第5話 時空を超えたパニック・ラブ
――超能力。
それは、未知なる力。
様々な奇跡を可能にするという、神秘なるパワー。
世界は広い。
世の中には、超能力を持つ人間がいるという。
――ある日、新神なんでも相談屋に超能力者がやってきた!
☆
「危ぶむことなかれ」
そう言って、神妙な顔をする新神。
「えっ!? 一体なにをですか先生?」
唐突な発言に面食らい、思わず手にしていたスマホから目線を外す牛子。
今日も2人はパイプ椅子に並んで座り、ヒマな時間を過ごしていた。
「知らん」
「……。相変わらず、理解不能です先生の頭の中身は」
そう言って、牛子はスマホに目線を戻して、再び操作し始めた。
――と。なにやら前方より人の気配が。
牛子がバッと目線を上げて、気配のした方を見る。
すると、そこには、金髪の女性の姿があった。
(わー、外国の方だ。すごい美人さん。観光客の人だろうか? 大きなキャリーバッグを引いている……)
そんな風に思った牛子は、メモと、スマホの翻訳機能の準備とをおずおずとはじめた。
赤色の大きなキャリーバッグを引いた金髪の美女は、2人の元に到着する。
白いワンピースに、パワーストーンらしき様々な石が数珠状に連なったネックレスをしている人物であった。
「ハイ。こんにちは。ここが新神なんでも相談屋でよろしいですか?」
流暢な日本語で、2人にその美女は話しかけた。
「はい、ここが新神なんでも相談屋になります。……どうぞ、目の前のパイプ椅子におかけください」
牛子の言葉にうながされ、金髪の美女は4つ並んだパイプ椅子の1つに腰かける。
「新神なんでも相談屋を主幹している、新神炎寿です。本日はよろしくお願いいたします。……さっそくですが、お名前とご年齢をお教えください」
新神が丁寧な口調で目の前の美女に話しかけた。
「ハイ。名前はアンリ・ニューフィールド。年齢は26歳です」
そう言うと、アンリはニコリと笑みを浮かべた。
「アンリさん。日本語がお上手ですね」
メモを終えた牛子が、気さくにそう話しかける。
「ええ。日本のアニメが好きで、アニメを沢山観て、日本語を勉強しました。日本はとってもアメージング、面白い国です」
「それはそれは、今時の方でらっしゃる……」
そう言って頷きつつ、新神はなにやら思案していた。
「ワタシ、今日は御2人と親交にきました。――実は、ワタシは超能力者なんです」
「超能力者ぁ!? んなもん居る訳なーいっ!」
いきなりパイプ椅子から腰を半分浮かせて、大股開きになって、そう叫ぶ新神。
相変わらず、自重できねぇおっさんだ。と牛子は思ったが、とりあえずアンリに対して、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「よく、そんな風に疑われます。しかし、ワタシは確かに超能力者です。今からそれをお見せします。よろしいですか?」
アンリは、そうした反応には慣れている。と、いった風な様子で、新神の目を見てそう言った。
「はっー、はっー! そりゃ見ものです。是非ともお手並み拝見いたします」
(どうせチャチな手品でも披露してくるのだろう。精々、ビックリした後に種を暴いて恥を掻かせて、このお気楽な外国人観光客に、日本人の本性の格の高さと、恐ろしさでも叩き込んでやることにするか)
と、底意地の悪いことを新神は企んでいた。
「では、いきます」
アンリは、そういうと目を閉じて、右手を開き、新神の方へと手かざしを始めた。
「……ッ」
なにかの圧を破ろうか? というようなアンリの表情。少し苦しそうに見える。
と。
新神がジャケットの下に着ていた、1番上だけ開けていた、Yシャツのボタンが、ふるふると震えはじめた。
!? 何が起きている? と牛子と新神の2人が反応をする。
「ちょ、ちょっ、首が。首が締まっているっ!?」
驚く新神。
1番上のYシャツのボタンの震えは大きくなり――そして、ボタンは音もなく閉まった。
☆
「信じられない。確かに、手も触れていないのに、先生のシャツのボタンが閉まった!?」
牛子も驚きを隠せなかった。
「ううっ。やられるかと思った。身の危険を感じた」
そう言いながら、新神も留まったシャツのボタンを触り確認し、牛子と同様に驚いていた。
「ふう。疲れました。……今ので1万4000キロカロリーほど消費したと思います」
「燃費わるっ!?」
目を開いてそう口を開いたアンリに、すかさずツッコミを入れる新神。
「1万4000キロカロリーと言うと、脂肪2キロ分。――これは、耳よりなダイエット情報です」
別の意味で興味津々になってきた牛子。
「これで、ワタシが超能力者であることを信じて頂けたでしょうか?」
落ち着いた様子で、そう話すアンリ。
2人は目の前の金髪の美女が、超能力者であるということに納得せざるを得なかった。
