第9回 鍾繇、初出仕をする
冠礼の儀を終えて、四年が経過した。鍾繇、二三歳である。
この四年間も、師である荀爽と共に学問、著作の手伝いに励んできた。
今は春、鍾繇は庭の掃除をしながら、優しい木漏れ日からほのかな暖かさを感じていた。そこに、家人から「師がお呼びです」、と声を掛けられた。
すぐに、荀爽の書斎に向かった。
「元常、只今、参上致しました。」
「お前にとって、いい話であるか、悪い話であるかは分からぬが・・・。」
「はい、どのようなお話でしょうか。」
「元常、お前は潁川郡の孝廉に挙げられた。」
「えっ。私が・・・。」
孝廉というのは、地方官が優秀なものを中央に推薦する制度であり、官途への入り口となる。
「その年で孝廉に挙げられるのは名誉なことである。しかし、中央で働くということは、党錮の禁が三度起きれば、その嵐をまともに受けることになりかねない危険がある。」
「先生、この話は是非、受けたいと思います。」
「そうか。お前の志は、官途にあるか。」
「はい。冠礼の儀より考えてまいりましたが、自分の学問を政に活かしたい、と常々考えておりました。」
「そうか。それなら、その道へ進むとよい。お前がいなくなると、私は些か不便に感じるが・・・。」
荀爽は笑いながらそう言うと、続ける。
「私は当面、この生活を続けるつもりだ。お前の進む道は茨の道となる可能性もあるが、お前なら何とか
なるであろう。官途に就く以上、天子様、人民に尽くすことを一番と考えて励むように。」
「お言葉、この胸に刻みました。数日の内には、洛陽に向かいたいと思います。」
―数日後―
既に鍾繇の姿は、洛陽にあった。
鍾繇は早速、尚書台に向かった。
「豫洲潁川郡長社県より参りました、鍾繇元常と申します。任官の手続きをお願いしたく。」
「潁川郡の鍾繇・・・。お前の任官先は、この尚書台である。明日より、尚書郎として励むように。」
鍾繇は拝礼して、任命書を受け取った。
「明日からが、自分の学問を活かすときだ。」
心の中で、呟く。
こうして、鍾繇は「政」への第一歩を踏み出したのである。




