第6回 鍾繇、高弟として研鑽を積む
鍾繇は高弟に取り立てられたとはいえ、日常の生活はほとんど変わらない。手際よく家事をこなし、学問に使える時間を確保し、荀爽や他の高弟たちの講義も受けられるものは全て受けて、熱心に取り組んだ。
荀爽は「易経」に詳しく、後に「周易荀氏注」という易経の研究には欠かせない書物をこの世に送り出すが、この頃から研究の方は開始しており、鍾繇はその資料整理などの手伝いを行っていた。
荀爽の書斎には、当然、誰もが入れるわけではなく、家人は限られた者しか出入りは許されていなかった。高弟にしても、高弟のほんの一部の者だけであった。
その様な選ばれた者しか出入りを許されない空間に、わずか一三歳の少年がいるのであるから、不思議である。
しかし、鍾繇の働きぶりを見れば、そこにいるのは何ら不思議ではない。散逸しがちな資料を丁寧に用途ごとに分けて、何の資料かわかる様に分類して、表紙を付けた。
その表紙には、どういった資料が入っているのか一目でわかる様に工夫がされている。荀爽はそういった仕事ぶりに感心するとともに、鍾繇の書く「文字」に注目した。
「鍾繇よ、お前の書く文字は、非常に美しい。」
「本当ですか。なるべく内容がわかりやすいように書いているだけですが・・・。」
「そうか。お前は、学問だけではなく、“書”の才能もあるのかもしれん。大切にせよ。」
「はい、ありがとうございます。」
鍾繇は素直である。
鍾繇は、学問の合間を縫いながら、書の方にも興味を示し、研究、練習をするようになった。
そしてまた、充実した時間が、積み重なっていく。
この時間がずっと続けばいい、と思えるほどの充実感であった。しかし、そう長くは続かなかった。
突如として、世間を揺るがす嵐が、洛陽に吹き荒れるのである。




