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鍾繇一族  作者: 涼風隼人


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第2回 鍾繇、水難にあう

 西暦一六一年(永寿七年)、鍾繇は一〇歳の少年となった。

 

 鍾瑜の思っていた通り、学問が好きな子供であった。

 あまりにも学問に熱中するたちなので、鍾瑜は言った。

 「たまには、外で遊ぶことも必要だぞ。」

 

 しかし、そう言いながらも、この学問好きの鍾繇の将来を鍾瑜は期待していた。大げさに言えば、

 「この子が将来の鍾家を背負っていくのかもな。」

 などといった具合である。

 

 ある時、鍾瑜は所用で洛陽に行くことになった。その際に都の空気を吸わせておくのもいいと思い、鍾繇を連れて行くことにした。洛陽行きの話を鍾繇にすると、目を輝かせながら、珍しく興奮気味に答えた。

 「本当でございますか。是非、お連れください。」


 鍾瑜は鍾繇の反応に驚き、何故、そんなに洛陽行きが嬉しいのかを尋ねると、鍾繇は嬉しそうに答えた。

 「天子様のいらっしゃる都ですから、学問の都と言ってもいい場所で、以前から、行ってみたかったのです。」


 「学問の都・・・。」

 確かに、ここ潁川郡は多くの名士を輩出しており、ここでも学ぶことは出来るが、やはり、もう一段階上というと、洛陽で学ぶことであろう。鍾瑜は、鍾繇に伝える。


 「三日後に出発するから、それまでに準備を整えておきなさい。」

 鍾繇は拝礼した。


―三日後―

 洛陽に向けての旅立ちである。

 鍾瑜と鍾繇は馬に乗り、家人数人は徒歩であるので、洛陽の到着は四日後くらいで考えていた。


 鍾繇はあまり外で遊ぶ子供ではなかったが、乗馬には尋常ではない興味を抱き、早々に一人で乗れるようになった。

 鍾瑜は何故、乗馬にそれほど興味があるのか聞いた。


 「馬に乗れれば、移動に掛かる時間が短縮でき、その時間で学問ができるからでございます。」

 と、答えたときは、鍾瑜は本当に感心し、仔馬を鍾繇にあてがったのである。


 鍾繇にとって、これが初めての旅であった。

 仔馬とはいえ、馬上から見る風景は、なんだか少し美しく見えた。鍾繇はよほど馬に乗るのが嬉しいのか、終始にこやかに鍾瑜からは見えた。


 順調に旅程をこなし、明日の昼前には洛陽に到着できる、というところまで来て、宿をとることになった。


 宿を探しているときに、一人の老人が一行の前に現れた。


 道を塞がれてしまって前に進めないので、家人の一人がどいてくれと言おうとしたとき、老人がまじまじと鍾繇の顔を見ながら、鍾瑜に言った。


 「ほう、子供ながら見事な人相だ。この子は必ず、出世栄達する貴人の相をしているので、大事に育てなさい。ただし、水難の相も併せて持っているので、水にはくれぐれも気を付けるように。」

言い終わると、町中に消えて行ってしまった。


 鍾瑜は、心の中で呟く。

 「やはり、鍾繇には特別なものがあるのだな。今の老人の話を半分で聞いても、世には出る才があるということだ。」


―翌日―

 あと少しで洛陽に到着する。


 「ようやく天子様の都が見られる。学問の都に到着する。」

 鍾繇の心は踊った。その様子を見て鍾瑜は、久々に子供らしい鍾繇の笑顔を見た気がした。


 目の前に川が現れた。

 橋を渡ろうとしたその時、すれ違いざまの商人の荷車の音に驚いて、鍾繇の仔馬が飛び跳ねんばかりに前立となってしまい、何と、鍾繇は川に落ちてしまったのだ。


 結構深さのある川であったので、家人の助けが遅くなれば、命が危なかったところだが、幸い、怪我もなく無事であった。


 鍾瑜は、

 「大丈夫か、繇よ。」

と声を掛けた。


 「普段おとなしい馬なのにあれほど跳ね上がるとは驚きました。私の未熟さ故、多くの人々にご迷惑をかけて申し訳ございません。」

と、鍾瑜と家人に頭を下げて謝罪した。


 「これが、水難か・・・。」

 鍾瑜は、老人の人相見の予言が当たったことから、

 「よし、この子には一族を背負ってもらう人間になってもらうために、学問に集中させよう。」

そう決めて、実際に鍾繇に惜しげもなく支援を行うのである。

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