十、バードウォッチング?
私は王子たちの後を、更に着いて行った。
ど・・どこまで行くの・・
もうこの辺りで・・いいんじゃないの・・誰もいないよ・・
王子たちは墓地の中を、更に奥へと入って行った。
それにしても・・墓地って・・相当なマニアっていうか・・
怖くないのかな・・
ある意味、不謹慎なことやって・・バチが当たるとか思わないのかな・・
ルルル・・
あっ・・電話だ。
「もしもし」
「小春。バス停におらんがなっ」
「ごめん、ごめん。王子の後をつけたのよ」
「そうなんや。んで、どこなん?」
「墓地の中・・」
「マジで~~!やっぱりな・・。すぐに行くわ」
美琴はそう言って電話を切った。
あ・・王子たち・・立ち止まったわ・・
お墓の前で立ってる・・
もしや・・そこで・・?
すると王子たちはお墓の前で座り、手を合わせていた。
え・・もしかして・・マジのお墓参りだったの・・?
誰のお墓なんだろう・・知り合いかな・・
ヤダ・・和樹王子・・泣ている・・
あ・・時雨王子・・和樹王子の肩を抱いてる・・
んで・・ポンポンしてる・・
「小春・・」
「あっ・・」
振り向くと、紬と美琴が立っていた。
「あらら・・これからでありんしたか・・」
紬が王子たちの様子を見てそう言った。
「ち・・違うのよ・・なんか、ほんとにお墓参りに来たみたいよ・・」
「え・・そうなん?」
「そうでありんしたか・・」
「え・・和樹王子・・泣いてるやん・・」
「うん・・そうなのよ・・」
「誰のお墓なんやろな・・」
ほどなくして王子たちは立ち上がった。
「まずい・・見つかってしまう・・」
「逃げるでありんす・・」
私たちは走って墓地の外へ出た。
「ハアハア・・や・・ヤバかった・・」
「ぐはあ・・しんどいでありんす・・」
紬は汗びっしょりになっていた。
「ほら、タオル」
美琴が紬にハンドタオルを渡していた。
「あ・・ありがと・・でありんす」
「それにしても誰のお墓やったんやろな・・。和樹王子が泣くなんて・・」
「あれかな・・肉親・・?親とか・・?」
「まあ、そう考えるのが普通やな」
「やっぱりあの王子たち・・何もないんじゃない・・?」
「そうとも言えないでありんすよ」
「え・・どう言うこと?」
「好きな相手のお墓参り・・一緒に行くのは当然でありんしょ」
「そやな。和樹王子、泣くくらいやから、その事情を時雨王子は知ってるんやで。そりゃ一人で行かせんわな」
「そ・・そうなのかな・・」
「とにかく私は、決定的瞬間を見たいわぁぁ~~」
「もう、美琴はそればっかり!」
「あ・・お前ら・・」
私たちが妄想に夢中になっていると、王子たちは私たちの傍まで来ていた。
げーーーーーーっっ!!
いっ・・いつの間にっっっ!
「あ・・!時雨王子に和樹王子じゃないですか!」
私は必死に驚いて見せた。
「お前ら、こんなとこでなにやってんだよ」
「なにって・・えっと・・」
「バードウォッチングですねん」
美琴はそう言って、双眼鏡で空を見ていた。
わあ~~・・わざとらし過ぎ~~
「そうそう・・今日は天気がいいでありんすから、鳥も飛び放題でありんす・・」
「そっ・・そうなんですよ~。バードウォッチングに来たんです~」
「ふーん」
「バードウォッチングなら、野鳥公園とか行くはずだけど」
和樹王子が、すかさず突っ込んできた。
ひぃぃ~~・・
「いや・・ここも公園でありんす・・」
ぎゃ~~紬・・それって無理無理・・ここ、公園墓地だし・・
「ま、別にいいんじゃね?和樹、行こうぜ」
「そうだね。きみたち、またね」
そう言って二人はバス停の方へ歩いて行った。
ふわぁ~~・・危なかった・・
「私らもバスに乗ろか」
「そうでありんすな」
「え・・王子たちと同じバスに乗るの・・?」
「あったり前田のクラッカーやん」
「なによ・・それ」
「せっかくでありんす。同乗するでありんす」
げ~~~~・・マジぃぃ~~・・?
そして私たちもバス停に向かった。
すると王子たちは仲良く並んで、ベンチに座っていた。
そこで時雨王子は「なんだよ」という風な表情を、私たちに向けていた。
「バードウォッチングは終わったのかよ」
「まあ・・そうやね」
「場所を移動するの?」
和樹王子がそう訊いてきた。
「まあ・・そうでありんすな・・」
「そっか」
和樹王子は、愛想のない返事をした。
うわ・・完全に引かれてる・・
「あの・・訊きたいことがあるんやけど」
美琴は二人にそう訊ねた。
み・・美琴・・なにを訊くつもりなの・・?
