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【無能】と判定された呪いの文字、よく見たら神様のアナグラムだった件〜サクッと解読して全知全能になったけど、目立ちたくないので勇者の兄に手柄をあげて隠れスローライフ目指します〜【サクッと読める短編】

掲載日:2026/07/22


「兄さんはすごいなぁ~~~」


 僕の名前は、ヒエラ・エルム

 僕は庭で剣の練習に励む兄さんを見て、溜息と共に声を漏らしていた。


 この世界では、十五歳になると、神様から天職が授けられる。


 兄さんの天職は【勇者】だ。

 それからの兄さんは才能を次々に開花させていき、二十歳になった今では、不可能を可能にする人材として各国からスカウトされ続けている。


 そして僕は明日で十五歳。つまり僕の天職は明日分かる。

 僕は兄さんのような世界の役に立てるような天職を授かるため、五歳の頃から、【世界で飛躍する冒険者】である父さんからあらゆる武器、魔術、武術の特訓を受けていた。


「いよいよ明日だな」


 後ろから、父さんが僕の髪をわしゃわしゃとする。


「うん!」


 明日が運命の日だ。

 これで僕の人生が決まるといっても過言ではない。

 やれることは全てやった。

 あとは運次第だ。


 僕と父さんは、夕焼けを浴びて剣を振る兄さんを眺める。


            ◇ ◇ ◇


 翌日 運命の日

 朝、目が覚め、体を伸ばしていたら――


【人生ハードモードで萎えそう? でも、お前ならサクッと乗り越えられるって、オレには見えちゃってんだよね。たまにはお気楽に、自分のペースで進んじゃおーZE!】


 煩い声が響いた。

 神様だからもっと神々しいかと思ったら…………チャラかった。意外だ。

 

 そしてなんか滅茶苦茶不気味な文字列がバン!という効果音とともに頭の中に表示された。


「何これ?」


 読めない。

 どうしよう。なんて報告すれば。


 その時、バーンッと扉が蹴り開けられた。

 父さんだ。


「どうだった!? ヒエラ!」


 慌ててるな~。これ分からないって言ったらどうなるかな?


 僕の心の中の悪戯心が働き、ニヤッと笑う。


「それが……」


 ゴクリ

 

 父さんが唾を飲み込む音が部屋に響いた。


「分からないんだ」


 ぶりっ子のようなポーズをとり、テヘ、と舌を出してみる。


「何だとぉぅ!!!」


 父さんのドデカい声が耳の中で反響して、僕の寝起きの目はかっ開く。

 叫んだ勢いで父さんは、僕を肩に担ぎ、脚に力を込める。


「いざ!!! 鑑定士の下へ!!!」


 次の瞬間は、すでに家の外。

 

 その巨体で、この機動力。まじで人間やめてるわ。



 ものの数秒で【鑑定士】がいる商会ギルドに辿り着いた。


「たのも~! 【鑑定士】はいるか~い!」

「…………ほ~い」


 父さんが扉を蹴り開き、来訪の挨拶をすると、一拍置いて奥の方から何とも締まらないだらしない声が返って来た。


 出てきたのは丸メガネ、ボサボサの髪、目の下のでっかいクマを持つダボっとした完全部屋着の女性だった。


 こんなのが【鑑定士】…………と思ったその時、ギロッと睨まれた。

 気のせいか、一瞬だけ彼女の目が赤く光った気がする。


「エルムの坊ちゃんか。前の息子もすげぇ天職だったよな。それで用件は?」

「俺の息子の天職を調べてほしくてな。何せ息子が言うには、読んだこともない文字らしい」

「ほう、それは興味深いな。どれ見せてもらおう」


 僕を見定めるように覗き込んでくる。

 その目は、やはり怪しく赤く輝いていた。


 数秒後、【鑑定士】の身体がピキリと凍りついた。

 そのままガタガタと小刻みに震え出し、勢いよく椅子を鳴らして立ち上がる。


「おいおいおい。まじかよ」

「どうしたんだ、お嬢さん!」


 父さんが身を乗り出す。

 【鑑定士】は冷や汗を流しながら、僕の頭に手をかざした。


「子の坊ちゃんの頭の中にある文字列…………文字自体が幾重にも歪み、複雑に絡み合っている。恐らく、失われた伝説の『古代神聖文字』で書かれているな。私の魔術では表層しか読めない…………祖父を呼ぼう」


 【鑑定士】はレジ台のベルを鳴らし、やってきた大ベテランの老鑑定士と共に、国家機密レベルの【深層解読魔術】を展開した。


 ギルド中が固唾を吞んで見守る中、脳内の不気味な文字列が、この世界の常識に無理やりあてはめられ、翻訳されていく。


「解読できたぞ……その天職の名は…………【無能】だ。この古代文字は『一切の才能を拒絶』という最悪の呪詛の並びだったんだよ………!」


「な、何だって…………!?」


 父さんが絶句する。

 ギルド中から同情の視線が突き刺さる。


 勇者の兄を持ち、五歳から地獄の特訓を重ねてきた僕の天職が、まさかの【無能】。

 

