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悪女と呼ばれた令嬢の真実  作者: 藍沢 理
第2章 勇者ナオト・カブラギ
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第3話 幸福喰らい

「もう一度、診せてくれ」


 再び真実の眼を発動させた。黒い鎖を注視する。


 よく見ると、鎖には節がある。竹を思わせる節が等間隔で刻まれている。そして、節の一つ一つが、微かに脈動していた。


 何かのトリガーで、段階的に強化されているのか?


「セバスチャン、エリアーナさんの記録とか持っているか?」

「はい。全て記録してございます」


 セバスチャンが黒革の日誌を取り出す。


「貸してくれ」


 日誌をめくる。エリアーナの日々の行動が、几帳面に記されている。


 孤児院への訪問。図書館での勉強。祈り。就寝。規則正しい生活。


 そして――気づいた。


 エリアーナは、喜びを避けている。


 孤児院では子供たちと過ごすが、笑顔は見せない。勉学に励むが、達成感を表に出さない。何かを成し遂げても、淡々としている。


 幸福を恐れているかのように。


「そうか……わかった」


 真実の眼を解除すると、二人が俺を見つめていた。


「この呪いには、発動条件がある」


 エリアーナの表情が強ばる。


「発動……条件?」

「ああ。何かをトリガーにして、少しずつあんたの寿命を削っている。そのトリガーが何かわかった」


 深呼吸する。これを告げるのは、辛い。


「あんたが幸福を感じるたびに、この呪いは発動する」


 静寂。


 エリアーナの顔から、血の気が引いていく。


「幸せを……感じると……?」

「ああ。笑顔、喜び、愛情、達成感。あんたが幸福を感じるたび、呪いが強まっていく」


 セバスチャンが声を震わせた。


「では……お嬢様が笑顔を見せなかったのは……」

「病気のせい、痛みのせいだけじゃない。無意識に、この呪いを感じ取っていたんだろうね。幸せになると、命が削られる。だから避けていた」


 エリアーナが両手で顔を覆う。


「私は……ずっと……」


 小さな嗚咽が漏れる。


「誰かを愛することも……誰かと笑い合うことも……全て……」

「ああ。この呪いは、あんたから幸福を奪うために作られている」


 俺は拳を握りしめる。


「聞いたことある。これは――幸福喰らい(エウダイモニア)の呪詛(カース)だ」


 セバスチャンが立ち上がる。


「誰です! 誰がこんな残酷なことを!」

「それを調べる」


 俺も立ち上がった。


「呪いなら解ける。必ず解く。そのために、まずは過去を調べさせてくれ」


 エリアーナが顔を上げた。涙に濡れた青い瞳が、俺を見つめる。


「本当に……解けるのですか」

「ああ。俺が保証する」


 エリアーナの唇が、わずかに震える。


「ありがとう……ございます……」


 小さな希望の声だった。


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