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ジンの実力


ジンさんは不敵に笑い、『おいしいところは横取りさせねえぜ!』


そう言うと、ジンさんは信じられない速度でドラゴンの方へ駆け出していった。


その時、空気が重く圧迫され始めた。まるで巨大な何かが大気そのものを押し潰しているかのような、息苦しい威圧感。


「何だ、この気配は...」ライトさんが大盾を握り直した。


黒ローブの男が高らかに笑い声を上げた。「トカゲ風情が!お前程度の力で私に挑もうとは愚かな!」


彼が何かを唱えると、空中に巨大な魔法陣が浮かび上がった。その中心から、異様な影がゆっくりと現れ始める。


最初に見えたのは、人間を遥かに上回る巨体。そして—獅子の頭部。


「なんだあれは...」ライトさんが戦慄の声で呟いた。


完全に姿を現したその怪物は、身長4メートルを超える巨体に、黄金の鬣を持つ獅子の頭、そして鋼鉄のような筋肉に覆われた人型の体躯を持っていた。


その目は血のように赤く、口からは蒸気のような息が漏れている。


心臓を掴まれているような圧倒的な畏怖。私は目を離すことができずに固唾を飲んだ。


ドラゴンですら、その登場に動きを止めた。


「ほう、呼び出したと思ったら」ジャガーノートが低い声で唸った。「久しぶりに面白そうな獲物がいるではないか」


黒ローブの男が勝ち誇ったように叫んだ。「ジャガーノート!加勢を頼む、そのドラゴンを—」


「黙れ」


ジャガーノートの一言で、黒ローブの男の声が止まった。圧倒的な威圧感に、味方も震え上がったのだ。


「お前の要望を聞く気はない」ジャガーノートが冷笑した。「戦う相手がいるなら、それで十分だ」


そう言うと、彼は地面を蹴った。


その瞬間、大地が陥没した。まるで隕石が落下したかのような衝撃で、直径数十メートルの範囲が砕け散る。そして—ジャガーノートの巨体が弾丸のようにドラゴンへ向かって飛翔した。


ドラゴンが炎のブレスを放つ。しかし、ジャガーノートはそれを正面から受けながらも、全く意に介さない様子で突進を続けた。純白の炎が彼の体を包むが、鋼鉄の筋肉は焼け焦げることもない。


「なんという耐久力...」ライトさんが息を呑んだ。


衝突。


ジャガーノートの拳がドラゴンの顎を捉えた瞬間、まるで雷鳴のような轟音が響き渡った。空気が裂け、衝撃波が同心円状に広がる。


ドラゴンの巨体が宙に舞った。何十トンもの体重があろうとも、ジャガーノートの一撃の前では軽い羽毛のようだった。


「グアアアア!」


ドラゴンが初めて苦痛の叫びを上げた。しかし、空中で体勢を立て直すと、翼を大きく羽ばたかせて反撃に転じる。


鋭い爪がジャガーノートの胸部を狙った。しかし—


「遅い」


ジャガーノートがドラゴンの前脚を片手で掴んだ。そのまま彼は、ドラゴンの巨体を頭上に持ち上げる。


「馬鹿な...」ドラゴンが信じられないという表情を浮かべた。


ジャガーノートは、まるでハンマー投げのように、ドラゴンの体を振り回し始めた。一回、二回、三回—そして、思い切り地面に叩きつけた。


大地が裂けた。まるで地震が起きたかのような衝撃で、森の木々が次々と倒れていく。直径数百メートルにわたってクレーターが形成され、その中心でドラゴンがぐったりと横たわっていた。


「この程度か」ジャガーノートが失望したように呟いた。「期待していたのだが」


その時、黒ローブの男が再び動き始めた。ジャガーノートがドラゴンに気を取られている隙に、散り散りになっていたハイオークたちを再び操ろうとしている。


「オーク共よ、立ち上がれ!より激しく、より残虐に!」


禍々しい光が再び発せられ、ハイオークたちの目に殺意が戻り始めた。しかし、その動きはまだちぐはぐで、完全には統制が取れていない。


は恐怖で体が震えた。ライトさんの防壁展開があっても、この状況は絶望的だった。ジャガーノートという圧倒的な力の怪物、そして復活するハイオークの大軍。


その時、どこかから聞き覚えのある声が響いた。


「よう、パーティーに俺も混ぜてくれよ」


黒ローブの男が振り返ると、抜き身の刀とジンさんを視界に捉えた。しかし、その雰囲気は先ほどとは全く違っていた。


刀身が黒い炎を纏っていた。いや、炎というより漆黒の闇そのものが刀を包み込んでいる。そして刀身自体が倍ほどに大きく、長くなっていた。


ジンさんの口元には凶悪な笑みが浮かんでいた。


「面白そうじゃねえか」ジンさんが不敵に笑った。「特にでかい奴、お前だ」


黒ローブの男が嘲笑った。「たかが人間一匹が—」


その瞬間だった。


ジンさんの姿がかき消えた。残像すら見えない超絶的な速度で、黒ローブの男の眼前に現れる。

「雑魚は黙ってろ」


黒炎を纏った刀が一閃した。


黒ローブの男の体が、腰の部分からきれいに真っ二つに切断された。上半身と下半身が、まるでスローモーションのようにゆっくりと離れていく。断面からは血すら流れず、黒い炎によって焼き切られていた。


