てよ」
「え・・」
「見た目がどうのこうのってあるけどさ、そんなこと気にしてたってしょうがねぇだろ」
「は・・はい・・」
「俺さ、思うんだけどさ。お前ってほんとは根は明るいんじゃねぇのか」
「え・・」
「普通にしてろよ、普通に」
「はい・・」
「んじゃな」
E高校前に着き、時雨王子は降りて行った。
普通に・・か・・