表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女と呼ばれた令嬢の真実  作者: 藍沢 理
第2章 勇者ナオト・カブラギ
9/22

第2話 呪い

 息を呑む。


「これは……」


 セバスチャンとエリアーナが、驚いた表情を浮かべていた。俺の瞳が金色に光っているからだろう。


 黒い鎖をさらに詳しく観察する。心臓を中心に、規則正しく広がっている。血管に沿って、複雑な幾何学模様を描きながら。


 自然な病気じゃない。


 こんな綺麗な対称性を持つ病変は存在しない。


「どうでしょうか……」


 セバスチャンの不安げな声。能力を解除した。視界が元に戻る。


 二人を見る。真実を告げる時だ。


「これは病気じゃない」


 沈黙。


「呪いだ」


 エリアーナの青い瞳が、見開かれる。セバスチャンは呆然と立ち尽くしていた。


「呪い……ですって?」


 エリアーナの声が震える。


「ああ。間違いない。俺の眼は嘘を見抜く。そして今、あんたの体には黒い鎖が見えた。心臓から全身に広がっている。これは呪術だ」


 セバスチャンが身を乗り出す。


「では……治せるのですか?」

「まず、呪いの正体を調べる必要がある。どんな呪いなのか。誰がかけたのか。それが分かれば、解呪方法も見えてくる」


 エリアーナが小さく息を吸う。


「本当に……呪いなのですか」

「ああ」

「では、これは……誰かに……」


 彼女は言葉を飲み込んだ。恐怖と、そして僅かな怒り。


「そういうことだ。あんたは誰かに呪われている。それも、長期間にわたって効果を発揮する、非常に高度な呪術でな」


 セバスチャンの拳が、固く握られた。


「許せません……お嬢様を、こんな目に……」

「落ち着け。まずは情報を集めるから、詳しく話を聞かせてくれないか」


 椅子に座ると、セバスチャンとエリアーナも向かいに腰を下ろす。


 俺はゆっくり尋ねた。


「いつからだ? 体調が悪くなったのは」


 エリアーナが目を閉じる。記憶を辿っているのだろう。


「はっきりとは……でも、七歳の時に薔薇熱(しょうねつ)という病気に罹りました。それから……何かがおかしかった気がします」

「七歳……十四年前か」


 俺は真実の眼で見た黒い鎖を思い出す。あれは相当古い呪術だ。十四年前というのは符合する。


「その病気の症状は?」

「高熱と、全身の痛みでした。一週間ほど寝込んで……回復した後、顔面に麻痺が残りました」


 セバスチャンが補足した。


「お嬢様は、それ以来、笑顔を作ろうとすると激痛が走るようになられたのです」


 なるほど。彼女と会ってわずかだが、ずっと無表情なのはそのせいか。


「他には?」

「倦怠感が……年々、強くなっていきました。でも、まだ動けましたから。最近になって、急に悪化したんです」


 エリアーナが胸を押さえる。苦しそうに息をした。


「呼吸が……苦しくて……」


 セバスチャンが立ち上がりかけるが、エリアーナは手を振って制する。


「大丈夫です」


 深く息を吸う。痛みを堪えている顔だ。


 俺は考える。七歳で発症。徐々に悪化。最近になって急激に。

 これは――段階的に効果を発揮する呪いだ。それ以外に考えられなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