第6話働きたがりの勇者管理
「君、何故ここに呼ばれか分かるか?」
魔王城の執務室。デスクにて両手を組み、赤い瞳を光らせるアザゼルは怒りを露わにしている。
控えに立っているルイーゼも薄暗い目元だ。
「……わ、分かりません。私、何かしましたか……?」
執務室に呼び出しを食らったのはニーアだ。重苦しい雰囲気に手汗の滲む掌を握りしめる。
「ニーア。君には失望した。優秀な人材だと思ってスカウトしたのに、早速ここのルールを破り、魔王である俺の顔に泥を塗るとはな」
「す、すみません。皆目見当もつかない……もしかして……げ、減給でしょうか……?」
「そんなくだらない罰では足りない程だ。俺は言ったはずだよな?」
アザゼルは拳を握りしめる。ミシミシと音を立てるほどに。それを振り上げ、デスクに叩きつけようと言うのだ。ニーアが肩を竦めた。
「俺は言ったはずだ!!傷が治るまで一週間は休暇だと!なのに君は、朝から給仕係の仕事を奪い、洗濯まで行い、掃除の手助けをした!!これは列記とした命令違反だ!」
アザゼルはデスクを叩かない。代わりに歯がゆそうに胸を抑える。ニーアは緊張感を引っこ抜かれ「えっ」と戸惑うばかり。
「君のその真面目さと働きっぷりは478連勤による刷り込みがあるってことだ……ルイーゼ!」
「はい。こちらに」
ルイーゼが取り出したのは一枚の紙。
「っ……ま、まさか……まさかそれは」
「あぁ。悔しいがこうする他ない」
「まさかっ退職とど」
「ニーア。君には二泊三日の温泉旅行を言い渡す!」
「………………へ?!」
「どうしても仕事してしまうならまずは環境を変えることからだ。ただ抵抗があるのは分かる。だからこれは"下見"だ」
「下見?ここに魔物でも出るの?」
「社員旅行の、な」
アザゼルは企むように怪しい笑みを浮かべた。
「ニーア、君の仕事はここの温泉地を訪れ旅館のサービスや温泉の雰囲気を体験してくること。君がどれだけ楽しめるかが、皆の社員旅行のクオリティにかかってくる。重要な仕事だ」
アザゼルの厳しくも優しい命令に、ニーアはもう耐えきれない。
「ぷっ……あはっ、あはははっホント面白いね。魔王じゃないみたい。えっと、この温泉旅行って母親が同行しても?」
「あぁ。構わない」
「じゃあ母の病気が治ったら行かせて貰おうかな」
「病気?母親が?」
「え、うん」
「何故それを早く言わない?!そしてなんでここに居るんだ今すぐ帰れ!」
「えっ、えっ」
「介護休暇だ!時短勤務も取り入れる。ルイーゼ、調整を頼む」
「お任せ下さい」
「あ、あの、介護休暇?」
「いいか?次に来る時は母親の病気が治ってからだ。手当は先に振り込んでおく!以上!」
「……は、はぁ」
ニーアは沢山の?マークを浮かべながらも帰っていった。
アザゼルは眉間を抑えてため息をこぼす。
「ふぅ。休ませるのも一苦労だな。今朝はシンの奴が畑を耕していたし……」
「お疲れ様ですアザゼル様。勇者様達は相当刷り込まれてしまったのですね。自分の健康を疎かにしてでも働かなければ生きていけないという間違った価値観を」
「その通りだ。俺のスキル、従業員管理を使ってもっと良い工夫が出来たらいいんだけど」
と、執務室のスピーカーから声が響く。
「アザゼル様。魔王城に向かって数人の冒険者達が近づいてきています」
「新手か。そろそろパーティで攻めてくる頃だとは思ってたけど、早いな」
「パーティ?勇者一人じゃ無いって事ですか?」
「うん。勇者は一人の依頼とパーティでの依頼がある。魔道士とか斧使いとか、他のジョブと協力して依頼をこなすんだ。ちなみに他ジョブの奴らは週休二日。勇者は出ずっぱりだな」
「なんて酷い……それで、手当は」
「月固定残業代銀貨50枚」
「こ、固定?!それは、いくら働いても50枚から増えることはないって言う……恐ろしい規約。まさか本当に存在するなんて、信じられません!」
ルイーゼは青ざめる。
「そうそう。ルイーゼは勉強熱心だな。さて、どんな奴らが来てるか……」
アザゼルは目の前に魔法陣を描くと森を歩く冒険者パーティ達を映し出した。パーティメンバーは男二人に女一人。先頭でボロきれのようになっている女が勇者だろう。
「面接は森に入った時から始まっている……」
アザゼルは珈琲のカップを傾けながら冒険者パーティの様子を眺めた。




