第8話 エマ・カブラギ
光が見えた。
温かい光。
誰かの声が聞こえる。
「もう、兄さんったら! 無茶しすぎ!」
この声は――
「エマ……?」
目を開ける。
黒髪の少女が、俺の上に覆いかぶさるように手をかざしていた。
妹だ。エマ・カブラギ。
聖なる光が、俺の体を包んでいる。温かい。痛みが和らいでいく。
「エマ……なんで……」
「任務が早く終わったの。それで急いで来たら、兄さんがこんなことになってて!」
エマの目に涙が浮かんでいる。
「馬鹿! 死んだらどうするのよ!」
治療魔法が、呪いを中和していく。黒い鎖が、ゆっくりと灰色に変わっていく。
完全に消えはしないが、無害化されていく。
「兄さんなら、これくらい耐えられるはず。でも油断は禁物だからね」
エマの治療魔法が、俺の体を癒していく。
意識がはっきりしてくる。体を起こした。
「ありがとう、エマ」
「もう、本当に……」
エマが俺に抱きついてくる。
「無事でよかった……」
エリアーナとセバスチャンが、近くで見守っていた。エリアーナが微笑んでいた。痛みのない、本当の笑顔で。
「あなたが、エマさん……」
「はい。エマ・カブラギです。この馬鹿の妹」
エマがエリアーナに向き直った。
「はじめまして、エリアーナさん。お元気そうで何よりです」
「あなたのお兄様に、命を救っていただきました」
エリアーナが深く頭を下げる。
「本当に、ありがとうございました」
俺は立ち上がった。体は重いが、動ける。
エリアーナを診る。
彼女の青い瞳が、生命の輝きを取り戻していた。
もう死の影はない。
「よかった」
本心からの言葉だ。
セバスチャンが深く一礼した。
「勇者様。本当に、ありがとうございました」
朝日が昇り始めた。森の木々の間から、光が差し込んでくる。新しい一日の始まり。
エリアーナの新しい人生の始まりだ。
彼女は空を見上げ、深く息を吸う。そして――俺を見て、心から笑った。
「ねえ勇者さん。……なんとなくですけど」エリアーナが初めて見せる心からの笑顔。「次は……私が、あなたを助ける番。そんな気がします」
はて? 勇者の俺を助ける? 魔法も使えないのに、この子はいったい何を言ってるんだ?