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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

刑場のアルラウネ

作者: Ash
掲載日:2016/06/08

 刑の執行は民衆にとって最大の娯楽だった。日頃の不平不満を罪人にぶつけることを許されているこのイベントを心待ちにしている者も多い。

 罪を犯せば罰を受けなければいけない。

 その最上級の罰が公開処刑である。

 罪を犯した者は民衆の捌け口にされるのだ。

 絞首刑が行われる刑場は異様な熱気に包まれている。これからその死に様と死体が街の周囲を引きずり回されて民衆を楽しませるのだから。

 それだけでなく、今回の罪人は貴族だ。

 民衆が熱狂するのも仕方がない。

 自分たちの上に君臨する絶対的な存在が処刑されるのだ。

 高位貴族であれば毒を渡され、病死となるところが絞首刑だ。高位貴族が処刑されると言う、ありえない状況に民衆は酔いしれている。


 刑場の広間の中心には絞首台が置かれ、白い頭巾で顔を隠した執行人とその助手が罪人を待っていた。

 後ろ手に両手首をくくられ、兵に押されてたどたどしい足取りで罪人が歩いてくる。

 櫛で梳かしていないぼさぼさの金髪と贅をつくしたドレスも着たまま横になったのがわかる、皺だらけでくたびれた様子だ。化粧の剥げ落ちた顔と同じようにその目に光はない。社交界の華と持て囃された美貌は一夜にしてみすぼらしいものになってしまっていた。

 貴賓席からはその姿を嘲笑うもの、憂えるもの、そのどちらでもない声が漏れる。


「クラリッサ・アデル・フィンチャム。レオン王子の婚約者でありながら、権力を使って数多の不義を働いた。不義を強要された者たちの訴えと王家への侮辱により、絞首刑とする」

「・・・」


 罪状が高々と読み上げられても罪人は無言だった。


「何か言うことはないのか?」

「・・・」


 罪状を読み上げていた文官の目くばせに貴賓席にいる王子が頷く。


「王子や被害者への謝罪の言葉もないのか」

「・・・」


 文官は書状を丸めて仕舞うと絞首台から離れて行った。

 執行人が罪人の首に縄をかけて、外れないことを確認すると助手に合図する。

 執行人の合図で絞首台の床が落ち、罪人の足元から支える物がなくなる。

 大歓声が刑場を揺るがせ、一つの悲痛な呻き声を掻き消した。

 刑が執行されて貴賓席にいた王侯貴族は用がなくなったとばかりに立ち去る。

 罪人の遺体が絞首台から降ろされると、またも歓声が上がる。

 罪人の身体が刑場から引き摺り出された後を観衆たちがついて出て行く。

 観衆がいなくなり、治安を維持する必要がなくなると、警備の兵士たちもその場から引き揚げて行った。

 そこに男が一人、残っていた。

 刑の執行の警備していた兵士たちはその男のことを知っていたので何も言わなかった。観衆たちが馬に引き摺られる罪人の遺体を眺めに移動しても、男がそれを目にしたくない気持ちもわかった。

 罪人は男の妹だった。

 妹が拘束された時に抗議した父は宰相であるにもかかわらず、王子たちに処刑が終わった連絡が齎されるまで軟禁されている。

 男は父親のように抗議しなかった。抗議することで不興を買う役は父親が負ったからだ。

 だが、男は妹を処刑から救うことができなかった。

 その力が足りなかった。

 昨夜、家族との最後の面会として会うことしかできなかった。

 逃がす手引きもできなかった。

 国王がこの地を離れていなければ、男の妹は処刑どころか拘束されることもなかった。

 それを知っていた王子たちは国王の留守を狙って、このような企てを行ったのだ。

 男の弟は王宮に籠もって仕事をすることを選択した。愛する妹の処刑に立ち会うことなど耐えられなかったから。

 軟禁されている父の補佐をしている男は立ち会うことを選択した。

 妹の死を家族の誰かが見届ける為に、誰かが立ち会うしかなかったから。母にも嫁いだ姉妹たちにもその役目を負わせるわけにはいかない。

 家族は皆、愛する者の死に打ちのめされている。立ち会うことなど到底できない。

 遠くで民衆の歓声がまた上がる。

 男は立ち尽くしたままだった。

 刑場の外に出ることができなかった。

 外でどのようなことが行われているのか、見たくもなかった。

 愛する妹の死体がどのように辱められているのかなど見れなかった。

 動けずに耐えるだけだった。

 その時、絞首台の床に空いた穴の中から植物が生えてきた。それは男の目の前で更に大きく成長していく。

 見る見る間に植物は刑場の地面一杯に広がっていった。

 そして、赤い蕾を一つだけ付けた。蕾は瞬く間に成人した人間が入れるくらい大きさに膨らんでいった。

 蕾が開き、咲いた花は五枚の花弁を持つ花だった。

 その中には裸の女が蹲っていた。


「・・・ァぁ・・・」


 微かな声に男は女へと近づく。

 蕾と同じ色の赤い髪。顔の造作は罪人として処刑された男の妹と同じ繊細な顔立ち。


「罪人の処刑で咲く花――アルラウネか・・・」


 その声に反応するかのように女の目が開く。男の妹の髪の色である金色の長いまつ毛に縁どられた目は男やその妹と同じ菫色。

 女は焦点の合わない目で男を見ていたが、身体を起こすと抱擁を求めるかのように両腕を男に差し伸べる。

 男は上着を脱ぎ、それで女を包むと求められるまま、抱き締めるように抱え上げて刑場を後にした。


「家に帰ろう、クラリッサ」


 女が花から離れると、植物は跡形もなく消え去り、男がアルラウネと呼んだものの形跡はどこにもなくなった。このアルラウネが誕生するのを見聞きした者も誰もいない。


 処刑が終わり、軟禁を解かれた宰相は国王に急使を出した。

 ほどなく、急いで戻って来た国王たちの手で王子たちは拘束された。

 と言うのも、宰相が軟禁されていたのは国王の留守中に残されていた手練れが王子たちと同調して、拘束できる者が残っていなかったからだ。

 王子とその同調した者たちがどうなったか。彼らは厳重な罰を受けた。

 宰相を軟禁したこと。

 公正な裁きの場を設けずに貴族の令嬢を処刑したこと。

 そのどちらも正当化できる理由はなく、国を混乱させたからだ。

 宰相補佐を務めていた男は政治の道を退き、次の宰相は宰相の次男が担うことになった。

 宰相の長男は領地に引き籠もり、研究生活を送っていると言う。




◇◇◇




「おはよう、クラリッサ。朝食が終わったら、今日は文字の勉強をしよう」

「はい、ご主人様」


 そこでは外界とは異なる穏やかな時間だけが流れていた。

クラリッサ・・・冤罪をかけられ、処刑される貴族の令嬢

宰相・・・クラリッサが処刑されるまで軟禁されている

宰相の長男・・・クラリッサの兄。アルラウネを領地に連れ帰って世話をする

宰相の次男・・・クラリッサの兄。兄の代わりに宰相になる

クラリッサの母、姉妹たち・・・クラリッサが処刑されると知って寝込む

王子たち(王都に残っている手練れ含む)・・・女に騙されてクラリッサを殺したいほど憎んでいる

国王(精鋭の護衛付き)・・・用事で王都を離れている

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― 新着の感想 ―
[一言] 助けはこないという別作家さんのやつに似てるような
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