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最終話 二人が出した答え

「おめでとう」

 瑞ノ葉公園を出た俺と冴倉――いや、冴倉を出迎えたのは、イリスさんのそんな言葉だった。

 イリスさんの表情は明るい。そしてそのセリフ……いや、そんなことを確認するまでもなく、結果は俺たちがよく分かっていた。

「ありがとうございます、師匠」

「これで南月も一人前の魔女ね。もし望むなら、一度は断らせたエルの称号を申請してもいいけど?」

 笑顔と真顔が混ざった様な何とも言えない表情で、イリスさんはそんなことを言った。

 どうでもいいけど、冴倉ってミドルネームあるよな……エルって名前、どこに入れるんだろう?

「それは、遠慮しておきます。もしまたその名を頂けるなら、それはあたしが……あたし自身の力で、長老会から頂きます」

「そう?」

 そう答えるイリスさんの表情は、少しだけ柔らかいものに変わっていた。師匠という立場ではなく、まるで冴倉のことを自分の娘でも見るかの様に優しさに溢れた目をしている。

「南月なら、直ぐにあんなババアども納得させられるよ」

「そうですか?」

 ハッハッと豪快に笑うイリスさんに、何と答えていいのやらといった感じに聞き返す冴倉。

「まあ、長老会への報告は私からしておくから、南月はこの街を拠点に頑張りなさい」

「え?」

「え? じゃないでしょう。せっかく男が出来たんだから、ちゃんと捕まえておかないとね」

「「なっ!?」」

 俺と冴倉の声が綺麗にハモッた。それはもう、ぴったりと。

「なななっ、ナニを言ってるんですかっ? あたしと武人はそんなんじゃ……」

「そうですよイリスさん! 俺はただたまたま冴倉の事情に巻き込まれただけで……」

「巻き込まれただけで、あつ~いキッスをした上に命をかけてまで力を貸したと?」

 それは俺に対する言葉だ。そうだ……最初はただ嫌がっていただけなのに、今は違う。その事実は理解出来るし、自覚もしている。だから、イリスさんの言葉に何も言い返すことが出来なかった。

「契約魔術ってね、未だに分かっていないことが多いの」

 何も言えない俺と冴倉に、イリスさんは急にそんな言葉を発し、俺たちが何も言わないのを確認して言葉を続ける。

「主従間の相性、力量差。契約期間を決めるのはこの二つだと言われてるけど、つい最近私はもう一つの答えに辿り着いたわ。それは、主従間の意思や意識そのものが関与しているということ。お互いが望むなら契約はいつまでも続くし、お互いが――もしくは片方が契約を望んでいないのなら、その終わりは早くなる。つまり、下僕と言う程の強制力は本当はないのかもしれない。そんな答え……もっとも、力を与えている最中は強制力が働くみたいだけどね」

 えっと、それはもしかして……

「少なくとも、二人とも今の関係を維持することには納得してるってこと」

 もしくは、それ以上を望んでると……?

 いや、でも……

「まあ、今すぐにその答えを出せとは言わない。ただ、あの南月が男のことを気にかけるなんて思ってもいなかったからね。師匠としては是非頑張ってもらいたいと思ってるっていうのも本音」

 なんて言いながら大笑いするイリスさん。どこまで本気なのか分かり難い……いや、全部本気か?

「まあ私もしばらくこの街にいるから。何か困ったことがあったら頼ってくれて構わないよ」

「はい。ありがとうございます」

 それから少しだけ言葉を交わし、俺たちは去って行くイリスさんを見送った。

 どうやら街一つ分くらいの範囲なら、魔女同士居場所を探ることが出来るらしい。ということも聞き、どうやって連絡取るんだろう? という素朴な疑問が解決したりもした。

「武人」

 イリスさんを見送った後、少しの間を置いて冴倉が呟く様に俺の名前を呼んだ。

「ん?」

「ありがとう」

「何だよ、急に」

「急じゃないわ。初めて会った時から、あたしは武人にずっと感謝してきたんだから」

 そうだったのか? あんまりそんな気はしなかったけど……

「周りにあたしのこと黙っててくれたし、アリアが来た時も協力してくれた。中津川さんにバレそうになった時もそう。それに……今日のことも」

 俯き気味に頬を赤らめながらそんなことを言う冴倉。

 そんな表情されたら、勘違いしそうになる……

「努力はする。って、最初に言ったしな。約束は守るし、自分自身で決めたことも守る」

 それは、俺が自身に誓った決意。冴倉の力になる。冴倉のことを守ると――

「だから、ありがとう」

 柔らかな笑顔を浮かべ、冴倉はもう一度礼の言葉を紡いだ。それを素直に受け止めるのは気恥ずかしかったけど、ないがしろにするのも引ける。

「ああ」

 気にするな。いつもならそう言ってたかもしれない。だけど今は……

 ただ、冴倉の言葉を心の中で噛み締めた。

「それとね」

 そこで会話が途切れる。何となくそんな風に思っていたけど、冴倉は尚も言葉を続けた。

「あたし、武人のこと嫌いじゃないから」

「え?」

 それって、どういう意味だ?