「では、本題に入りましょう。……失礼ながら、貴女。貴女について先ほどサイコメトリーをしました。貴女には過去にトラウマがあります。今からそのトラウマを解消に行きませんか?」
「!? アナタ、とは私のことですか?」
えっ!? という様子で、自らの顔を指さして、確認をする牛子。
「はい。貴女です。今から、時空を超える旅にでましょう」
「ヘッ!? 時空を超える? どうやって?」
先ほどの首を絞められた感触のこともあり、好奇心よりも警戒心が立つ新神。
「大丈夫です。お2人とも私と手を繋いでください。手を繋いで3人で輪になりましょう」
そう言って、両手を開き、2人に差し出すアンリ。
他にしようもないだろう、と、2人は手を取り、新神と牛子も手を繋ぎ、3人は輪になる。
「それでは、いきます。……お2人とも目を瞑ってください」
言われるがままに、新神と牛子は目を瞑る。
――ビュン。
まもなく、3人の姿は、新神なんでも相談所から忽然と消えた。
……3人は時空を超えて、とあるところへジャンプしていく。
☆
……1人の学生服を着た女生徒がいた。
1人で学校の校門の前をウロウロとしている。
そして、その手には一枚の手紙が。いわゆる一つのそれは、ラブレターであった。
その女生徒はラブレターを手に、校門の前をキョロキョロとしながらウロウロとしている。
(あっ! 私だーっ!? 中学生の頃の私!?)
ビックリして、その女生徒を見ている牛子。
新神、牛子、アンリの3人は、校門から結構離れたところにある桜の大樹の陰で様子を伺っていた。
その桜の樹には、もう緑が随分と生い茂っていた。
「思いだしました! 私、この時、好きだった男子にラブレターを渡したんです。――確か、山羊野秀平クン。勉強も運動も学年で1番できて、イケメンで性格もよくて、女子達からスゴイ人気でした」
「はい。そうです。しかし、ラブレターを渡したはいいものの、山羊野さんは何も返事をくれませんでした。そのことが貴女のトラウマになっています」
アンリが何もかもお見通しという風に、そう言った。
と。ちょうどその時、自転車を押しながら1人の男子生徒が、ゆっくりとした足取りで校門の方へと向かっていた。
「あっ! この人が山羊野クンですっ。間違いないです。――懐かしいなぁ」
うっとりとした様子で山羊野を見つめる牛子。ん? と言った様子でそちらを見る新神。
……すらっとした高身長で、整った顔立ち。上品な雰囲気で、いかにも育ちが良さそうな男子学生の姿がそこにはあった。
そして、それから、牛子の姿を見る新神。
「ウン、釣り合ってないな」
「うるさいですっ!」
思いっきり、新神の靴を踏んづける牛子。
「オーーーーーノーーーーーーッ!」
痛みで絶叫する、新神。
「ちょっと静かにできませんかね?」
それを手で制すアンリだった。
「いいですか? 新神さん。今から貴方に山羊野さんになってもらいます。山羊野さんの代わりになり、ラブレターを受け取ってください。そして、その返事を貴方が書いて、中学生の頃の牛子さんに渡すのです」
「あの少年の代わりになる!? 一体どうやって? まさか私が男子学生のコスプレでもするのかね?」
「うわっ、犯罪的発想」
牛子のツッコミを他所に、アンリは口を開いた。
「大丈夫です。私の超能力で、新神さんを山羊野さんに見えるように偽装します。これから急いで中学生の頃の牛子さんの元へ向かい、ラブレターを受け取ってください」
「アンタの超能力なんでもアリだな」
そう呆れる新神に対して、アンリは軽く手をかざした。
「……これで、中学生時代の牛子さんの目からは、新神さんが山羊野さんに見える状態になりました。では、行ってください」
本当かよ? と思いつつ、アンリに押し出される形で、新神は中学生時代の牛子の元へと駆け寄っていった。
「や、やあ?」
ぎこちなく手を挙げて、中学生時代の牛子に声をかける新神。
!? その新神の姿を目にした中学生時代の牛子は途端に顔が真っ赤になる。
そして、思い切った様子で、手にしていたラブレターを目の前に突き出した。
「こっ、こっ、こっこっ、これ! 受け取ってくださいっ!」
ふう、大丈夫か? と思いつつ、そのラブレターを受け取る新神。
「お返事待ってますから―っ!」
そう叫んで、全速力でその場から退散して、校舎内へと駆けだしていく中学生時代の牛子。
「……なんだろう? この気持ち?」
そう自らを訝しみながら、ラブレターを受け取った新神は、大人の状態の牛子とアンリの元へと戻っていく。
「ふう、無事に戻ってきたぞ。牛子クン、このラブレターになにを書いたか覚えているかね?」
「……全然、覚えてないです、先生」
「じゃあ、今から開けて、内容を確認するぞ」
「はい」
