第13回 鍾繇、荀彧と出会う
鍾繇は三一歳になった。
涼州の風が合わず体を壊したが、体調はほぼ、元通りといえるところまでになっていた。
しかし、この年、大切な人を亡くした。
鍾繇が学問に集中できるようにさせてくれた、族父の鍾瑜である。今年でちょうど、七〇歳であった。
実は鍾瑜には男子は無く、それが鍾繇に期待をかけていた要因でもあった。
鍾繇にとっての鍾瑜は実の父親の様なものであり、向こう三年、鍾繇は鍾瑜の為に喪に服そうとした。
しかし、その静謐な時間は打ち破られた。
西暦一八四年(中平元年)、「黄巾の乱」勃発である。
冀州を中心に「張角」によって起こされたこの大乱は、一気に広まりを見せ、鍾繇の故郷である豫洲潁川郡にも多大な影響を与えた。
鍾繇は、鍾瑜亡き後の一族郎党を引き連れて、一時的に洛陽に避難をすることにした。そして、ここで再び師と会うことになる。荀爽である。荀爽の一族も、戦火を避けるべく、洛陽に避難していた。
「先生、ご無沙汰をしております。」
「元常よ、久しいな。鍾瑜殿の事は、まことに残念であった。」
「はい。私には本当の父の様な人でした。」
「そうだな。その喪中にこの様なことになるとは・・・。」
「はい。残念でなりません・・・。しかし、この洛陽にても、出来得る限りはしようと思っています。」
「元常らしい言葉である。例え墓に詣でなくとも、その心で故人を敬うことを忘れなければよい。」
「はい、その様にさせて頂きます。」
鍾繇はふと、荀爽の傍らに立つ青年に目が言った。
端正な顔立ちと落ち着いた雰囲気を醸し出しており、鍾繇は一瞬にして只者ではない、と思った。
「先生。そちらの方は?」
「おお。元常に紹介しようと思って連れてきた。我が兄荀緄の子で、荀攸とは従弟の荀彧だ。今年で一九歳だ。文若、自己紹介しなさい。」
「鍾繇様、お初にお目にかかります。姓は荀、名は彧、字は文若という若輩者です。どうぞ、お見知りおきを。」
「おお、あなたが文若殿ですか。お名前は、若き俊英、“王佐の才”であると噂で聞いておりました。その呼ばれ方に全く違和感のない見た目も雰囲気もお備えですな。」
「その様におほめ頂くとは、恐縮です。私も鍾繇様の事は、従兄の公達殿からお聞きしています。その才は、いつか天下を包み込むほどのものである、と。」
「公達殿がそのようなことを・・・。公達殿もその才は常識では測れますまい。我ら潁川郡出身者として、励みましょうぞ。」
荀彧は拝礼した。
これが、鍾繇と荀彧の初めての出会いとなるのである。




