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初戦を終えて

戦場に静寂が戻った。焼け焦げた大地と破壊された森の中で、私たちは息を整えていた。


「ドラゴンは無事でしょうか」ふと私は心配になって、意識を集中させた。


頭の中に浮かぶ地図を確認すると、巨大なクレーターの中に人影が一つ見えた。しかし、それは先ほどまでの巨大なドラゴンではなく—


「あそこです」私が指差した方向に、三人で向かった。


クレーターの底で倒れていたのは、ワイルドな風貌の女性だった。しっかりとした体格ながら、幼い顔立ち。年齢は10代後半といったところ。


しかし、全身に深い傷を負っており、意識を失っていた。


「まさか、この子が?」ライトさんが驚いた。


「ドラゴンの人間体ってやつか」ジンさんが呟いた。彼もまだ体調は万全ではないが、なんとか歩けるまでに回復していた。


「とりあえず連れて行きましょう」ライトさんがその女性を背負った。


私は通信でギルドに連絡を入れた。


—こちらビリー、報告です。


『どうしました?』受付の女性の声が返ってきた。


—ハイオークとの戦いが終了しました。ジンさんとライトさんとドラゴンの加勢で、皆無事です。


『ほっ、ありがとうございます。こちらも準備は進めていたので、調査には向かいますので』


—はい。でも気になることが。ハイオークを操る黒いローブの男がいました。ジンさんがそのローブの男を倒したと思いましたが、上半身、下半身がバラバラの状態で動いてそのまま逃走しました。 


『なんですか、それは。とにかく、すぐに調査隊を派遣します。皆さんは一旦戻って来てください』


通信を切ると、ライトさんが安堵の表情を浮かべた。


「これで一段落ですね」


「ああ、やっと終わったぜ」ジンさんも疲れ切った様子で頷いた。


私たちは、意識を失ったドラゴン(女性?)を担いで帰路についた。


---


町に戻ると、まずギルドに報告に行った。


ギルドでは、大勢の冒険者が私たちを迎え、労っててくれた。


そして場所を共有すると入れ違いに、調査隊として森に向かっていった。


私たちは、ギルドの受付で昨日の出来事を詳細に報告した。


「獅子頭の怪物の出現、黒ローブの術者の存在、そして謎の女性の救出」ライトさんが冷静に事実を列挙した。


「あの獅子みたいな化け物は本当にヤバかった」ジンさんが身振り手振りを交えて説明する。「再生能力が半端じゃなくて、普通の攻撃じゃ全然効かなかったんだ」


私も自分が「視た」情報について報告した。「敵の位置や動き、弱点などが見えました。それで皆さんと情報を共有することができたんです」


ギルドの職員たちは驚きの表情を浮かべながら、詳しい記録を取っていた。


報告を終えると、私たちはゴブリンの件の報酬銀貨30枚を受け取り、それとは別に特別手当を金貨を15枚頂いた。


ドラゴンの女性についてはギルド管理の宿屋で安静にすることになった。まだ意識が戻らない状態だったが、ギルドの医師によると生命に別状はないとのことだった。


「よかったらビリーさんもギルドの宿屋で泊まりますか?彼女が目覚めた時、知らせてくれる人がいると助かりますし」ギルドの担当者が私に頼んだ。


「えっいいんですか!ぜひお願いします」私はありがたく引き受けた。


ジンさんとライトさんとはそこで別れた。彼らは彼らで定宿があるっぽかった。


お互い疲れ過ぎで、言葉少なく。


私は宿屋着くとお風呂場へ直行した。

戦闘の疲れと汚れを温かい湯で洗い流すのは、何よりの贅沢だった。


お風呂から上がると、私は自分の部屋へと向かった。

部屋に入ると、真っ白なふかふかの布団が私を迎えてくれた。戦闘の緊張で張り詰めていた心が、その瞬間にほぐれていくのを感じる。


布団に身を委ねると、まるで雲の上に浮かんでいるような柔らかさだった。


シーツの肌触りは絹のように滑らかで、お風呂でほてった肌にひんやりと心地よい。清潔に洗濯された布の匂いが鼻腔をくすぐり、それだけで心が安らいだ。


—なんて長い1日だったんでしょう。森の中の探索から始まった一日。ゴブリンたちとの出会いでは、私の「視る」能力が初めて実戦で役に立った。


そしてハイオーク。あの巨大な敵との対峙は本当に恐ろしかった。でも、ライトさんとジンさんがいてくれたから乗り越えられた。


獅子頭の怪物が現れた時は、もうダメかと思った。あの威圧感。でも、あの瞬間からジンさんの本当の強さを見ることができた。


ジンさんの戦う姿を思い出すと、胸がきゅっと締め付けられる。


あの時のジンさんは、普段の粗野な様子とは全く違っていた。集中した瞳、研ぎ澄まされた動き、一切の無駄のない剣技。まるで戦いの神が降臨したかのような美しさがあった。


汗で濡れた髪が額に張り付き、傷だらけの体でも決して諦めない意志の強さ。


全てがかっこよくて、胸が高鳴ってしまう。


あの背中を見ていると、何とも言えない気持ちになった。強くて、優しくて、頼りになって。戦いが終わった時の安堵の表情も、とても素敵だった。


ふと気づくと、ジンさんのことばかり考えている自分がいた。


頬が熱くなるのを感じながら、私は布団を頭まで被った。今日は本当に色々なことがあった一日だった。


体の隅々まで染み付いた疲労が、ふかふかの布団に包まれることで溶けていく。


まぶたが重くなり、意識が遠のいていく。久しぶりに安心して眠ることができる。温かい布団の中で、私は深い眠りの世界へと落ちていった。

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