第3話昼寝は減給?!いいえ、業務です
朝。魔王城の一日は9時ぴったりに始まる。
ルイーゼ
秘書兼アザゼルの世話係
「アザゼル様。おはようございます。今朝はカモミールティーをいれてみました」
アザゼルはソファにて従業員管理のウィンドウを眺めていた。
「おはようルイーゼ。ありがとう。今日のヒバリやオルウェン、騎士達の配置だけど……」
「午前中は農耕。午後は見張りになっていますね」
「ルイーゼ。君は秘書として優秀だ。だが一点、重大なことを忘れている」
アザゼルは鋭い視線でルイーゼを見つめる。ルイーゼはビクリと肩を震わせた。
「それは……昼寝の時間が無いことだ」
「は……え?ひ、昼寝?」
「いいか。昼寝とは即ち脳を休めること。たった15分設けるだけであら不思議。働くパフォーマンスが上がり、効率的かつ、健康に働くことができる」
「流石アザゼル様!そんな方法があるのですね!お昼寝なんて、サボっているようにしか思えないのに」
「焦って詰め込んでも失敗するだけだ。休む時は思い切り休む。働く時は思い切り働く、そのONとOFFが」
ガチャンッドタッ
慌ただしい音と共に部屋に転げ入って来たのは、昨日魔王城に転職したシンだ。
起き上がるなり、アザゼルに詰め寄る。
「ひ、昼寝って、どういうことですか?!昼寝したら減給じゃ無いんですか?!」
「あ、あぁ。確かそうだったな。勇者は」
「俺の隣で566連勤という地獄を味わった同期の勇者がいました。彼はダンジョン潜り中に昼寝、いや、気を失って倒れた。そしたら、その月の報酬が全て半額になってしまって……ね、寝られない。昼寝なんて恐ろしいこと、出来るわけが」
シンは赤髪を抱えて青ざめる。恐ろしい社畜の日々を思い出し、体が不自然に震え出した。
「落ち着けシン」
アザゼルは冷静にシンの肩を叩く。
「魔王城では昼寝は仕事の内だ。少しずつ慣れていけばいい。それで、なんでここに居るんだ?君には休暇を言い渡したはずだが?」
「うっ……そ、それは」
シンはオドオドと視線をうろつかせる。
「や、休み方が分からなくて……ジッとしていると不安になってしまうんです」
「これは重症だな。よし、出かけるぞ」
「え?」
「俺が休み方を教えてやる。ルイーゼ」
「はいっアザゼル様!」
一体どんなアドバイスを。ルイーゼは目を輝かせる。アザゼルは指をパチンッと鳴らしながら言い張った。
「ピクニックの準備だ!!!」
◇◇◇
魔王城から少し歩いた所。開けた草原。草原には小さな花が揺れ、小川がさらさらと音を立てて流れている。
そこへ――
青白い肌。赤い瞳を尖らせ、ダークな雰囲気を纏ったアザゼルは、ピクニックバスケットを両手にニタリと笑った。
「ルイーゼ!布を引け!」
「はいっ!」
薄桃色の布を地面に敷き、その上でピクニックバスケットを開く。中にはトマト、レタス、ハム、卵が挟まったサンドイッチが。
「よぉし食うぞ。シン。ここに座れ!」
サンドイッチを片手にアザゼルは隣を叩く。シンは初めての体験に唖然と立ち尽くしていた。
「これは……」
「ピクニックだ。俺は職業判定されるまで、家族でよく来ていた。シン。君には今、休む時が必要だ」
「……ありがとう、ございます?」
シンはサンドイッチを受け取ると布の上に座った。サンドイッチにかぶりつく。
「ん……あれ、なんか、いつもより美味しい、かも」
「そよ風が体を撫でる感覚。小川の流れる音……食材の美味しさ。そういう一つ一つに感覚を傾ける。これも休むということだ」
「やべぇ……なんだこれ……」
シンの目から涙が溢れる。それは、辛い日々からの解放か、初めての休日に対する感動か。
「そうして感情を露わにするのも、大事だな」
「う、うっ……べそかくなって殴られない……怖い……」
「えぇ……」
「余程酷い環境におられたのですね……」
シンは鼻を啜り涙を拭う。
「アザゼルさん。アンタ本当に魔王なんですか?」
「あぁ、列記とした魔王だ。この世界のブラックを脅かす、な?」
アザゼルは鋭い牙でサンドイッチを食いちぎった。
◇◇◇
エンゼル王国
南東の貧しい村
「ゴホッ……ゴホッ」
木の板にボロ布を被せただけの家の中、病人の咳が響く。その傍らで、少女は包帯を腹の傷に巻き付けていた。
「ニーア、ニーア」
「どうしたのお母さん?お水?」
「お前、また依頼を受けるつもりじゃないだろうね」
母と呼ばれた女はやせ細った手を伸ばす。ニーアは両手でその手を包み込んだ。
「へっちゃらだよ。次の依頼、そんなに難易度高くないし……安全だから。ね?」
「はぁ、アンタには苦労かけるね。職業判定で勇者にさえ、ならな、ければ……」
「しょうがないって。それに私、勇者になりたかったんだし!今は報酬安いけど、いつかボーナス貰って、良い薬手に入れるよ!だからお母さんは、だーいすきな温泉旅行する夢でも見て待ってて!」
ニーアは頬を丸く持ち上げて笑う。それが強がりだと分かっていながらも、病気の母には止めることができないのだ。
「ニーア……私はアンタが無事ならそれでいいんだよ」
「うん。大丈夫だよお母さん。お母さんのことは私が絶対、守るからね」
ニーアは琥珀色の瞳に力強い意志をこめた。
勇者147番
(依頼内容)
東の森の魔王討伐
魔王石回収
危険度:A
報酬:金貨10枚
女勇者は魔王城へと向かった。




