第39回 鍾毓、夏侯玄の供述書を代筆する
順調すぎるくらい、司馬師による専制体制の構築は進んでいった。誰も、正面から声を挙げる者はいない。
鍾毓は、自分の仕事に邁進することに決めている。
支配者が誰であれ、自分の仕事を全うする、と決めていた。
そして、この司馬師の専制を許さない、という者が現れた。
「夏侯玄」である。
夏侯玄は、数名の有力者を引き込み、司馬師の排斥に乗り出そうとしたが、あっけなくことは露見し、その身柄は捕らえられたのである。
そして、鍾毓は廷尉として、夏侯玄の取り調べを行った。
鍾毓が言う。
「夏侯玄殿。この供述文次第では、今まで通りとはいかなくとも、命だけは助かる可能性もあります。心して、お書きください。」
「・・・。」
「夏侯玄殿?」
「鍾毓とやら。私は、事を為すと決めたとき、もし、しくじったならば、この命はくれてやる、という覚悟は決めていた。今更、弁解をする気など、毛頭ない。」
「しかし、規則ではお書き頂くことになっております。」
「規則・・・。そんなものは関係ない。その規則が大事であれば、鍾毓、お前が私の代わりに書くがよい。」
「しかし、その様な前例は・・・。」
「前例がない、だと。お前がここ最近行ってきた法改正も前例はなかったのではないか?もう少し、骨のある奴だと思っていたが、見当違いか。」
「・・・。わかりました。私が書きますので、その内容を確認だけはしてください。」
こうして、通常は夏侯玄が書くべき供述を、鍾毓は代筆することになった。
内容としては、司馬師の排斥を行おうとしたのは事実であること、国への忠誠を果たすためで、決して自分の権勢欲のためではないこと、しかし事ここに至っては、弁解はせず、死を賜る、といった様な内容を記載した。
夏侯玄にこの代筆文書を見せると、夏侯玄は何も言わずに受け入れた。
結果、夏侯玄をはじめ関係者は全員逮捕され、三族まで処刑されることになったのである。
鍾毓は内心、涙に濡れたが、廷尉として、外に泣いているのを見せるわけにはいかなかった。
「私は私で正しいことをやるだけだ。」
改めて誓う、鍾毓であった。




