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任せなさい

「あの、文月君? こんな所に呼び出して、なんか用?」


「よく来たな。望月香菜子もちづきかなこさん。いいや、あえてカナたんと呼ばせていただこう!」


 消しゴム事件の翌日の昼休み。俺は、カナたんを校舎裏のひと気のない場所に呼び出していた。


「カナたん!? べ、別に呼び方は人それぞれだけど......それより、その............ごめんなさい!」


「ワッツ!? なんでカナたんが謝るんだい?」


 まさかのカナたんの行動に驚きを隠せない。


「いや、だから......校舎裏と言えば告白......かな? と思いまして......」


「なっ、なんですってえええ!?」


 動揺した。あまりにも動揺しすぎて、オネエのような驚き方をしてしまった。まさか俺に告白されると思っていたなんて......しかし、考えてみればこの校舎裏に呼び出すというシチュエーション、完全に告る流れのやつだ。しまった。自分で学園恋愛小説を書こうと思ったら、絶対に使うであろう鉄板のシナリオじゃないか。ああ、なんでそんなことも考えずに呼び出してしまったんだ俺は。


「あの、文月君? 顔赤いけど大丈夫?」


「へっ!? いや、ぜ、全然、しょんな、告るとか? しねーから。俺、お、おま、お前のことなんか、しゅ、しゅきじゃねーし」


「え? 今なんて?」


 何を言っているんだ俺は! と言うか、顔が赤くなってるだとお!? こういう状況に耐性なさすぎるだろ、自分!

 落ち着けえ、落ち着いて話を戻せえ! 頑張れ! 未来の芥川賞作家ぁ!


「ゴホン。今のは忘れてくれ。少し取り乱してしまったようだ。話を戻すが、その前にまずは君に謝らないといけないな。昨日は勝手に手紙を読んでしまって本当にすまないと思っているよ」


「そのことかあ。まあ、見ちゃったのはしょうがないよ。それに、私だって文月君に消しゴム当てちゃったし。どっちもどっちでおあいこだね。ただ、その......龍崎君に言わないって約束だけは守ってよね」


「ははははは。それなら心配いらない! 俺は、か弱き乙女の秘密をバラすほどヤボではないからな。それよりも、今日はカナたんに嬉しいお知らせ、じゃなかった『春を告げる風の贈り物』を持ってきてあげたのだよ」


 俺は自信満々にそう言い放った。


「嬉しいお知らせ? 全然見当もつかないんだけど......」


「ちょ、おまっ! 嬉しいお知らせではない! 『春を告げる風の贈り物』だ!」


「どっちにしろなんか嫌な予感しかしなインドカレーだよ」


「やめんか! 語尾に変な言葉をくっつけるなああ!」


「はーい。でも、本当に嫌な予感しかしないんだけど」


 カナたんは不服そうな表情を浮かべた。


「フフフ。なあに、簡単なことさ。小説を執筆する片手間に、俺が君の片思いを実らせてやろうと思ってな」


「え?」


 カナたんは俺の話を聞くと、ポカーンとした表情を浮かべた。


「あれ? もっと喜んでもいいのだが。そうか、聞こえなかったのか。じゃあもう一回言おう。小説を執筆する片手間に俺が君の片思いを......」


「いやいやいやいやいや、なんでそうなるのよっ!」


「え? 龍崎君と付き合いたいんでしょ?」


「いや、そうだけどっ! なんで文月君が実らせようとしてくるわけ!?」


「え? だって、片思いって聞いたから」


「 イケメンかよっ! さりげない優しさはお節介と紙一重かよっ!」


「いや、それほどでも」


「褒めてないよっ! むしろ拒絶だよっ! それに、小説を執筆する片手間ってなんだよ! 私の大事な片思いはポテチ程度かよっ!」


「俺が小説書いてる時はコーヒーを飲んでいるが」


「知らねえよ! 皮肉だよっ! はあ、はあ、なんか疲れちゃった......」


 カナたんは一通り叫ぶと、息を切らしながら膝に手をついた。


「俺に手伝ってもらえて嬉しいのはわかるが、はしゃぎすぎではないかな? カナたんはおとなしそうに見えて意外と感情表現が豊かなようだな」


「お前のせいだよっ! ファンデーションで塗り固めた私の内面をさらけ出したのは、お前が初めてだよっ!」


「その表現、もらった!」


 俺はメモ帳を取り出し、カナたんが発した言葉を書き込んだ。それを見てカナたんは、がっくしと肩を落とす。


「もういいよ......私、龍崎君と付き合えなくてもいいから、変なことしないでよ......」


「え? あきらめてしまうのか? 君の龍崎君への想いはそんなものだったのかい?」


「やめてよ。イケメンで頭も良くて学級委員な龍崎君と、顔もスタイルも頭も、どれを取っても平凡な私とじゃどう考えても釣り合わないのよ。それに、第三者から私の恋を引っ掻き回されてフラれて終わるっていうのは絶対にイヤ」


 カナたんは真剣な顔でそう言った。


「ほほう。カナたんは自分に自信がないのだろうな。龍崎君に対する全てのことにマイナス思考になっている。だがしかし、案ずることは無い。この文月、必ずやカナたんの片思いを実らせてやる。小説家の俺に想像できない恋のシナリオなど存在しないのだあああ! ははははは」


「あのねえ、あんたどっからそんな自信がくるわけ? どっからどう見ても根暗なオタクで、恋愛なんかした事なさそうだし。まあ、龍崎君の好きな女の子のタイプとかを知ってるって言うなら、わからないでもないけど」






「知ってるけど」





「え?」


 カナたんの目に赤い炎が宿ってくるのがわかった。


「なんであんたが知ってんのよ!? 別に龍崎君とは仲良くないでしょ!? それに、私が龍崎君の事好きって知ったのは昨日でしょ!?」


「フフフフフ。恋する乙女よ、小説家のフットワークを舐めないでほしいな。偉大な作品を書き上げるためには、膨大な下調べが必要なのだよ!」


「何よそれ! ちょっとカッコいいじゃない! で、何?」


「え?」


「だから、教えなさいよ」


「え?」


「龍崎君のタイプの女の子がどういうのか、教えなさいって言ってるの。わかる?」


 カナたんは、静かに、それでいて今にも爆発しそうな火山のような凄みで俺に詰め寄ってきた。


「どうしよっかな〜、俺も手伝わせてくれるなら考えてもいいんだけどな〜」


 俺もここで引くわけにはいかない。


「なんでよ! タイプを知ってるなら教えてくれてもいいでしょ!」


「なんかな〜、タイプだけ聞いて俺は必要ないって言われそうだし〜」


 火花散る心理戦が繰り広げられていた。


「くっ......わかった。わかりましたー。いいわよ。私だって、龍崎君と付き合いたいし。あんたがそこまで言うなら、私と龍崎君のキューピッドになってよ!」


 カナたんは、観念した様にそう言った。


「その言葉を待っていたのだよ。じゃあ、これからよろしく頼むよ。恋する乙女よ」


「フラれたりしたら、許さないんだからね」


 俺はカナたんと固い握手を交わした。

 こうして、俺とカナたんの長い長い春への旅が幕を開けたのだった......

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