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悪女と呼ばれた令嬢の真実  作者: 藍沢 理
第2章 勇者ナオト・カブラギ
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第1話 勇者の眼が見抜いた真実

 シルヴァニア王国の首都シルヴェリアは、魔術研究で知られる学術都市だ。石畳の道を歩きながら、俺は手紙の内容を思い返す。


 セバスチャン・クロフォードからの依頼。

グランディア王国を追放された令嬢が、余命半年の宣告を受けている。治療を頼みたい――そう記されていた。


 妹のエマ宛ての手紙だったが、あいにくエマは魔王軍残党討伐の任務中。代わりに俺が来た。治療魔法は使えない。だが、診断くらいはできる。


 銀月亭。看板にそう書かれた宿の扉を開ける。

 受付で名を告げると、二階の一室へ案内された。扉をノックする。


「どうぞ」


 落ち着いた男性の声。中へ入ると、白髪交じりの初老の男性が立ち上がった。品のある執事服。背筋が伸びている。


「勇者カブラギ様でいらっしゃいますか」

「ああ。ナオト・カブラギだ」

「セバスチャン・クロフォードと申します。お待ちしておりました」


 深々と頭を下げる。丁寧な所作。


「エマ・カブラギ様は……」

「妹は任務中だ。魔王軍残党の討伐でな。代わりに俺が来た」


 セバスチャンの表情が、わずかに曇った。落胆だろう。無理もない。治療の勇者として名高いエマを期待していたはずだ。


「申し訳ございません。治療魔法が使えないと伺っておりましたので……」

「診断はできる。それに、俺には特殊な能力がある」


 セバスチャンが顔を上げる。


「特殊な……?」

「真実を見抜く眼だ。病気の原因を突き止められるかもしれない」


 希望の光が、老執事の瞳に灯った。


「では……お嬢様を」


 隣室へ案内される。扉を開けると、ベッドに横たわる女性の姿。


 銀色の長髪。青い瞳。美しい顔立ちだが、頬はこけ、肌は青白い。死の影が忍び寄っている。


「エリアーナ様、勇者様がお見えになりました」


 女性――エリアーナがゆっくりと体を起こす。無表情のまま、俺へ視線を向けた。


「ナオト・カブラギと申します」

「エリアーナ・エルドリアです。わざわざお越しいただき、ありがとうございます」


 丁寧な口調。だが、どこか諦めたような響きがある。


「治療魔法は使えないが、診断はできる。診させてもらっていいか?」

「はい……」


 ベッドに近づく。エリアーナの青い瞳がじっと俺を見つめていた。


「少し眩しいかもしれない」


 能力を発動させるため、目に力を込めた。視界が変わる。世界が歪んでいく。

 いや、違う。本質が見えるようになった。


 エリアーナの体を包む黒い靄。いや、靄ではない。鎖だ。黒い鎖が、彼女の心臓から全身へと這い回っていた。脈打つように、彼女の命を締め付けていた。


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