第4話 原因究明
翌日。俺はセバスチャンと共に、グランディア王国へ向かった。
エリアーナは宿で休養。長旅は体に障る。
国境を越え、王都へ。目的地は、王宮の医師が住む屋敷だ。
十四年前、七歳のエリアーナを診察した医師。名はギルバート。元王宮医師団長で、現在は引退して静かに暮らしているという。
屋敷の門を叩くと、老人が姿を現した。
「どちら様ですかな?」
「ナオト・カブラギ。勇者だ。少し話を聞きたい」
勇者の名を出すと、ギルバートは驚いた表情を見せた。
「これはこれは……どうぞ、中へ」
客間に通され、温かい茶が出される。
「それで、何の御用でしょう?」
「エリアーナ・エルドリアについて聞きたい」
ギルバートの表情が曇った。
「エリアーナ様……お嬢様は、お元気でしょうか」
「いや。余命半年と診断されている」
老医師は深く息を吐く。
「やはり……」
「やはり?」
ギルバートは窓の外を見た。
「実は、ずっと気になっておりました。あの時の病気……薔薇熱と診断しましたが、どうもおかしかったのです」
「どうおかしかった?」
老医師は立ち上がり、書棚から古い医学書を取り出す。
「薔薇熱の症状は、高熱、発疹、関節痛。これが典型的です。しかしエリアーナ様の場合、発疹がなかった。そして――」
ページをめくる。
「顔面神経の麻痺。これは薔薇熱の症状にはありません」
「後から出てきたんだろう?」
ギルバートが頷く。
「ええ。それが奇妙なのです。最初の三日間は、顔面に何の異常もなかった。熱も下がり、回復に向かっていた。ところが四日目の朝、突然、顔面の麻痺が現れたのです」
俺は身を乗り出した。
「突然?」
「ええ。何かのスイッチが入ったかのごとく。あれは……今思えば、不自然でした」
呪いが段階的に発動したんだ。最初は高熱と痛みで体を弱らせ、次に顔面神経を麻痺させた。
「他にも違和感は?」
「はい。お母様のアリシア様も、若くして亡くなられました。二十五歳でした」
背筋に冷たいものが走った。
「死因は?」
「心臓の病、とされています。しかし……症状が、エリアーナ様と酷似していたのです」
ギルバートが医学書を閉じる。
「徐々に衰弱し、呼吸困難に陥り、最期は心臓が止まった。何かに命を吸い取られるように」
間違いない。母のアリシアも、同じ呪いで殺されたんだ。
「ギルバート先生。当時、宮廷魔術師は誰だった?」
「魔術師……ですか?」
老医師が考え込んだ。
「確か……ロドリゴ・ヴァルトハイムという男がおりました。黒魔術に詳しい、優秀な魔術師でした」
「ロドリゴ・ヴァルトハイム……」
名前を記憶する。
「彼は今、どこに?」
「さあ……アリシア様が亡くなられた直後、突然姿を消しました。王国を出たとも、死んだとも噂されましたが……」
怪しい。あまりにも怪しい。
「ありがとう、先生。大変参考になった」
俺たちは屋敷を後にした。
馬車の中で、セバスチャンが呟いた。
「ロドリゴ・ヴァルトハイム……聞いたことのある名前です」
「知っているのか?」
「ええ。確か、王宮の古文書館に記録があったはずです」
方針は決まった。次は古文書館だ。