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悪女と呼ばれた令嬢の真実  作者: 藍沢 理
第2章 勇者ナオト・カブラギ
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第7話 ちっ!

 夜。森の奥深く。


 聖域の泉――シルヴァニア王国に伝わる、神聖な場所。月明かりに照らされた泉が、静かに水面を輝かせていた。


 エリアーナ、セバスチャン、そして俺。三人だけだ。


「ここで儀式を行う」


 俺は魔法陣を描き始める。泉の畔に、古代文字を刻んでいく。


 エリアーナが不安そうに見ていた。


「本当に……大丈夫なのですか」

「ああ。心配するな」


 魔法陣が完成する。複雑な幾何学模様。


「エリアーナさん、中央に立ってくれ」


 エリアーナが魔法陣の中央へ。


 俺はその向かい側に立った。


「この儀式で、呪いを俺に移す」


 セバスチャンが声を上げる。


「お待ちください! それでは、あなたが……!」

「俺は勇者だ。耐えられる」


 エリアーナが首を横に振る。


「駄目です……あなたを犠牲には……」

「いいんだ」


 俺は二人を見た。


「これが俺の仕事だ。真実を明らかにして、無実の者を救う。それが勇者の役目だ」


 エリアーナの目に、涙が浮かんだ。


「でも……」

「それに、妹がいる。エマなら、何とかしてくれる」


 実際、エマの治療魔法なら、呪いを中和できるかもしれない。完全には消せなくても、無害化はできるはずだ。


「さあ、始めよう」


 俺は呪文を唱え始める。古代語の詠唱が、静かな森に響いた。


 魔法陣が光り出す。青白い光が、エリアーナを包む。


 真実の眼を発動させると視えた。


 エリアーナの体から、黒い鎖が浮かび上がる。物理的に顕現している。セバスチャンにも見えているようだ。


「お嬢様……こんなものが……」


 老執事の声が震える。


 黒い鎖が、ゆっくりと動き出す。エリアーナの体から離れ、俺へと向かってくる。


 エリアーナが叫んだ。


「やめて! やめてください!」

「大丈夫だ……これくらい……」


 黒い鎖が俺の胸に触れた。


 瞬間――激痛が走る。


 全身の血が沸騰するような感覚。骨が軋む。内臓が捻れる。


 思わず膝をつく。


「くっ……」


 予想以上だ。この呪いは、想像以上に強力だ。


 黒い鎖が、どんどん俺に巻きついてくる。エリアーナから離れ、俺を縛り上げていく。


「ナオトさん!」


 エリアーナの声が遠い。


 意識が霞む。呪いの重さが、魂を押し潰そうとしている。


 だが――耐えなければ。


 最後の一本。最後の黒い鎖が、エリアーナから完全に離れた。


 完全に移動完了。


 エリアーナが崩れ落ちそうになって、セバスチャンが慌てて支えた。


「お嬢様!」

「私……」


 エリアーナがゆっくりと顔を上げた。


「軽い……体が、こんなに軽いなんて……」


 そして――笑った。


 心からの笑顔。


 涙を流しながら、喜びに満ちた表情で。


「ありがとう……ありがとうございます……!」


 痛みがないんだ。笑顔を作っても、もう痛くない。


 セバスチャンも涙を流している。


「お嬢様……よかった……本当に……」


 俺も――微笑む。


 よかった。救えた。


 だが次の瞬間、黒い鎖が俺の心臓を締め上げた。


「がっ……」


 視界が暗転する。


 膝から地面に倒れ込んだ。


 呪いが俺を殺しにかかっている。


「ナオトさん!」


 エリアーナの声。遠い。


「勇者殿!」


 セバスチャンの声も。


 意識が遠のく。


 エマ……悪い……少し、計算を誤ったかもしれない……暗闇が、全てを飲み込んだ。


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