第2話
廊下の窓辺。朝日が差し込む静かな場所で、セバスチャンと二人きりになった。
彼は深く息を吐いてから、重い口を開く。
「お母様、アリシア様は……浄化の聖女の血統でいらっしゃいました」
浄化の聖女。聞き慣れない言葉だった。
「エルドリア家は、千年前に闇の魔王を浄化した伝説の聖女の末裔なのです。代々、闇を浄化する光の魔法を受け継いできた一族」
千年前。伝説。そして――光の魔法。
「しかし、その力は世代を重ねるごとに弱まっていき……お母様の代では、ごく微かに残る程度でした。それでも、お母様は優れた治療魔法の使い手でいらっしゃった」
セバスチャンの視線が、私の右手へ向く。母の指輪を見ているのだろう。
「お嬢様も、その血を引いておられます」
私に力が? そんな実感はまったくない。十四年間、私はただ苦しんでいただけ。誰も救えなかった。母も、自分自身も。
「でも……私は何も……」
「呪いで封じられていたのです」
セバスチャンの言葉が、胸に突き刺さる。
「ロドリゴ・ヴァルトハイムはおそらく、お母様から力を奪うために呪いをかけたのでしょう。そしてお嬢様にも、同じ呪いを。力が目覚めないように。聖女の血統を、根絶やしにするために」
だから、私は何もできなかった。
だから、助けられなかった。
力はあったのに、封じられていた。
「しかし今、呪いは解けました」
セバスチャンが私の手を取る。皺だらけの、温かい手。
「お嬢様の中に、力が眠っているはずです。それを目覚めさせることができれば……」
「目覚めさせられるんですか?」
「シルヴァニア王国に、光の神殿という場所がございます。聖女の血統に関する知識が、そこには残されているはず」
「行きます。今すぐに」
希望という名の、小さな光が見えた気がした。