流れ星のきらきらちゃん
むかしむかしある宇宙に、生まれたばかりの小さな流れ星の、きらきらちゃんがただよっていました。
「大きくなったら、いったいわたしは何になるのかしら?」
きらきらちゃんはおそろしくも、ワクワクが止まりませんでした。流れ星は流れます。他の星とはなれ、ひとりまっくらな、何もない宇宙を、きらきらちゃんはゆっくりゆっくり進んでおりました。
ある時、きらきらちゃんは東の星空でこいぬ座と出会いました。
きらきらちゃんは目をかがやかせました。
「良いなぁ。わたしも大きくなったらこいぬ座さんのような、みんなに見あげてもらえる、かわいいかわいい星座になりたいわ」
一方こいぬ座さんの方は、ふらふらとやって来たお客さまをものめずらしそうにながめました。こいぬ座さんがしっぽをふりながらたずねました。
「わんわん! キミ、名まえは?」
「きらきらしてるから、きらきらよ」
「そう。きらきらちゃんはどこから来たの?」
「わからないわ。どこからきたのかも、どこにいくのかも」
「だったらここでぼくと遊ぼうよ」
きらきらちゃんはうれしくなって、それからしばらくこいぬ座さんと宇宙で遊びました。
地上からは、その間だけ、こいぬの星座がボールと遊んでいるようすが見られたそうです。
だけど、楽しい時間はあっという間でした。こいぬ座さんに別れを告げ、きらきらちゃんはふたたび進み始めました。流れ星なので、自分で進む時間も方向も、決められないのです。
「また会ったら、またいっしょに遊ぼうね」
「やくそくよ。やくそくよ」
お別れはかなしかったですが、それでも星は巡らなくてはなりません。こいぬ座さんに手をふって、広い広い宇宙を、きらきらちゃんはひとり流れ流れて行きました。
どれくらい時間が経ったでしょうか。きらきらちゃんが顔を上げると、北の星空に、こぐま座がかがやいていました。ふたたび誰かと巡り会えて、きらきらちゃんはほっとしました。
「良いなぁ。わたしも大きくなったらこぐま座さんのような、いつも頼りになる、しっかり者の星座になりたいわ」
こぐま座さんの方も、久しぶりにやって来た流れ星をよろこんでかんげいしました。何せ宇宙は広いのです。遠くの方で星がかがやいて見えても、実は何光年もはなれていて、一年中、全く誰ともすれ違わないなんてこともしょっちゅうありました。
「やぁやぁよく来たね。お腹は空いてないかい。さむかっただろう、こたつへお入り。キミ、名前は?」
「きらきらしてるから、きらきらよ」
「ゆっくりして行くと良い。ここには何でもあるからね」
こぐま座さんはにっこりと笑いました。たしかに北の星空には何でもそろっていました。きらきらちゃんはこたつ座に入り、しばらくのんびり旅の疲れをいやしました。地上からは、その間だけ北の空にこたつやらクリスマスケーキやら、おもちが浮かんでいるのが見えて、人々はびっくりしていました。
だけどやっぱり、のんびりしていられるのもあっという間でした。年が明けると、きらきらちゃんはふたたびゆっくりと進み始めました。
「宇宙を一巡りしたら、また来年、寄ると良い。いつでも待ってるからね」
「ありがとう、こぐま座さん。とっても楽しかったわ」
こぐま座さんが見えなくなるまで、きらきらちゃんはいつまでもいつまでも手をふっていました。広い宇宙で、きらきらちゃんの旅は続きます。
そしてまた、長い長い時間が過ぎました。長すぎて、きらきらちゃんは途中で寝てしまったほどです。いつの間にか、きらきらちゃんは西の星空にたどり着いていました。西の空には、それはそれはりっぱな、おうし座がかがやいてきました。きらきらちゃんはうっとりと目をほそめ、ほぅ、と息をもらしました。
「きれい……わたしも大きくなったら、おうし座さんのような、みんなにそんけいされる美しい星になりたいわ」
きらきらちゃんはおうし座さんに、こぐま座さんからもらったおみやげをわたしました。はじめは、見なれない顔にまゆをひそめていたおうし座さんも、大よろこびできらきらちゃんをむかえました。
「あなたは運が良いわ。ここは宇宙でもとくに美しい場所よ。銀河中の星たちが、この場所にあこがれてるのよ」
「わぁ……!」
おうし座さんの言うとおり、西の空はそれはそれは美しい場所でした。タワーの天辺からみる街明かり座、夕日にそまる海岸座、ゆたかな森で楽しくくらす小鳥やリス座……などなど。
どこを切り取っても息をのむほどの絶けいに見とれて、きらきらちゃんはしばらく夢見心地で過ごしました。地上からは、海やら街やら森やら、絶けいが空に浮かんでいて、人々はこんらんしてしまいました。どっちが上か下かわからなくなって、そのうち逆立ちして歩き出す人があらわれたほどです。
だけど、だけどあぁやっぱり、楽しい時間はあっという間でした。きらきらちゃんが西の星空をはなれる時が近づいていました。
「いやだ、行きたくない!」
きらきらちゃんはおうし座さんの胸に飛びこんで、とうとう泣き出してしまいました。
「わたし、ここが大好きなの。ずっとここにいたいわ!」
「まぁ……ありがとう。でも、ごめんね。それは無理なのよ。私たちはお星さまなのですから」
いつまでも泣き止まないきらきらちゃんの頭を、おうし座さんが優しくなでました。たっぷりおみやげをもらっても、みんながかわるがわるお別れのあいさつに来ても、きらきらちゃんはまだ泣いていました。
泣きながら、いよいよ旅立つ日がやって来ました。きらきらちゃんはひとり、広い広い宇宙をただよい始めました。
「わたし、星座になりたかった」
ふらふらと暗い空を進みながら、きらきらちゃんは涙を流しました。
「そうしたら、いつまでもずっと同じ空に浮かんでいられるのに。ああ、わたしってなんて不幸な流れ星なんだろう。こうしていつまでも、何にもなれないまま、どこにもたどり着けないまま、わたしの一生は終わるんだわ」
きらきらちゃんの涙が、広い宇宙できらきらと、線になってかがやきました。だけど、あぁだけど、きらきらちゃんは知らなかったのです。地上から、人々がきらきらちゃんを見上げていたことを。
人々はちゃんと見ていました。
こいぬ座と楽しそうに遊ぶきらきらちゃんを。
クリスマスケーキを美味しそうに食べるきらきらちゃんを。
タワーの天辺で記念撮影するきらきらちゃんを。
きらきらちゃんはちゃんと星座になれていたのです。それも、東の、北の、西の、あちらこちらの空で、たくさんの星座に。人々はちゃんと星座になったきらきらちゃんを見ていました。
やがて泣きつかれたきらきらちゃんが、今度は南の空にたどり着き、また新しい星座に出会うのは……それは、もう少し先のお話です。おしまい。