 その真意を確かめようと思ったが、それを聞こうとした時にはもう冴倉は駆け出し、この場から去ろうとしていた。

「待っ――」

 待ってくれ。そう言おうとした。だけど、それを口にすることは出来なかった。

「じゃあ、また明日ねっ」

 去り際に一度振り返り、笑顔を向けてくれる。正直、その笑顔に心を奪われた。それ以上何も言えないくらいに。

「冴倉……」

 多分もう結界はないんだろう。それでも、俺以外には公園周辺には誰もいない。イリスさんも、そして冴倉も。

 ただ一人、俺は公園の入り口でしばらく立ち尽くしていた……



 自分の中で色々な感情が渦巻いていた。

 悶々とした夜を過ごし、朝を迎え――

 今日もまた、いつもと同じ一日が始まった。

 俺の中で一つの答えが出そうで出ない。それでも、いつも通りに学校に向かう。

「あ」

 瑞ノ葉公園に差し掛かった辺りで、冴倉の姿を見つけた。俺の出した声で気がついたのか、冴倉もこっちに視線を向けた。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

 自然な笑みで挨拶をしてきた冴倉。俺は必死に平然を装い、何とか挨拶を返した。

 何だよ、冴倉にとって昨日のことは大したことじゃなかったのか? そう思えるくらい、冴倉の態度はいつもと同じものだった。

 ……いや、そんなことない。今までなら、あんな笑顔を俺に向けてはくれなかった。

「あ、あのさ冴倉」

「な、何?」

 お互いに少しだけ上擦った声。やっぱり、冴倉も意識してくれてるんだろうか。

「俺、色々考えたんだけど」

 一晩かけて、自分の気持ちを整理しようとした。一晩じゃ足りなかったけど、今何かを言葉にしておかないと、何も変わらないんじゃないか。そんな風に思えて、俺は必死に言葉を紡ぐ。

「俺さ……」

 何て言えばいいのか分からない。だけど、それでも言わなくちゃいけない。

「俺、冴倉のこと――」

「たけちゃーん!」

 俺の言葉を遮る様に、そんな声が響き渡った。それは聞き慣れた声。

「おはよう、たけちゃん。それに冴倉さんも」

 少し遠くから駆け寄ってきた雅の姿が、今は軽く恨めしい。

「おはよう、藤野さん」

「おはよう」

 雅に返事を返す冴倉に続き、俺も挨拶を返した。

「たけちゃん」

「何だよ?」

 少しキツイ言い方になったと思う。雅が少し怯んだことからそう思った。いつもならそれで萎縮してしまう雅だったが、今日は違った。

「待ち合わせしてたわけじゃないよね?」

「あ? ああ」

 冴倉と。ということだったら待ち合わせはしていない。まさか学園に着く前に会うとは俺も思っていなかった。嬉しい誤算と言うべきか……

「ならいいんだ」

 嬉しそうに笑顔を受かべる雅。

「あら武人、奇遇ね」

 雅とは逆に複雑な気持ちで表情を歪ませる俺の背後から、そんな声が聞こえてきた。

 最近聞き慣れたこの声は――

「アリアか」

「ええ。おはよう」

「おはよう」

 振り返って声の主を一応は確認してから言葉を交わす。

「ちょっとアリア。あたしたちは無視?」

「あ、いたの?」

 挑発的な奴だな……

「アリアちゃん、おはよう」

「おはよう」

 笑顔で挨拶をする雅に、アリアもきちんと返事をした。雅には多少なりの負い目があるんだろう。少しだけ気まずそうな表情を浮かべている。

「アリア、おはよう」

「はいはい、おはよう」

 アリアの挑発には乗らずに挨拶をする冴倉に、興味なさそうに挨拶を返すアリア。

 ちょっと前まではアリアから突っかかってたのになぁ。何か心境の変化でもあったのか?

「みんなお揃いなのね」

 わいわいと騒ぎながら歩いている内に、気がつけば校門まで辿り着いていた。揃って学園内に入ろうとしていたその背後から、そんな声が聞こえてきた。

 今日はよく背後から声をかけられる日だな……

「おはよう、中津川」

「おはよう。みんなも」

 中津川の返事に、皆もそれぞれ挨拶を返す。

 雑談を交わしながら皆で下駄箱まで向かう。最初に着いたのはアリア。早々に靴を履き替え、「お先に」なんて言いながら教室へと向かう。

「あ、待ってよアリアちゃん」

 なんて言いながら、その後に続く雅。

「……先行くね」

 俺と冴倉に視線を向けてから、一瞬何かを考えた様な仕草をして中津川がそう言った。俺たちが返事をする間もなく、靴を履き替えて行ってしまったけど。

 気を遣ったのかな……

 まあどっちにしろ、せっかくチャンスがきたんだから言っておかないとな。

 決意を固め、俺は冴倉に向き直る。

「冴倉――俺、冴倉のこと嫌いじゃないから」

 俺がここに来るまでに必死で導き出した答えは、昨日の冴倉の言葉を借りることだった。

 俺も、同じ気持ちだと。ただ、そう伝えるだけ……

 それだけで今の俺には精一杯だったし、今はそれでいいと思えた。

「あたしも、武人のこと嫌いじゃない」

 昨日と同じ言葉。そして眩しいばかりの笑顔で、そう返された。 

 出会った時よりも間違いなく近く、それでも恋人と呼ぶにはまだ遠い。

 友達以上恋人未満。そんな曖昧な距離感のまま、俺たちの日々は続いてゆく――

 Witch Love~気になるあの娘は魔女見習い?~を最後まで読んで頂きありがとうございました。

 一応この作品はここで完結となりますが、ぶっちゃけ続きも書いております。

 このまま1タイトルのまま続けようかとも思ったのですが、続きは殆ど筆が進んでいないのが現状と言う事もあり、とりあえず完結にしてグループ設定で纏めようと思いました。

 携帯版だとグループ機能が対応していない様ですが……

 メインタイトルは変えず、サブタイトル(話数ではなく)を変更して続きを書いていますので、もしこの作品を気に入って下さっているのでしたら、タイトルで検索して頂けたらと思います。

 しばらく先にはなってしまいますが、投稿時には活動報告にも載せるので参考にして頂ければとも思います。

 それでは。

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