そう言って、新神はラブレターの封を開ける。
そして、3人で同時にそのラブレターを読んだ。
☆
――山羊野クンへ。
愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる……。
……。それは、手書きでラブレターの用紙一面にビッシリと愛してる。と書き連ねていたラブレターだった。
そして、最後に一文、こう書いてあった。
だから、結婚してください。
牛神牛子より。
☆
「うわっ、ストーカーだ」
ラブレターを読んで、血の気が引いた新神はそう言った。
「なに言ってるんですか、先生。女子中学生らしいピュアなラブレターじゃないですか? ねぇ、アンリさん?」
「……。とりあえず、もうあまり時間がありません。私の超能力の効力が切れる前に、新神さん。貴方がラブレターの返事を書くのです」
「うーん? とは、言っても私はラブレターなど書いた経験はない。ましてや女子中学生相手となれば、一体どう書いていいものやら……?」
珍しく、新神がどうしたものかと頭を捻っている。
「自然体で、あるがままの気持ちを伝えればいいじゃないですか? 先生の、あるがままを文章で表現してください」
「うん?」
牛子の思わぬ提案に、新神は首を捻る。
「もう、時間がありません。急いでください」
アンリが新神を急かす。
無茶振りもいいところだな、この外国人も。と、新神は思っていたが、ぱっ、と何かが閃いてきて、それをラブレターの返事として書くことを思いついた。
「牛子クン。メモ用紙とペンを渡してくれたまえ。いいことを思いついた。ササっとそれを書いて渡してしまおう。下駄箱にでもメモ用紙を入れておけばいい」
「はい、先生。どうぞ」
牛子が新神にメモ用紙とペンを手渡し、それにササっと新神は何かを書いて、2つ折りにした。
「では、それを急いで、学生時代の牛子さんの下駄箱に入れてきてください」
「私が行ってきます! たぶん、覚えていますからっ」
2つ折りにされたメモ用紙を手に、牛子は校舎内へと入っていく。
……。
それから、しばらくして。
3人の姿は同時に忽然とその世界から消えた。
――桜の大樹の生い茂った緑だけが、風に揺られている。
☆
気付くと、3人で手を繋いだ状態で、現代の新神なんでも相談屋に戻ってきていた。
アンリは、茫然としている2人をしばらく見つめた後。
「ふう。10キロくらい一気に体重が落ちてしまいました。……私はこれから、日本で有名なパフェを食べにいくことにします。体力を回復しないといけません」
そう言った。
確かに、アンリの見た目は初めて見た頃よりも、一回りは小さく見えていた。
「アンリさん。一体アナタは何故そうまでして我々に超能力を披露してくれたのでしょうか?」
新神が鋭い目をして、そう尋ねる。
「ワタシは超能力の力をみんなに知ってもらうために活動しています。こうした超能力は、ワタシだけの特別なものではありません。新神さんや牛子さんでも、世の中の誰にでも目覚める可能性のある、そんな力なのです」
アンリはそう言って、満足そうに微笑んだ。
「……そうですか」
新神は、少し思案した後、そう短く応えた。
「では。ごきげんよう。お2人とも、よい人生を!」
アンリはそう別れの挨拶をすると、大きな赤のキャリーバッグを引いて、新神ビルの出入口へと向かっていった。
「うーん、夢見ていたみたいだ」
「ですね」
新神と牛子はキツネにつままれた様な状態で、しばし沈黙するのみだった。
☆
――後日。
「今日もヒマですねぇ、先生」
「ああ、たまにはキミが面白いことをしたまえ、牛子クン」
そう催促する新神。
いつもなら、イヤですよ、と断る牛子。
の、筈であったが……。
牛子は急に立ち上がり、ガニ股のポーズをとり、股の間にハイレグ水着のような角度で、両手を差し込んだ。
「コマネチマン! コマネチ! コマネチ! からの……ひょっこり瓢箪島!」
そして、奇妙なゼスチャーを加えながら、訳のわからないギャグをかました。
「いいねぇ! 牛子クン! とってもいい! 成長してきてるよキミ!」
そのギャグを受けて満足そうに頷く新神。
――そこから少し離れたところ。
パーテーションで囲われた牛子のプライベートゾーン。
そこには、牛子の中学生時代の卒業アルバムが眠っていた。
その卒業アルバムの間に挟まれた、一枚の古ぼけたメモ用紙があった。
2つ折りの跡が残っている、そのメモ用紙には一文だけ、こう書いてあった。
『パ。F! イイ感じ。 ――山羊野より』
………?
それは果たして、一体どういう意味であったのだろうか?
新神以外は、誰も知る由ではない。
――ただ、いつの間にやら、牛子の性格は少しバカで、ユニークなものに変化していたという。
第5話 時空を超えたパニック・ラブ closed.