「なんだよ」
「時雨王子と和樹王子は、一緒に住んでるん?」
すると時雨王子の顔色が変わった。
わっ・・これって・・すごく怒ってない・・?
「おい、お前。それ、どういうことだ」
「どういうって・・そんな感じがしただけやけど・・」
「はあ??感じがしただと?てめぇ・・何か知ってんだろ。正直に言え」
「いや・・別に私は・・」
「それにバードウォッチングも、怪しいよな。もしかしてお前ら、俺たちをつけてきたのか」
「そんなアホな。ほんまにバードウォッチングでここに来たんやって」
「おい、薄柿。そうなのか」
えええ~~~・・時雨王子・・
ここで私に振るの・・?
「いや・・あの・・その・・」
「っんだよ!はっきり言え!」
ひっ・・こ・・怖い・・
時雨王子って・・こんなに怖い人だったの・・?
「健人くん、もういいじゃないか。彼女、怖がってるよ」
「ったく・・こいつら前からなんか怪しいんだよな」
「まあまあ。きみ、そんなに怖がらなくていいからね」
「ったく・・甘いんだよ、和樹は」
「ご・・ごめんなさい・・」
私は頼りなく謝った。
「きみ、もういいよ」
和樹王子が優しくそう言った。
「言っとくがなっ!今後も妙な真似しやがったら、ただじゃ置かねぇからな」
「は・・はい・・」
「ちょっと!そんなにきつく言うことないやん!」
突然、美琴が怒り出した。
「なんだよ・・てめぇ」
「あんたさ、小春があんたのこと好きなん知ってるやろ?」
「はあ?知るかよ」
「小春はあんたのことが好きで、追いかけてきたんや!それがそんなにアカンことなんか!」
げっ・・美琴・・なに言ってるのよ・・
あんたは・・王子二人の真相を確かめたくて来たんじゃないの・・
私は反対したじゃないのよ~~!
「俺はな!もうとっくに断ってんだよ!だから追いかけられるのは迷惑なんだよ!」
「ひどっ!それでも人なん?男なん?」
「ああっ?なんだよ、それ」
「イケメンやと思て、自惚れんのも大概にしぃや!」
「ちょ・・ちょっと・・美琴、もうやめて・・」
「ふんっ、あんたらなんか、こっちからお断りやっちゅーーねんっ!」
「うるせぇよ!バカか、お前ら」
「健人くん・・まあまあ。落ち着いて・・」
「ああ~~気分わりぃ~~。和樹、歩いて帰るぞ」
そう言って時雨王子と和樹王子は去って行った。
「美琴・・ちょっと・・言い過ぎじゃない・・?」
「ふふふ・・」
「なに笑ってんのよ・・」
「ははあ~~なるほど。美琴、そうでありんしたか」
「うん。紬はわかってくれたんやな」
「ちょっと・・なんなのよ・・」
「ああでも言わないと・・私たちの張り込みがバレたでありんしょ」
「えっ・・」
「うまく誤魔化せたでありんした・・」
「はあ~~、どうしょうかと思たわ・・ビビったぁぁ」
ちょっと・・二人ともなに言ってんのよ・・
うまく誤魔化せたとか・・なに言ってんのよ・・
私たちが悪いんじゃないの・・
しかも・・もう完全に時雨王子を怒らせてしまった・・
これで完全に・・可能性・・いや、最初から可能性なんてなかったけど・・でも完全に可能性が断たれた・・
もう私は・・時雨王子と話もできなくなった・・
「どうしてくれるの・・」
「は?小春、どうしたん?」
「どうしてくれるのよ・・」
「え・・なに言うてんの」
「時雨王子・・完全に怒らせた・・」
「ああ~~・・そのことかいな」
「そのことかいなって・・美琴、なに言ってんのよ!」
「まあまあ、落ち着きぃな」
「小春・・相手も人間でありんす。時間が経てば怒りもおさまるでありんすよ・・」
「紬まで・・」
「小春。あのまま時雨王子に押されてたら、小春は正直に話したでありんしょ・・」
「なにが言いたいの・・」
「張り込んでたことを言えば、それこそ、完全に嫌われてしまったでありんすよ・・」
「はあ?なに言ってんのよ。だから私は反対したじゃない!」
「それはそうでありんすが・・」
「美琴と紬が、王子たちの真相とか言っちゃって、無理に張り込んだんじゃないの!ほんとはただの友達かも知れないのに!」
「小春・・」
「もういい!」
私はそう言って、一人で歩いて帰った。