第37回 鍾毓、中央に戻る
西暦二四九年(正始一〇年)、中央で大事件が起こる。
「高平陵の変」である。
この事件により、曹爽をはじめとする大将軍一派は一掃され、司馬懿が復権して、全権を握ることになるのである。
この変事を契機に、魏郡太守を五年間つとめた鍾毓は中央に呼び戻され、御史中丞、侍中、廷尉と昇進を続ける。
一方、弟の鍾会はどうか。
「中書郎」に栄転した。
中書省の所属で、文治、政治的感覚が優れた者が登用される。若くして、軍事、文治に長けていることがわかる任命であった。
鍾毓と鍾会は、しばらくぶりに洛陽で顔を合わせた。
鍾毓が言う。
「士季よ、お前の尚書郎としての活躍を喜んでいたのだが、今度は中書郎か。」
「兄上も、戻ってきたと思ったら、あっという間に廷尉になられて、こちらが驚いております。」
「これも、父上の思し召しかもしれぬな。」
「まことに。父上の作られた制度の中で、我々は暮らしているのですから。」
「噂で聞いたのだが、お前が太傅の司馬懿様のご長男、司馬師殿と最近は昵懇の仲とか。」
「昵懇とは、中護軍の司馬師様に失礼かと。お年が兄上とほぼ同じなので、兄上に仕えているような感じです。」
「なるほどな・・・。まあ、別にあれこれ言う気は無いのだが・・・。士季よ、これから言うことは他言無用だ。」
「はい・・・。」
「今回の変事で、これからこの国の実験を握るのは太傅様の一族になるであろう。私を中央に戻したのも、お前を取り立ててくれているのも、我ら鍾氏を取り込むため、と私は見ている。」
更に続ける。
「父上ももとは漢に仕え、最終的には曹魏に仕え、今がある。我々もどうなるかはわからんが、何事も慎重に事を運ぶようにしてくれ。」
「わかりました。くれぐれも慎重に行動するように致します。」
ここから、時代は少しずつ動き出すことになるのである。




