第2話身を粉にして働いたらクビ
「転職?魔王城へ?」
「うん。三食寮付き。仕事は週に三回のダンジョン素潜りで、報酬は月に金貨30枚でどうだ?」
「30枚?!……魔王討伐が金貨10枚だから……さ、3倍!そんな好条件、嘘に決まってる!」
「あぁ分かるよぉ。好条件依頼と思って中見たら任務が超危険だったり、稼働が長すぎたり、報酬未払いでトばれたこともあるなぁ。最早ホワイトな案件はこの世に存在しないのでは……って思うよね」
「そう、そうなんだ!今回も一人じゃ無理だって言ったのに"行かないとクビをはねるぞ。役たたず"って……」
「恫喝にパワハラか。ウチではそういう非合理的で生産性のない行為は禁止なんだよね。で、どうする?」
アザゼルは立ち上がると両手を広げる。
「このまま野垂れ死ぬまで一生社畜か、勇気をだしてホワイト魔王城に転職か……」
勇者は生唾を飲み込む。ボロボロの剣がカーペットへと落下した。
「転職で!」
「契約成立だな」
次の瞬間、アザゼルの眼前に青いウィンドウが表示された。
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シン
連勤 126日
ストレス値 200
性格 一人でコツコツタイプ
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「これがスキル従業員管理か。連勤126日って……大変だったなぁ。シン。とりあえず君には一週間の休暇を与える。その間、一切働くことは許さない!」
「い、一週間も?!俺は一体何をすれば……」
「分かる分かる。限界まで働くと、いざ休めって言われても困るよね。ゆっくりでいいからね」
アザゼルはシンの肩を労わるように叩く。
絶望から希望へと解き放たれたシンの顔は、戸惑いと喜びに溢れていた。
「自分を打ち倒そうとした勇者を労う……なんて器の広い方なんだ!」
「えっ俺はただブラックな環境が許せないだけで……」
「素敵です。我が主アザゼル様。貴方様の為に、我々一同、身を粉にして尽くします!」
ルイーゼの掛け声と共に、一斉にメイドや騎士たちが跪く。それはもう、アザゼルを圧倒する勢いで。
「はぁ……君たち……ふざけているのか?」
アザゼルの瞳が赤く輝く。のしかかるプレッシャーにメイドと騎士たち、シンも背筋を凍らせた。何か無礼を働いただろうか、と。
アザゼルはゆっくりと指先を彼らに向ける。
「身を粉にして働いたら、クビだからな!!!」
魔王城内がザワついた。
◇◇◇
アザゼルは召喚した騎士やメイド達の持ち場を振り分け、従業員宿泊施設なる物も召喚した。
「うんうん。ホワイト魔王城も順調順調」
自室にて各々の従業員達の状態を確認する。
コンコン、と部屋をノックする音が。
「アザゼル様。お茶をお持ちしました」
「ルイーゼ、ありがとう。この従業員管理ってスキル、凄く使えるぞ。一目で皆の体調や疲労度を把握出来る」
「アザゼル様は本当に私達を大切になさってくださるのですね。私達はアザゼル様に召喚された言わば道具のようなものですのに」
「細かいことはいいんだよ。誰かのためにと、やり続けていた事も、体を壊したら何のために働いているのか分からなくなる。俺みたいな思いをする人が一人でも減ったら……なーんて。俺が楽したいだけなんだけどね」
「いいえアザゼル様……ルイーゼは貴方様のようなお方に仕えることができて、本当に幸せ者です」
ルイーゼは頬を赤らめながら、満ち足りた顔で笑った。
◇◇◇
エンゼル王国
冒険者斡旋ギルド
執務室
「カイザー様。ご報告です。魔王の討伐に向かった58番からの定期連絡が途絶えました」
軍服に身を包んだ女性は眼鏡を押し上げながら淡々と伝える。執務室の巨大なチェアに腰掛けていた男は足を組んで振り返った。
「死んだか。使えないどころか要らねぇコストをかけさせやがる」
咥えタバコを灰皿へと潰す銀髪の男。鋭い糸目が「冒険者リスト」を眺める。
「147番に行かせろ」
「ですがカイザー様。147番の勇者は先日魔物討伐から戻ったばかりで、深手を負っていると」
「クレア……」
低く重い声色に、クレアは背筋を伸ばす。
「俺に二度同じことを言わせるな。派遣は147番だ。分かったらこれ以上そのシケた面を晒すな」
「申し訳ございません……承知致しました」
クレアは執務室を後にした。
カイザーは新しいタバコに火をつけると椅子を回して窓の外を見つめる。
「安価で勇者を向かわせ、持ち帰った魔王石で利益を上げる。さぁゴミ勇者共。俺のために身を粉にして働け……」
煙を吹き出しながらカイザーは目を細めた。




