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悪女と呼ばれた令嬢の真実  作者: 藍沢 理
第1章 セバスチャンの証言
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第2話 一冊目

 貴族たちの視線が一斉に私へ向けられた。白髪交じりの老侍従など、誰も気にも留めていなかったのだろう。驚きの表情が、あちこちに浮かぶ。

 お嬢様が、初めて私を見た。青い瞳が、驚きに見開かれている。


「何者だ?」


 王太子が眉をひそめた。


「私はセバスチャン・クロフォード。エリアーナ・エルドリア様に長年お仕えしてきた侍従でございます」


 深く一礼する。


「殿下。証言をさせていただけませんでしょうか」

「証言? 何の証言だ」

「お嬢様は、悪女などではございません」


 王太子の目が丸くなる。謁見の間が、再びざわめいた。


「その証拠を、お見せいたします」


 カバンから黒革装丁の日誌を取り出した。一冊、二冊、三冊、四冊、五冊。全てを両腕に抱え、掲げて見せる。


「こちらは、専属侍従になって以来、一日も欠かさず記録した日誌でございます。お嬢様の行動、全てが記されております」


 王太子の表情が、わずかに動いた。


「……よかろう。証言を許す」


 私は日誌を開いた。最初のページ。あの日から。


「では、証言を始めさせていただきます」



 一冊目の日誌。グランディア暦1230年4月1日。

 お嬢様が十七歳、王太子との婚約が成立した日だ。


「お嬢様の一日は、規則正しいものでございました。毎朝午前五時に起床なさり、午前六時には必ず、ある場所へ向かわれます」


 ページをめくる。


「その場所とは――聖マリア孤児院でございます」


 謁見の間が、静まり返った。


「お嬢様は毎朝、変装をなさって孤児院へ通われました。そこで孤児たちと朝食を共にし、読み書きを教え、遊び、そして午前中いっぱいを共に過ごされます」


 日誌の記録を読み上げていく。日付、時刻、場所、行動。全てが、几帳面に記されている。


「証拠として、こちらをご覧ください」


 私は一通の羊皮紙を取り出した。


「聖マリア孤児院の院長、シスター・アグネスからの感謝状でございます。日付は一年目のもの。『毎朝欠かさずお越しくださる銀髪の天使様に、心より感謝申し上げます』と」


 羊皮紙を掲げる。


「このような感謝状が、五年間で三十枚以上ございます」


 貴族たちがざわめいた。

 私は構わず続ける。


「午後になりますと、お嬢様は王宮図書館で勉学に励まれました。王妃としての教養を身につけるため、一日も休まず。そして夜には祈りを捧げ、午後九時には就寝なさいます」


 日誌のページをめくりながら、淡々と証言する。


「殿下は、お嬢様が『会話もろくにできぬ』と仰いましたが……」


 王太子へ顔を向ける。


「この一年間、お嬢様と殿下の会食の予定は百二十回ございました。しかし殿下がお越しになったのは、そのうち三十三回のみ」


 沈黙。


「八十七回は、殿下がご欠席なさいました。お嬢様は、一人で食事をなさっていたのでございます」


 王太子の顔色が、わずかに変わった。


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