一、王子さまとの出遭い
「小春、今日も素敵だね」
「ヤダぁ~、王子さまったらぁ~」
「さあ、小春の好きなところ、どこへでも連れて行ってあげるよ」
「えぇ~そんなぁ~」
「言ってごらんよ・・マイスイートハニーベイベー?」
「あっはっはぁ~~」
同級生の路考紬と、紫土美琴が大笑いした。
私たちは、花の女子高生「三人トリオ」だ。
勉強よりも全力で恋愛に興味があり、毎日のようにこうして、いつか出遭えるであろう「王子さま」との恋愛シミュレーションを妄想しているのだ。
「でもさ~こうやって妄想ばかりしてても、らぁちがあかんがなっ」
関西出身の美琴は、高校入学とともに関東へ引っ越してきたのだ。
「そうでありんす~。妄想の日々も、なかなか辛いものがありんす」
地元出身の紬は、美の象徴ともいえる花魁に憧れ、言葉遣いは花魁言葉なのだ。
「ここらでやっぱ、行動を起こさないとね・・。あっという間に高校生活なんて終わっちゃうよ?」
私は薄柿小春。
思いっ切り、ものすごーーく、超絶の面食いなのだ。
現実には、私が理想とするイケメンなんて、滅多にお目にかかれない。
なので、二次元世界にのめり込みつつあったのだが、紬と美琴に出遭い、三次元の世界に無理やり引き戻された。
私はそれがいいのか悪いのか、いまいち判断できなかったが、二次元世界に全く興味がない二人のパワーとポジィティブな思考に、私はいつしか惹かれていったのだ。
そんな妄想の日々は別にいいのだが・・最大の問題を私たちは抱えていた。
私たち三人は「ブストリオ」なのだ。
私は小柄で痩せていて、後姿は「美人」なのだが、前に回ると小さな目が垂れていて鼻も低く、おまけに出っ歯だった。
関西人の美琴は、私とは真逆で背が高く、170cmもある。
モデル体型といえばそうなのだが、これも前に回ると目は五木ひろしみたいに細く、鼻は十人並みだが唇は分厚く、たらこみたいだった。
花魁好きな紬は、誰が見てもデブ。顔はメイプル超合金の安藤なつに似ていた。
こんなブス三人トリオの私たちだが、いじめられた経験は一度もない。
そしてあろうことか、ブスということに、全く引け目を感じていない。
むしろ「個性」として、自慢に思うような「前向き」な性格だった。
・・と、これはあくまでも主体的思考に過ぎない。
やはりかわいい子、美人な子が持てはやされるし、世間の風は厳しく冷たいものに変わりはなかった。
「ねぇ、知ってる?」
数日後、私は通学途中で二人に話しかけた。
「なにを?」
「なんでありんすか」
「次の駅から乗ってくる、イケメン男子三人がいるのよ」
「えっ、知らんで~」
「まあいいから・・この車両に乗ってくるのよ。すっごくイケメンなのよ」
「小春は、いつから知ってるでありんすか」
私たちはいつもの時間より、早めの電車に乗っていた。
私はどうしても二人に、イケメンが乗って来ることを知らせたかったので、無理やりこの時間に誘った。
「ほら、私さ。当番で早くいかなくちゃいけないことがあったでしょ」
「ああ~そうやな」
「その時、偶然見たの」
「そうでありんすか。で、王子さまに相応しいイケメンでありんした?」
「そうなのよ!もうびっくりしちゃって」
「へぇ~それは楽しみやん~」
ほどなくして次の駅に着いた。
わんさかと学生たちが乗り込んできた。
「ほらほら・・来た。あの人たちよ」
私たちと同じ車両に、背の高い男子が二人と、少し背の低い男子が乗ってきた。
「えっ・・あの人らって・・E高校の人やん・・」
「そうなのよ・・」
「ちょっと・・レベルが高すぎるんとちゃう?」
「なに言ってんのよ。私たちの理想の王子さまじゃないの~」
