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第4話時間外労働滅!


アザゼル魔王城

食堂


「シンの入社、いや、"入城"を祝って、カンパーイ!」


アザゼルの掛け声と共に木製のジョッキがぶつかり合う。午後18時。定時退社となった魔王城メンバー達はその疲れを流すよう酒をあおった。


「ぷはー!召喚した酒も中々いけるな!そのうち酒造工場も建築して自家製にするのも悪くない」


「アザゼル様、お隣よろしいですか?」


ルイーゼがジョッキを片手に笑う。断る選択肢は無い。


「アザゼル様のお力は凄まじいですね。もっとたくさん領地を拡大したり人を増やしても宜しいのでは?」


「一気に増やすと俺が管理できないから、見えないところで苦しむ人が出るかもしれない。それに召喚って結構疲れるんだよね。良い魔王城は良い魔王から。ルイーゼも無理をするなよ」


ルイーゼにジョッキを向ける。


「は、はいっ!お気遣い痛み入ります」


ルイーゼは尊敬の念でいっぱいだ。青い瞳を輝かせながら両手で控えめにジョッキを当て返す。


「アザゼルさんを見てると、冒険者斡旋ギルドが余計クソに思えてきます」


呟いたのはシンだ。ぶどうジュースの入ったジョッキを顰めっ面で握りしめる。


「冒険者斡旋ギルドってなんですか?」


「勇者はそこへ所属して依頼をこなし、報酬を貰うんだよ」


「勇者に無理な任務を何重にも課し、不眠不休で働かせる地獄の職場……勇者は傷病手当も無く、再起不能になれば放置。死ぬまで奴隷ですよ」


「なんて酷い。でも、そんな場所だと分かっているのにどうして勇者は冒険者斡旋ギルドへ就職するんですか?」


「世間では良いように言われてるんです。守ってくれる。頼りがいがある。皆の希望。そんな名声に憧れて、冒険者斡旋ギルドに入った勇者は数知れず……」


「アットホームを謳うブラックギルドだな。はー……さてさて。暗い話はここまで!シンはお酒飲まないのか?」


「えっ……あー……ギルド新歓飲み会で無理やり飲まされたり管理長のご機嫌とりさせられたりして、酒飲むとすぐリバースしちゃうんで」


青い顔をしながらアハハと笑うシン。


「シン……お前ってやつはもう……なんで早く転職してこなかったの!」


「ほんとですよシンさぁん!もっと飲んでください!りんごジュースもありますからァ!」


「へっ?!だってこんな魔王城昨日まで無かったし……あ、ありがとうございます?」


「ご報告!」


明るい雰囲気を裂くように、慌ただしく騎士が駆け込んでくる。


「何かあったのでしょうか?」


「違うからな!彼には特別手当を払っているし明日から二連休を取らせているからな?!」


「いや誰も、"新歓にも呼ばずブラックにこき使ってる!"とか思ってないッスよ……」


騎士はハァハァと肩を上下させた後、息を吸う。


「東の塔に発火!燃え広がっています!」


「火事だって?!ヤバいぞ早く逃げないと!」


「いいえ!火を消す方が優先よ!魔王城をお守りしなくては!」


10名が各々立ち上がりあれこれやとパニック状態に。


「皆さん落ち着いてください!火の手は東です!西へ逃げましょう!」


ルイーゼの冷静な声も、騎士とメイド達には届かない。ルイーゼが再び声を張り上げようとしたした時だ。


アザゼルはフォークでグラスを打った。


キンキンキン


高めの異音は従業員達の耳に届き、静まり返る。アザゼルはそのフォークでサラミを突き刺すとかぶりつく。


冷静さと威圧感にゴクリ、誰もが生唾を飲み込む。


「狼狽えるな。おそらく勇者の奇襲だろう。ヒバリ」


「はい」


片膝を立てて座した筋骨隆々の男、ヒバリは騎士の一人。スキル"従業員管理"によると、「頼れるリーダーシップタイプ」だそうだ。


「皆を連れて川の近くへ。火の方は俺に任せろ」


「承知しました」


「ありがとう。さて……いらない残業ほど非効率なものはないな。ルイーゼ、シン。さっさと終わらせるぞ」


「はい!」


二人は信頼を込めて返事をする。

従業員達も引き締まり、纏まって避難を開始した。


◇◇◇


東の塔は半分ほど焼け落ちていた。中は未だ使い道も無い物置である。


「俺の大事な魔王城が……リロード!消化ホース!」


魔法陣からホースを出して白い霧状の消化剤を撒く。火はみるみるうちに鎮火された。


「これは撤去しなきゃだな」


「ハイ。明日いるメンバーで少しずつ片付けちゃいますか。昼寝の時間も入れながらスケジュール組んでみますね」


「ルイーゼ。君は優秀だ」


その時だ。焼け焦げた塔の影から、剣を握った少女が飛び出した。


「アザゼルさん!」


シンの呼び掛けも虚しく、剣はアザゼルの首に入り――


根元から折れて吹っ飛んだ。


「ッキャーー!ギルドから借りたプラチナの剣がぁああ!!どうしようどうしよう?!弁償?!処刑?!」


剣の主、緑髪の勇者は折れた剣を両手に泣き崩れる。


「おぃ、そこの勇者」


響く魔王の声。勇者147番、ニーアは心の底から恐怖を感じ、振り返ることができない。


剣より硬く、傷一つ残せなかった魔王の首。


折れた剣。


取り囲む三人の敵。


絶望的な状況に、ニーアは頭の中で母への謝罪と別れを告げた。


「あのさぁ。今日は時間外だから、また明日にしてくれるかな?」


「…………へっ」


魔王城の営業時間

午前9時~午後17時30分

























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