「な、何だと...」男の最期の言葉が途切れ、二つに分かれた体が地面に崩れ落ちた。


ジャガーノートが振り返った。その獅子の瞳に、初めて驚愕の色が浮かんだ。


「ほう」ジャガーノートが感心したように唸った。「あやつを一撃で...なかなかやるではないか、人間」


ジンさんが黒炎の刀を構え直した。「もう後戻りはできねえぜ」その声には、戦闘を待ち望むような弾んだ声が込められていた。


「良い」ジャガーノートが獰猛な笑みを浮かべた。「久しぶりに本気を出せそうだ」


二人の間に、見えない火花が散った。まるで空気そのものが緊張で張り詰めているかのような、一触即発の状況。


そして—戦いが始まった。


ジンさんが最初に動いた。黒炎を纏った刀が、まるで雷光のようにジャガーノートの胸部を狙って閃く。


ジャガーノートは余裕の表情で、その刀身を素手で受け止めようとした。しかし—

「!」

刀身が空気を裂く瞬間、ジャガーノートの本能が危険を察知した。彼は咄嗟に体を横に逸らす。

黒炎の刀が空を斬った。


その瞬間、背後の景色に巨大な亀裂が走った。山の稜線が真っ二つに割れ、遥か彼方まで続く一直線の裂け目が現れる。まるで世界そのものが斬られたかのような、恐ろしい光景だった。


「何だ、この威力は...」ジャガーノートが初めて戦慄した。


「へへ、危なかったなあ」ジンさんが不敵に笑った。「手で受けてたら、腕ごと消し飛んでたぜ」


ジャガーノートが地面を蹴った。大地が爆発したかのように粉砕され、彼の巨体が弾丸のように飛翔する。ジンさんも同時に地面を蹴り、お互いが宙で激突した。


衝撃波が同心円状に広がり、周囲の森が根こそぎ吹き飛ばされた。両者の拳と刀が激しくぶつかり合い、その度に空気が爆発音を立てる。


お互いの力が真正面からぶつかり合う。ジャガーノートの獣のような咆哮と、ジンさんの気合いの叫びが響き渡った。


「影分身!」


ジンさんの姿が九体に分かれた。九つの黒炎の刀がジャガーノートを包囲し、同時に襲いかかる。


「しゃらくさい!」

ジャガーノートが雄叫びを上げると、彼を中心とした衝撃波が爆発した。九体の影分身が一瞬で粉砕される。しかし—


「そこだ!」

本体のジンさんが、粉砕された影分身の影に潜んでいた。黒炎の刀がジャガーノートの左腕を肘から完全に切断する。


「グアアア!」ジャガーノートが苦痛の叫びを上げた。

しかし、彼は気合いと共に雄叫びを上げた。「ウォオオオ!」

切断された左腕から、筋肉と骨が瞬時に再生され始めた。わずか数秒で、完全に元通りの腕が復活する。


「なに!」ジンさんが驚愕した。


ジャガーノートが地面を両拳で叩き潰した。大地が粉砕され、無数の岩石が宙に舞い上がる。彼はお返しとばかりに、その岩の影に身を隠すと、死角からジンさんの腹部に巨大な拳を直撃させた。


その瞬間ジンさんの体が弓なりに曲がり、口から大量の血を吐いた。彼の体は弾丸のように吹き飛ばされ、地面に激突して巨大なクレーターを作る。


「ジンさん!」私が思わず叫んだ。


煙の中から、ジンさんがふらつきながら立ち上がった。血まみれの顔に、しかし獰猛な笑みが浮かんでいる。


「楽しくなってきたぜ」


その瞬間、ジンさんの髪が逆立った。黒いオーラが全身を包み込み、まるで悪魔のような威圧感を放ち始める。大気そのものが震えているかのようだった。


「ほう、まだやれるか」ジャガーノートが感心した。


激しい攻防が続いた。ジンさんの黒いオーラが纏った攻撃は、ジャガーノートの鋼鉄の肉体にもダメージを負わた。一方、ジャガーノートの再生能力は脅威的で、どんな傷もすぐに回復してしまう。


そして再び、ジャガーノートが地面を粉砕した。

「また同じ攻撃か」ジンさんが構えた。


その時、頭の中の地図に鮮明に砕かれた岩の位置、ジャガーノートが潜んでいる岩の情報が浮かんだ。


—ジンさん!彼は右斜め後ろの岩陰にいます!


「死ね!」


私の通信がジンさんの頭に響いた瞬間、ジャガーノートは予想通りの方向から現れた。


「お前がな!」

ジンさんが振り返りざまに刀を構えた。黒いオーラが刀身に集約され、これまでで最も強烈な殺気を放つ。


黒炎の刀が、袈裟懸けにジャガーノートを両断した。


完璧な一閃だった。ジャガーノートの巨体が、右肩から左脇腹にかけて真っ二つに切断される。


「まさか...読まれて...いた...」ジャガーノートの最期の言葉が途切れた。


ジンさんの黒いオーラがふっと消えた。ジンさんは膝をつき、激しく息を荒げている。黒炎の刀も通常の大きさに戻り、炎も消えていた。


「ジンさん!」私とライトさんが駆け寄った。


ジンさんは疲れた顔をしていがた、意識はしっかりしていた。


「割に合わない仕事だったぜ」と憎まれ口をたたいていた。


「ゆるさんぞ貴様ら...」

振り返ると、真っ二つに切断されたはずの黒ローブの男が、まだ息絶えずに這いずっていた。上半身と下半身から禍々しい黒い煙が立ち上っている。


黒煙がジャガーノートの遺体を包み込んだ。まるで影のように、巨大な遺体が煙の中に吸い込まれていく。


「待て!」ライトさんが叫んだが、黒ローブの男はすでに転移魔法を発動していた。

「勇者より危険な男..お前のことは...忘れん...」


禍々しい声と共に、黒ローブの男とジャガーノートの遺体が完全に消失した。

戦場に、ついに静寂が訪れた。しかし、それは勝利の静寂ではなく、嵐の前の静けさのような不気味さを伴っていた。

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