3
午前の授業も四限目を残して終わり、三人と一体は廻流の机の周りに集まって雑談をしている。
朝にけたたましく鳴いていた蝉たちの声は海に近いこの辺りではあまり聞こえない。
冷房のような高価な設備は無く、教室の隅でからからと回る扇風機が生ぬるい風を送り続けている。しかし、それの調子も悪く、時たま自分の仕事を忘れてしまったかのようにぴたりと止まってしまう。
イツカはまた止まってしまった扇風機に駆けよって頭を軽く叩いてみる。
再び動き出した扇風機を見て満足そうに頷くと、再び元の場所へと戻った。
「祭りが楽しみだよ! ふわふわわたがしに金魚すくい! やきそば! 射的にくじ! 色々あるけどその中ではやっぱりあのデロデロソースのやきそばは絶品だね! 祭りで食べる物は何でも八割増しでおいしく感じるのはなんでかな! レイ分かる?」
きらきらと目を輝かせてはしゃぎまわるイツカはレイをばしばしと叩く。
「ピー」
「やめたりーや! レイやんが白目剥いてるで!」
京がイツカとレイの間に割って入る。
「ピピー。お祭りで食べ物ガおいシく感じらレる理由。検索終了しまシた。人ノ味覚は他の五感とリンクしてオり、楽しいトか美しイと感じルと、味覚にモその共鳴反応がおこッテ、食べ物がヨり一層おいシく感じラれルそうでス」
「本当!?」
「ウソでス。適当でス」
「それっぽい事を真面目に言うな!」
「まあ、レイが言うと本当に聞こえるから怖いよね。当然といえば当然だけどこの中で一番頭いいし」
「これデも一応みなさンに合わせるように、同程度の知識しかインプットしてないノですガ……」
「あたしがバカだってかー!」
「そうトも言えマす」
「せやせや。しょーもないウソにだまされるイツカがアホや」
「わかった後で二人とも叩きのめす」
「冗談でスよ! 申し訳ありマせん! 叩かなイで!」
まるで涙を流しているかのように右腕をマスクに当てながらレイは必死に謝る。
「へいへい、すまんすまーん。暴力女こわいこわーい」
京は舌を出しながら鼻をほじっている。
「もうレイはいいけど京、あんたは今日無事に昼ごはん食べれるとおもうなよ」
そんな具合に特に内容のない話をしていると、たてつけの悪い教室のドアががたがたと開いた。
ようやく教壇に姿を現した尾張は、日誌を教壇に放って、脇に挟んでいた歴史の教科書を開く。
「おう。今お前らが言っていたように、もうすぐ祭りがあるから、国語とかやめて歴史するぞ、歴史。この国の戦争のページ開け」
尾張のその声で四人は各々の席に戻る。
「毎回思うけど、授業適当すぎだよ! オワセン!」
手を挙げてイツカは尾張に抗議するが、尾張はうちわを扇ぎながら窓から見える海の遠くの方を見ている。
「うるせーうるせー。はよ開け」
尾張はひらひらとイツカに向かって気だるそうに手を振った。
「百二十五ページ辺りガ良いかと思イまス」
「おう、じゃあそのページ開け。レイはなんでお前所々高音なんだ?」
「少々校内暴力ガありまシて」
「そうか、各々レイを殴って拳を痛めないように。以上」
「ボクが治療すルので、ボクを殴ってケガをしタ場合は早急に仰っテくださいネ」
そう付け加えるレイに対して廻流は頬杖をついて片眉をしかめる。
「レイって割と天然だよね、ロボなのに」
「ボクにだってちゃんと感情ハありますヨ! 殴られルと普通に痛いデすし、悲しいノで、できれバ暴力などハやめて下さイね」
「ホント高性能だわ」
肩をすくめて廻流はカバンから教科書を取り出す。
「私語やめろー。さっさと開けー」
既に机でよだれを垂らして寝ている京以外の三人はそれぞれ歴史の教科書のページをパラパラとめくってゆく。