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呼びかける者

アイヴィさんが眉をひそめながら私を見つめていた。


「本当に聞こえるのか?」


「はい」私は頷いた。「とても微かですが...古い言葉のような感じで。でも、なぜかその意味が心に伝わってくるんです」


声はまだ続いていた。


断片的で、まるで遠い記憶の残響のような響きだった。しかし確実に、私を呼んでいる。


「危険かもしれない」アイヴィさんが警告した。「ジンとライトに連絡したほうがいいんじゃないか」


私は少し考えた。確かに慎重になるべきだろう。でも...


「もう少しだけ、声の方向を探ってもいいでしょうか?」


「なぜそんなにこだわる?」


「わからないんです」私は正直に答えた。「でも、この声...すごく懐かしい感じがするんです。初めて聞くはずなのに」


アイヴィさんが長い間私を見つめていた。そして、小さくため息をついた。


「わかった。ただし、絶対に私から離れるな。何かあったらすぐに撤退する」


「ありがとうございます!」


私たちは慎重に通路を進んだ。声はだんだんと明瞭になってきていた。


『...てた...たのな...』


「この辺りです」私は足を止めた。「この壁の向こうから聞こえてきます」

アイヴィさんが壁を調べた。古い石組みで、苔が生えている。通路の奥に続いているはずなんだけど...

「行き止まりだな」アイヴィさんが呟いた。「この先は壁で塞がれている」

「でも、確かに向こうから聞こえるんです」私は壁に手を置いた。

石の冷たい感触が手の平に伝わってくる。でも、よく見ると他の部分とは明らかに質感が異なっていた。新しい石ではなく、むしろ古い石なのに、なぜか継ぎ目がない。

「これ、本当に行き止まりでしょうか?」

「どういう意味だ?」

私は壁をよく観察した。他の壁と違って、この部分だけ微妙に奥に引っ込んでいる。そして、石の表面に何か模様のようなものが刻まれている。

「アイヴィさん、この模様を見てください」

彼女が近づいてきた。確かに、薄っすらと幾何学的な模様が石に刻まれている。

「魔法陣の一部みたいだ」アイヴィさんが呟いた。「でも、これだけでは何もわからない」

私はもう一度壁に手を置いた。今度は、通信スキルを使って集中してみる。

すると、手の平に微かな振動を感じた。

「何か感じます」私が呟いた。「この壁、動きそうな気がします」

「動く?」

私は壁を押してみた。最初は何も起こらなかったが...

「あ!」

壁がわずかに沈み込んだ。そして、重い音を立てて石の扉がゆっくりと開いた。

「隠し扉だったのか」アイヴィさんが驚いた。

開いた扉の向こうは狭い通路になっており、さらに下に続いている。冷たい空気が流れ出してきて、古い石の匂いが鼻をついた。

「地図にはない道だ」アイヴィさんが呟いた。「誰が作ったんだろう」

「きっと、ずっと昔からあったんです」私は通路を覗き込んだ。「声もここからはっきり聞こえます」

声は確実にこの先から聞こえてくる。でも、この通路は明らかに普通のダンジョンの一部ではない。石の切り方、通路の幅、全てが異なっている。

「本当に大丈夫か?」アイヴィさんが心配そうに言った。「一度戻って、ジンとライトに相談したほうが...」

「でも、せっかくここまで来たんです」私は振り返った。「もう少しだけ、お願いします」

私は声に耳を澄ませた。呼び声は確実にこの先から聞こえてくる。

「行きましょう」


狭い螺旋階段を下りていくと、やがて広い空間に出た。天井は高く、壁一面に古代の壁画が描かれている。


「これは...」私は息を呑んだ。


壁画には美しい女性の姿が描かれていた。光に包まれ、手を空に向けて伸ばしている。その周りには七つの光の欠片が舞い踊り、そして...


