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第1話社畜勇者、魔王へと転職する


勇者アーサー

196歳


「勇者様!森に魔物が出たんです!助けてください!」


「どうか御加護を!御守りください……」


ベッドに横たわる勇者の手を握り、涙ながらに懇願する村人達。


(弱者のフリをして、俺を扱き使いやがって……もう、働けるかよ……働きたくない)


「……」


「勇者様!」


その声に答えることなく、勇者は老衰を迎えた。


◇◇◇


アーサーは、一面真っ白な光の中に立っていた。老いぼれていた小枝のような手は、ハリツヤのある20代の頃に戻っている。


俺は死んだのだ。


アーサーはそれを理解し、ガッツポーズ。


「やっとだ!やっと勇者から解放された!毎日毎日魔物倒して、帰ってきたらまたすぐ任務の社畜からの解放!万歳!」


両手を突き上げていれば、眩い光と共に女が現れる。長い緑の髪を持つ、真っ白な服を着た女は透明感が高い。


「私は転生女神、ディアナ。そなたは勇者として大変多くの人間を助けました。さらなる加護を与え、より強い"勇者"に――」


「嫌です!」


「えっ……貴方を再び、世界を護る勇者」


「嫌でーーーす!!」


「い、嫌。嫌なのね。そう。転生は同意がないと出来ないし……あらやだ、どうしましょう」


「普通の人とか無理なんですか?」


「えぇ。加護は与えてしまいましたし……」


「じゃあ、俺の事魔王にしてください」


「魔王?!人から奪い、虐げ、恐怖に突き落とすというあの……」


「悪さはしません。ただもう人間のために働くのは嫌なんで。お願いします」


直角に頭を下げる。


「わ、分かりました。では、勇者アーサーよ。前世の善行に応じ、貴方を転生させます。貴方の名は、魔王アザゼル!」


アーサーの体が黒い炎に包まれ、赤かった髪は真っ黒に。真っ直ぐな瞳は、ハイライトのない赤。牙と爪まで伸び、立派な魔王へと変わった。


そして、白い空間のはるか彼方へと飛んで行った。


◇◇◇


「ここは……」


スッと目を開く。辺り一面森の中だが、近場の洞窟に見覚えがあった。


「げっ、俺が三日間飲まず食わずで軍の先頭を押し付けられた忌わしい洞窟じゃねぇか……あーやめやめ!俺は勇者を辞めたんだ。こっからは気ままに楽して生きる!と言っても、衣食住は必要だよな。服は良しとして、使えるものねぇかな」


◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎


クロード・フェル・アザゼル

Lv9999


スキル

召喚

従業員管理


◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎


「カンスト……こんなので勇者に生まれ変わってたら一生社畜だったな。危ない危ない。召喚は魔法陣から物体を生み出せるやつで、"従業員管理"?こっちはよく分かんないな。とりあえず召喚。リロード!魔王城!」


足元から大きく広がる魔法陣。適当な魔力を込めたせいか、グングン伸びていく。


ゴゴゴ


地響きと共に森を蹴散らし、そびえ立つ漆黒の城。洋風で龍の象等の装飾品も丁寧だ。


「まずは住!ちょっと大きすぎたかな……」


巨大な扉を開け放つ。赤い絨毯が階段上まで真っ直ぐ続き、天井は吹き抜けに煌めくシャンデリア付き。


「よしよーし。一人じゃ寂しいからな。メイドさんを召喚すべし。勇者の時は恋愛禁止だったからな〜とびきりの可愛い子を召喚しよう。リロード、メイド!」


とりあえず一人。魔法陣から出てきたのは黒髪ロングのクラシカルメイドだ。紛うことなき美少女はメイド服の両端を摘むと上品に一礼。


「主様。この世に召喚していただき、ありがとうございます。ルイーゼは貴方様に忠誠を誓い、一生お仕えすることを約束致します。主様。お名前を教えていただけませんか?」


「俺はアザゼル。気ままに暮らしたいっていうつまんない魔王だけどそれでもいい?」


「つまらないなんてとんでもない。作り上げましょう。アザゼル様だけの楽園を」


「ありがとう。俺はこの魔王城を、この世界で一番ホワイトな転生、いや……転職場所にする!」


◇◇◇


メイドや騎士兵を何人か召喚した頃だ。


「ご報告!勇者一行がアザゼル様討伐のためこの城に向かっています!」


「なんて罰当たりな。アザゼル様。ここは私がお掃除致します」


「待てルイーゼ。迎え入れてやろう。せっかく来てくれたんだ」


アザゼルは階段上の巨大な椅子に腰かける。その威圧感たるや。どよめいていたメイドや騎士達は尊敬の念を抱くと共に、畏れ、静かに勇者一向を待つ。


ギギ、と重たい扉が空いた。


入ってきたのは全身汚れきった若い勇者。目の下には隈があり、瞳に色はない。それでも剣を魔王へと突き出す。


「魔王アザゼルだな!」


「一人か……さぞ苦労してたどり着いたんだろう。全くもって無駄なことだ」


アザゼルは頬杖をつく。


「貫禄あるなぁアザゼル様は……一体どんな残酷な方法で勇者を葬るんだ?」


「しっ、静かにしてろ。お前も首跳ねられちまうぞっ」


騎士達は怖いもの見たさだ。

アザゼルは頬杖をやめ、鋭い爪先でゆっくり勇者を指す。誰もが固唾を飲んだ。


「君、魔王城に転職しない?」


時が止まる。全員の目が点になったことは言うまでもないだろう。



















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