「わあ・・素敵でありんす・・」
紬は早くも目がハートになっていた。
私は中でも、内田篤人似の長身イケメンに心を奪われていた。
かっこいいわぁ~~・・まさに私が探し求めていた王子さまだわぁ・・
きゃあ~~笑ってるわ・・素敵~~
「私・・ちょっと近づいてみるでありんす・・」
「えっ・・ちょっと待ちぃな。あんたの身体では、この人混みを行くんは迷惑やで」
「でも・・」
「まあまあ・・今日のところは見るだけってことで・・」
私と美琴は、紬の強行突破を制した。
「それにしても揃いも揃って・・イケメンとは、こんなこともあるんやなあ~」
「そうなのよ。でさ・・向こうも三人、こちらも三人・・。これは運命としか言いようがないよね」
「そうでありんすよ~。神さまはやはり私たちの味方だったでありんす・・」
と・・勝手な神さま味方論に、納得する私たちだった。
そして私たちは次の日も、同じ時間帯の電車に乗った。
「さて・・次の駅だよ・・」
今日も昨日と同じ車両に乗ったが、おそらく彼らが乗って来るであろう扉の近くに私たちはいた。
ほどなくして次の駅に着き、扉が開いた。
わっ・・来たぁぁぁ~~~!
彼らは私たちの予想通りの扉から乗ってきた。
うおおおぉぉぉぅぅぅ・・
私の王子さまが・・私の目の前に・・きゃあ~~
すると王子さまの鞄が、私の腕にあたった。
「あ・・ごめん」
ぬうおぉぉ~~~、王子さまが「ごめん」と・・「ごめん」とおおおぉぉ~~
「い・・いえ・・」
しかし王子さまは、それだけ言って友達二人と楽しそうに話していた。
「小春・・小春・・」
美琴が私の耳元で囁いた。
「なに・・?」
「やったやん」
「この先・・どうすればいいと思う・・?」
「電車の揺れに乗じて、ぶつかったらええんちゃう」
「おお・・それはいいかも」
そして私は、さほど揺れもしないのに、わざとぶつかってみた。
「あっ・・すみません・・」
私はしおらしく謝った。
「いや・・別に」
王子さまは少し迷惑そうに言った。
「あの・・」
私はこの機を逃してはならないと、更に話しかけた。
「なんだよ」
他の王子さま二人も私の方を見ていた。
うわあぁぁ~~これって・・逆ハーレム?きゃあ~~
「E高校の制服ですよね・・それ・・」
「ああ」
「す・・素敵ですね・・」
「はあ?」
王子さまはとても迷惑そうだった。
「たけちゃん、そんな風にいわなくても」
一人の王子さまが口を開いた。
たけちゃん・・たけちゃんって言うんだ・・この人・・
「僕たち、E校生だよ」
もう一人の背の高いイケメン王子さまがそう言った。
ぐわあぁぁ~~・・もう気絶しそうだわ・・
それにしても、たけちゃん王子と、この人似てるわ・・
「私たち、C高校の生徒でありんすよ~」
紬がそう言った。
「ありんす・・なんだよ、その言葉」
たけちゃん王子がそう言った。
「私は・・花魁が好きでありんす」
「ふーん」
やがてE高校前に着き、三人の王子は降りて行った。
「わあ~~話せた!私、話せたわぁぁ」
「やったやん~~小春」
「私も話せたでありんす。しかも花魁好きということもアピールできたでありんす」
よーーしっ。この次はもっと話しかけるぞ!
「小春は、たけちゃん王子やな」
「そうなの~。やっぱりわかった?」
「っんなん~見てたらわかるって」
「美琴は?」
「私はな~、あの小さい人」
「おお~~」
「私はもう一人の背の高い人でありんす~」
それぞれ意中の人もバラバラで、そこは揉めることがなかった。
私たちは、これからバラ色の高校生活が待っていると勝手に妄想し、学校へ向かう足取りも軽やかだった。