「女神が七つに分かたれ、大地に封じられし時代」


私は無意識に古代語を読み上げていた。


「え?」私は驚いた。なぜ読めたのだろう。


「お前、今何語で話した?」アイヴィさんが困惑している。


「わかりません...でも、この壁画の意味が頭に浮かんできて」


部屋の中央には祭壇があり、複雑な魔法陣が刻まれている。そして、その中心で何かが淡く光っていた。


私が祭壇に近づくと、声がはっきりと聞こえるようになった。


『ついに...来てくれたのね...』


その瞬間、祭壇の光が強くなった。魔法陣が青白く輝き、空中に光の球体が現れる。


球体はゆっくりと女性の姿を取った。半透明で、とても美しい女性だった。


「私の声が届いたのね」女神のかけらが微笑んだ。「長い間待っていました」


「あなたは...」私は震え声で尋ねた。


「私は災厄の女神ネメシスの一部」彼女が答えた。「数千年前、私は自らの力を七つに分け、この世界の各地に封印しました」


「なぜ?」


「大いなる災厄を封じるためです」女神のかけらの表情が曇った。「しかし今、その封印が揺らいでいます。災厄の力が再び目覚めようとしている」


アイヴィさんが警戒しながら前に出た。


「ビリー何か言葉が聞こえるのか?何と言っている?」


私は困惑した。「災厄の女神の一部です、と言っています」


「残りの六つのかけらを見つけ、女神の力を再び統合する者です」彼女の声に緊急性が込められた。「災厄の封印が完全に破れる前に」


「災厄って何なんですか?」


女神の表情が暗くなった。


「破壊と混沌を撒き散らす、古代の邪悪な存在です。かつて世界を滅亡の寸前まで追い込みました。私はその存在を封印するために存在します」


「時間があまりありません」彼女が続けた。「災厄の封印は日に日に弱くなっています。最初のかけら見つけてください」


頭の仲に地図のような映像が浮かび上がった。


「北の森の奥、古い遺跡の中に二つ目のかけらが眠っています。そこには『風の守護者』が住んでいますが、あなたなら説得できるはずです」


「風の守護者?」


「詳細は実際に会った時にわかるでしょう」女神のかけらの姿が薄くなり始めた。


「私のこのかけらも、あなたに力を託します」


光の粒子が私の胸の辺りに流れ込んできた。温かく、そして不思議な安心感に包まれる。


「これで、かけらの位置をより感じ取れるようになるはずです」


「待って!」私は手を伸ばした。「まだ聞きたいことが...」


しかし女神のかけらの姿はもう消えかけていた。


「あなたを信じています。必ず...世界を...救って...」


光が完全に消え、部屋は再び薄暗くなった。


アイヴィさんと私は呆然と立ち尽くしていた。


「...大丈夫か?」アイヴィさんが呟いた。


私は胸に手を当てた。確かに何かが変わった。意識を集中すると、遠くの方向に微かな光を感じる。


「北の森...」私は呟いた。「二つ目のかけらがある場所」


「おい」アイヴィさんが私の肩を掴んだ。「まさか本気で行くつもりじゃないだろうな」


私は彼女を見つめた。正直、自分でも信じられない。でも...


「災厄が本当に目覚めたら、みんなが危険になってしまいます。ジンさんも、ライトさんも、街の人たちも...」


アイヴィさんが困ったような表情をした。


「お前は優しすぎる」


「でも放っておけません」


長い沈黙の後、アイヴィさんがため息をついた。


「わかった。だが、ちゃんとジンとライトに相談してからだ。こんな大事なこと、隠すべきじゃない」


「そうですね」私は頷いた。「みんなで決めましょう」


私たちは封印の間を後にした。地上に戻る途中、私は自分の運命が大きく変わったのを感じていた。


---


夕陽が差し込むダンジョンの入り口で、私は今日の出来事をジンさんとライトさんに話す準備をしていた。彼らは私の話を信じてくれるだろうか。そして、一緒に来てくれるだろうか。


胸の奥で微かに光る女神のかけらの力を感じながら、私は深く息を吸った。


大きな冒険の始まりだった。

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