第2話 呪い
息を呑む。
「これは……」
セバスチャンとエリアーナが、驚いた表情を浮かべていた。俺の瞳が金色に光っているからだろう。
黒い鎖をさらに詳しく観察する。心臓を中心に、規則正しく広がっている。血管に沿って、複雑な幾何学模様を描きながら。
自然な病気じゃない。
こんな綺麗な対称性を持つ病変は存在しない。
「どうでしょうか……」
セバスチャンの不安げな声。能力を解除した。視界が元に戻る。
二人を見る。真実を告げる時だ。
「これは病気じゃない」
沈黙。
「呪いだ」
エリアーナの青い瞳が、見開かれる。セバスチャンは呆然と立ち尽くしていた。
「呪い……ですって?」
エリアーナの声が震える。
「ああ。間違いない。俺の眼は嘘を見抜く。そして今、あんたの体には黒い鎖が見えた。心臓から全身に広がっている。これは呪術だ」
セバスチャンが身を乗り出す。
「では……治せるのですか?」
「まず、呪いの正体を調べる必要がある。どんな呪いなのか。誰がかけたのか。それが分かれば、解呪方法も見えてくる」
エリアーナが小さく息を吸う。
「本当に……呪いなのですか」
「ああ」
「では、これは……誰かに……」
彼女は言葉を飲み込んだ。恐怖と、そして僅かな怒り。
「そういうことだ。あんたは誰かに呪われている。それも、長期間にわたって効果を発揮する、非常に高度な呪術でな」
セバスチャンの拳が、固く握られた。
「許せません……お嬢様を、こんな目に……」
「落ち着け。まずは情報を集めるから、詳しく話を聞かせてくれないか」
椅子に座ると、セバスチャンとエリアーナも向かいに腰を下ろす。
俺はゆっくり尋ねた。
「いつからだ? 体調が悪くなったのは」
エリアーナが目を閉じる。記憶を辿っているのだろう。
「はっきりとは……でも、七歳の時に薔薇熱という病気に罹りました。それから……何かがおかしかった気がします」
「七歳……十四年前か」
俺は真実の眼で見た黒い鎖を思い出す。あれは相当古い呪術だ。十四年前というのは符合する。
「その病気の症状は?」
「高熱と、全身の痛みでした。一週間ほど寝込んで……回復した後、顔面に麻痺が残りました」
セバスチャンが補足した。
「お嬢様は、それ以来、笑顔を作ろうとすると激痛が走るようになられたのです」
なるほど。彼女と会ってわずかだが、ずっと無表情なのはそのせいか。
「他には?」
「倦怠感が……年々、強くなっていきました。でも、まだ動けましたから。最近になって、急に悪化したんです」
エリアーナが胸を押さえる。苦しそうに息をした。
「呼吸が……苦しくて……」
セバスチャンが立ち上がりかけるが、エリアーナは手を振って制する。
「大丈夫です」
深く息を吸う。痛みを堪えている顔だ。
俺は考える。七歳で発症。徐々に悪化。最近になって急激に。
これは――段階的に効果を発揮する呪いだ。それ以外に考えられなかった。