 それから僕は諦めきれず、毎日血の滲むような地獄の日々を過ごした。

 ドラゴンの巣に挑み瀕死になるまで戦い続け、大森林に潜り魔獣を殺しまくった。


 それでも、僕は『無能』のせいで強くなることができなかった。

 


            ◇ ◇ ◇


 それから数か月後。

 我が家は突如として、国を揺るがす大危機に直面していた。


 兄さんの【勇者】としての名声を妬んだ帝国が、禁忌の封印を解き放ち邪神を復活させ、僕たちの街へ攻め込んできたのだ。


「ヒエラ、お前は逃げろ! ここは俺と、お前の兄さんが食い止める!!!」

 

 父さんは大剣を構え、兄さんは聖剣を光らせて敵の大軍へと突っ込んでいった。


 しかし、敵の張った結界【魔禍充満】の前に、人類史最高峰と謳われた兄さんの勇者の力さえも徐々に搔き消され、二人は血を流して膝をついた。


「ヒエラ……母さん……逃げろ……!!」


 血を流しながらも、兄さんと父さんは僕を、家族を、村の皆を庇うように前に出る。


 僕の憧れで、世界の中心だった兄さんが、僕の最高の師匠だった父さんが、今、圧倒されている。


 迫り来る絶望の影。

 その時、僕の胸に言いようのない違和感が突き上げた。


 ――なぜ僕は、今の一瞬、兄さんなら勝てる、僕じゃ絶対に勝てないと思ったんだ?


 剣も、魔術も、武術も、本当は特訓の中でとっくに兄さんの領域に届いていた。

 あらゆる分野で、僕は兄さんと同じ世界最高峰だったはずなのに。


 僕は…………『兄さんはすごい』って思い込むことで、無意識にリミッターを掛けていたんだ。兄さんの後ろが僕の定位置だと決めつけて、自分の力をセーブしていた…………!


 ドクン! と心臓が跳ねた。

 脳裏に、あのチャラ(がみ)の声が、今度は優しく、温かい響きを持って再生される。


【人生ハードモードで萎えそう? でも、お前ならサクッと乗り越えられるって、オレには見えちゃってんだよね。たまにはお気楽に、自分のペースで進んじゃおーZE!】


「あぁ、そうかよ、チャラ神…………!」


 視界が一気にクリアになる。

 僕が自分の足で一歩を踏み出し、兄さんに遠慮していた無意識のブレーキを完全に解除した、その瞬間。


 頭の中に表示されていた不気味な文字列――鑑定士たちが『一切の才能を拒絶』と鑑定した文字列の本当の姿が、僕の脳内で完全に結びついた。


 ――あぁ、なんだ。これ、古代文字なんかじゃない。


 この世界で僕だけが、【無能】と鑑定されてからの地獄の日々で、手に入れた異世界の知識の一つ ――『アルファベット』だ。


 神様が言った、人生【サクッと(SAKUTTO)】。

 そして【お気楽に(OKIRAKUNI)】。


 チャラ男だと思っていたあの神様は、僕がこの現代語を知ることを見抜いた上で、脳内に十六のパーツを並べてくれていた。

 そこから、『僕を縛る殻』を消去する。

 僕は自身の名前『ヒエラ(HIERA)』を滑り込ませる。

 余因子を相殺し、真実の解を導く。


 減法だ。

 兄への遠慮というリミッターを粉々に砕いた瞬間、脳内で激しい黄金の光が爆発した。


【SAKUTTO+OKIRAKUNI】-【HIERA】


 不要な文字が相殺し合って、次々と消滅していく。

 光の粒子が収まり、余った文字を並べ替えると、そこには完璧な十文字の唯一無二の神聖文字が結晶化していた。


 ――【AUTOKRATOR(アウトクラトール)


 【AUTOKRATOR(アウトクラトール)】とは、古代ギリシャ語で『自己の力によって統べる者』『絶対的な権力を持つ者』や『皇帝』を意味する言葉だ。 


「あ、あ、ああ……何だあの禍々しい光は……!? 勇者などただの人間だ……! あれは次元が違う、世界を滅ぼす邪神の、我々を視界にすら入れない絶対的な神威だ……!」


 邪神が恐怖に顔を引きつらせる。

 あらゆる武器を扱い、あらゆる魔術、武術を極め、異界を含む全世界の知識を持つ、世界最高峰の『全知全能の絶対支配者』。


 神様は僕が『無能』だなんて一言も言っていなかった。

 僕が兄さんに遠慮しリミッターを掛けていることを見抜いた上で、『自分のペース』を出せば、どんなハードモードでも『サクッと』終わらせられる最強の存在――【AUTOKRATOR(アウトクラトール)】だと教えて、僕にしか解けない最高難度の数式を仕掛けてくれていたんだ。


