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悪女と呼ばれた令嬢の真実  作者: 藍沢 理
第3章 光の系譜――エリアーナが示す真実
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第7話

「私はもう、恨んでいません」


 本心からの言葉。


「殿下も、真実を知らなかっただけです。騙されていたのです」


 殿下の手を取り、立ち上がらせる。


「ただ、私は真実を知ってほしかった。お母様の無念を晴らしたかった」


 拍手が起こった。


 貴族が、文官が、衛兵が、皆が拍手をしていた。


 セバスチャンも、ナオトさんも、エマさんも、笑顔で拍手していた。


 王太子が私の手を強く握る。


「ありがとう、エリアーナ。そして……もう一度、やり直せないだろうか」


 私は首を横に振った。はっきりと。


「申し訳ありません、殿下」


 殿下の手を離す。


「私には、新しい人生があります。ここではない場所で、自由に生きていきたい」

「そうか……」


 殿下は悲しそうに微笑んだ。


「君にふさわしい人生を歩んでくれ。君は、幸せになる資格がある」

「ありがとうございます」


 最後の一礼をして、私は踵を返した。


 謁見の間を出る。長い廊下を歩く。王宮の門を抜ける。


 セバスチャン、ナオトさん、エマさんが後に続く。


 門の外に出た瞬間、肩の力が抜けた。


 青い空。自由な空気。もう何にも縛られない空。


 私は深く息を吸った。


「エリアーナさん。これから、どうするの?」


 エマさんが声をかけてくる。


「そうですね……」


 私は三人を見る。大切な大切な仲間たち。


「皆さんと一緒に、新しい場所で暮らしたいです」


 セバスチャンが優しく微笑む。


「お供いたします、お嬢様。どこまでも」


 ナオトさんも頷く。


「俺たちも一緒だ」

「ありがとうございます」


 私たちは王都を後にした。


 新しい未来へ。



 あれから半年が経った。


 シルヴァニア王国の小さな村、フィオレンティア。丘の上に建つ白い家が、私たちの新しい住処。


 私はそこで、癒しの家を開いていた。


 光の魔法で病人や怪我人を治療する。毎日たくさんの人々が訪れる。農夫、商人、旅人。様々な人々が、痛みを抱えてやってくる。


「ありがとうございます、先生」


 今日も一人の患者さんが、笑顔で帰っていった。足を怪我していた若者。光の魔法で傷を癒したら、驚くほど喜んでくれた。


「お大事に」


 私も笑顔で見送る。


 もう笑っても痛くない。心から笑える。それだけで、幸せだと思える。


「お疲れ様」


 ナオトさんが、温かい茶を持ってきてくれた。彼もエマさんも、この家で暮らしている。二人とも時々、治療を手伝ってくれる。ほとんどが、勇者として出かけているけど。


「ありがとうございます」


 茶を受け取り一口飲む。ハーブの香りが心地よい。


 セバスチャンは相変わらず、私の侍従として支えてくれている。家事全般をこなし、患者さんの予約管理までしてくれる。


 窓の外で夕日が沈んでいく。

 オレンジ色の光が部屋を染める。柔らかくて、温かくて、優しい光。

 こんな日々が、ずっと続けばいい。


 穏やかで、平和で、幸せな日々。


「お嬢様」


 セバスチャンが部屋に入ってきた。


「はい?」


「お手紙が届いております」

「誰からですか?」

「グランディア王国から。クラウディウス殿下です」


 私は手紙を受け取る。

 半年ぶりの、あの場所からの便り。

 封を開ける。中には、丁寧な文字で書かれた手紙。殿下の筆跡で違いない。


 王国の改革が進んでいること。民衆の暮らしが良くなってきたこと。ヴィクトール伯爵の一派が全て処罰されたこと。母アリシアの名誉が完全に回復され、王都には記念碑が建てられたこと。


 そして――手紙の最後。


『エリアーナ、君の選択は正しかった。君は自由に、幸せに生きるべきだ。私は王として、この国を良くしていく。それが、君への償いになると信じている。どうか、幸せに』


 私は手紙を、ゆっくりと畳んだ。


 ナオトさんが尋ねる。


「どうした?」

「過去からの、お別れの手紙です。殿下もようやく、前を向けたみたいです」


 セバスチャンが頷く。


「それは、良いことでございますね」


 手紙を引き出しにしまう。もう読み返すことはないだろう。でも、捨てもしない。これは私の過去の一部だから。


 エマさんが階段を降りてくる音がした。


「エリアーナさん、明日の予約、もう十五人入ってるわよ!」

「本当ですか? また忙しくなりそうですね」


 四人で笑い合った。


 夕日が沈み、夜の帳が降りてくる。

 私たちの家に、温かな灯りが灯った。


 もう誰も、私を縛らない。

 もう誰も、私を偽らない。

 私として、生きていける。


 それが何より幸せだった。







(了)


最後まで読んでくれてありがとっ!!

よかったらブクマしてくれたり★ぽちぽちしてくれたりすると、作者がクネクネダンスして喜ぶよ!

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