第6話 判明
グランディア王国の古文書館。王宮の地下に位置する、巨大な記録保管庫。
俺たちは特別な許可を得て、内部に入る。
エルドリア家の記録を探す。書架の間を歩き、古い羊皮紙の束を手に取った。
アリシア・エルドリアの記録。
「女王候補として期待されていた……」
セバスチャンが読み上げる。
「聡明で、民衆に慕われ、魔力も強かった。しかし二十五歳で急逝――」
死因の詳細は記されていない。ただ「心臓の病」とだけ。
別の記録を探す。ロドリゴ・ヴァルトハイムの名前を探して。
あった。
『ロドリゴ・ヴァルトハイム。宮廷魔術師。黒魔術の専門家。野心家として知られ――』
興味深い記述がある。
『アリシア・エルドリアの死後、突如失踪。王国への反逆を企てていた疑いあり――』
反逆。エルドリア家への攻撃。
動機が見えてきた。
「セバスチャン、当時の政治状況は?」
「アリシア様は次期女王の最有力候補でした。しかし、それを快く思わない勢力もあったと聞いております」
権力闘争。どこも一緒で笑えねえ……。
ロドリゴは、誰かに雇われてアリシアを殺した。そしてその娘、エリアーナにも同じ呪いをかけた。
エルドリア家の血統を根絶やしにするために。
さらに書架を探る。奥の方に、別の記録があった。
ロドリゴの実験ノートだ。
ページをめくる。吐き気がした。
『幸福喰らいの呪詛、実験記録。対象――アリシア・エルドリア。施術成功。経過観察。一年目、軽度の衰弱。二年目、呼吸困難。三年目、死亡確認――」
冷酷な記述。人間を実験材料としか見ていない。
次のページ。
『対象――エリアーナ・エルドリア。幼児への施術は困難だが成功。長期的効果を期待する』
本を持つ手が震える。
「許せねえ……」
セバスチャンも、顔を青ざめさせている。
「この男……お嬢様を……」
ノートの最後のページ。
『王国を離れる。いずれ、エルドリア家の血は途絶える。我が野望の障害は消えた』
ここで記録は途切れていた。
「ロドリゴは今、どこにいる?」
司書に尋ねると、彼は古い記録を調べてくれた。
「五年前、隣国で死亡が確認されています。病死だそうです」
死んでいるのか。
ならば、復讐はできない。だが――呪いは解ける。
「セバスチャン、シルヴェリアへ戻るぞ」
「はい」
俺たちは古文書館を出る。
これで全てが揃った。犯人、動機、呪いの正体、そして解除方法。
あとは――実行するだけだ。