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悪女と呼ばれた令嬢の真実  作者: 藍沢 理
第3章 光の系譜――エリアーナが示す真実
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第5話

 シスター・マリエルが、祈るような表情で私を見ていた。


「おめでとうございます、エリアーナ様」


 深く一礼する。


光の系譜(ルーメン・リネア)、覚醒なさいました」


 セバスチャンが、涙を流していた。


「お嬢様……アリシア様も、さぞお喜びに……」


 私は自分の手を見る。意識を集中させると――手のひらに光の球が現れた。


 小さな、温かな光。でも、確かな力を持った光。


「これが……私の力……」


 マリエルが優しく微笑む。


「さあ、お戻りください。待っている方が、おられます」



 馬車を全速力で走らせ、銀月亭へ戻った。


 階段を駆け上がり、ナオトさんの部屋へ飛び込む。


 エマさんが疲れ切った表情で、治療魔法を唱え続けていた。緑色の光は弱々しく、もう限界が近いことは明らかだった。


「エマさん」


 彼女が振り返る。目の下には隈ができていた。


「おかえり、エリアーナさん……でも、兄さんは……もう……」


 ナオトさんの容態は、さらに悪化していた。顔色は土気色を通り越して灰色。呼吸は浅く、不規則。体を覆う黒い靄は濃くなり、部屋全体を侵食し始めていた。


 でも――もう大丈夫。


「エマさん、少し離れてください」


 私はベッドの傍らに立った。


 ナオトさんを見下ろす。苦しそうに呻いている。こんな苦しみを、私のために背負ってくれた。


「ナオトさん」


 静かに呼びかける。


 彼の瞼が、わずかに動いた。気づいてくれたのだろうか。


「あなたが私を救ってくれました。命を賭けて、私を助けてくれました」


 両手をナオトさんの胸の上にかざす。


「今度は私の番です」


 目を閉じ、力を呼び起こす。


 体の中から、光が湧き出してくる。手のひらから、温かな光が溢れ出した。


 光がナオトさんの体を包んでいく。すると――黒い靄が可視化された。


 触手のように蠢く、醜悪な闇。それは生き物のように動き、光から逃れようとしている。


「逃がさない」


 光を強める。


 闇を包み込む。溶かしていく。浄化していく。


 黒い靄が悲鳴のような音を立てた。きしむような、耳障りな音。それでも私は光を注ぎ続ける。


 母から受け継いだ力。千年前から続く、聖女の力。


「もう、誰も苦しめさせない」


 光が一段と強くなる。眩い光が部屋を満たし、闇を完全に包み込んだ。


 そして――闇が霧散した。


 触手が一本残らず消え去り、黒い靄は跡形もなく浄化された。


 光が収まる。


 ナオトさんの顔色が戻っていく。土気色だった肌に、血の気が蘇る。呼吸が深くなり、規則正しいリズムを刻み始めた。


 そして――目が開いた。


「エリアーナ……?」


 弱々しいが、確かな声。


「おかえりなさい、ナオトさん」


 ナオトさんが、かすかに笑った。


「助けてくれたのか……ありがとう……」

「お互い様です」


 エマさんが飛びついてきた。


「信じられない……信じられないわ! 完全に、完全に浄化されてる!」


 魔法で診察しながら、驚愕の声を上げる。


「呪いの痕跡が、まったくない……こんなこと、あり得ない……どうやったの?」

「私にも、よくわからないんです」


 母の指輪を見る。銀の指輪は、もう光を放っていない。でも、確かに温かい。


「でも……お母様が、力を貸してくれました」


 セバスチャンが深く頭を下げた。


「お嬢様。アリシア様も、さぞお喜びになっておられるでしょう」


 ナオトさんがゆっくりと体を起こす。エマさんが慌てて支える。


「もう、無茶しないでよね」

「すまん……」


 兄妹の穏やかなやり取り。それを見ているだけで、胸が温かくなった。良かった。本当に、良かった。


 でも――まだ終わっていない。


 私には、やらなければならないことがある。伝えなければ。


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