「サクッと、終わらせてやるよ」


 パチン、と指を鳴らす。

 次の瞬間、勇者を滅ぼさんとしていた凶悪な敵の軍勢が、まるで最初から存在しなかったかのように一瞬で光の粒子となって消滅した。


「「「は…………?」」」


 呆然と口を開けて固まる父さんと、聖剣を握ったまま腰を抜かしている兄さん。


 そして、帝国の城の自室で、魔道具を通じて戦況を監視している皇帝。 


 透明化されている魔道具を見つけ、僕は彼を射抜き、目が合った瞬間、魔術を発動させた。 


「【狂王の邪視(メデューサ)】」


 叫びを上げようとした皇帝の口から、ゴトッと重い濁音が漏れた。

 魔術の呪いが肺から喉、舌へと逆流し、内側から肉体をセメントのように凝固させていく。

 やがて全身が、滑らかな皮膚の質感を失い、ひび割れた粗い岩肌へと完全に変貌を遂げた。

 喉をかきむしるように押さえ、救いを求めるように手を前へと突き出し、絶望に強張った顔。

 実に見事な石像だ。


 僕の家族を、村の皆を無残に殺そうとした張本人の末路としては、これでも生ぬるいくらいだった。


「終わったか………」


 僕は振り返り、かつてないほどスカッとした気分で、兄さんと父さんに向かってニヤリと笑って見せる。

 

「お待たせ、父さん。僕の天職、ちょっと翻訳が間違ってたみたい」


 って聞いてないか。


 父さんと兄さんは口をポカンと開けたまま、魂が抜けたように立ち尽くしていた。


            ◇ ◇ ◇


 あの後、帝国は皇帝が死んだと大騒ぎになり、その時【勇者】である兄さんが帝国に現れ、邪神を復活させ自分と家族と村の皆々を襲わせた、ということを説明し、邪神を滅ぼした勇者として全世界から称賛されることになる。


 ちなみに、これは僕の計画だ。

 【勇者】すら足元にも及ばない存在がいることを世界から認知されたら、きっと家族にも危害を及ぶ。

 そう考えた僕は、徹底的に正体を隠すことにし【無能】として生きることにした。


 【鑑定士】の言った『一切の才能を拒絶』する【無能】という判定は、ある意味、僕の平穏を守る最強の盾になってくれた。


「それにしても、兄さんは相変わらずすごいなぁ………」


 数日後。

 僕は、結界内で勇者の力の修業をする兄さんの姿を、溜息混じりに眺めていた。

 僕は【勇者】としての兄さんの修業を手伝っている。

 重力や肉体負荷、魔力消費量を数百倍に激増させて限界を突破させたり、今日みたいに全力の力をぶつけてもびくともしない特級の結界を張ったりしている。 


 世界を救った大英雄として各国からさらに引っ張りだこになった兄さんは、前よりも少しだけ誇らしげな顔をしている。


「ヒエラ。お前には本当に悪いことをしたな。俺が頼りないばかりに、お前の手柄を………」


 休憩に入った兄さんが、申し訳なさそうに僕の肩に手を置く。

 計画を打ち明けてある父さんと兄さんは、僕が家族を守るために【無能】を演じているとことに、今もひどく心を痛めていた。


「ううん、いいんだよ兄さん。僕はこういうのんびりした性格の方が性に合ってるから」


 僕は首を振って、いつものようにてへっと舌を出して見せる。


 嘘は言っていない。


 ――その時、僕の脳裏に、あのチャラい声がどこからともなく響いてきた気がした。


【たまにはお気楽に、自分のペースで進んじゃおーZE!――な? 間違ってないっしょ?】


 僕は空を見上げ、心の中で小さく笑う。


 これから僕の人生にどんなハードモードが訪れようと、関係ない。

 

 世界最高峰の力を持ったまま、今日もサクッと【無能】を演じ続け、兄さんには悪いが、スローライフを楽しむとしよう。



チャラ神「え? 『SAKUTTO+OKIRAKUNI』から『HIERA』引いたら文字あまらなくね?って?……こまけぇこたぁいいんだよ!ノリだよノリ!!」


ここまでお読みいただきありがとうございました!

自分を「無能」だと思い込んでいたヒエラが、神様のアナグラムを解いてサクッと無双するお話でした。


もし「チャラ神のノリ嫌いじゃない」「サクッと楽しめた!」と思ってくださった方は、下の【★★★★★】をポチッと押して評価していただけると、チャラ神が大変喜びます!


ブックマークや感想もぜひよろしくお願いします!

好評でしたら調子に乗って第二部を制作しちゃうかもしれません…………!

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