ディア王国の王女であるということ1
静かな夜にはまん丸い満月が浮かんでいて、その月光が誠志郎の白い瞳に輝きを取り戻させた。起き上がろうとする誠志郎だったが胸部に受けた傷が癒える事もなく立ち上がれずにいた。
すると、同じく立ち上がる力すら尽きたアイシスがそっと口を開いた。
「あなた…さっきの一瞬で私に何をしたの?あの時、あなたにトドメを刺そうと思って、気がついたら今になってる。分かるのは私が負けたってことくらいね」
誠志郎ははにかんだ笑みを浮かべて空を見上げ話し始めた。
「君が瞬きをする瞬間に本気の速度で後頭部に重い手刀を打ち込んだだけさ。小さい頃に習ったんだよ、敵に隙はなくとも瞬きで閉じた瞼よりも早く動ければ、瞬きすらも隙になるって。今なら出来るんじゃないかと思ってね」
「つまり、私が目を閉じて開けるよりも早く勝負に蹴りをつけたのね。男のくせにやるじゃん」
誠志郎はアイシスの男の癖にという発言を聞いて、とあることを尋ねた。
「なあ、一つ聞きたいんだが」
「何?今ならディア女王もいないし出来る限り答えれるけど」
「そうか!それは助かる」
「で、何?」
「この国ってなんで男がいないんだ?何か男に恨みでもあるのか?」
誠志郎がそう尋ねると、アイシスは嘲笑気味に答えた。
「攻撃魔法を使えない細胞の男共なんて、この戦争が広がる世界では足手纏い。その癖して、口が達者で態度だけでかくて、心は何よりも小さく弱い。いざとなれば女の私達がなんとかしてくれると思ってる。だから、ディア女王は女だけの国でこの世界を生き抜こうとしているんだ、私達も同じ思想を持っている。だから、この国に男が入ってくれば死ぬまで兵隊の駒として扱うんだ」
この国に男がいないその理由は、思っていたよりも根が深く、そして女達の思想は筋が通っているのだと誠志郎は思っていた。でも、その思想が間違っていないとしても、誠志郎はこの現実という事実を否定した。
「もし、この世界の男がそういう生き方なのだとしたら、ディア女王は女性戦士を護る英雄だろうな。でも、お前らの思っている男は酷く偏りのある見方だ」
「違う!そうだった。私も、皆も男に裏切られてこの国に辿り着いたんだ。男なんて弱いだけで何も護れないし、護られることし考えてない。この世界にはそういう男しかいないの、だから私達だけで生きて行くって誓ったんだ」
「そう、だな。確かに君の言う通りかもしれない。俺もソリティア国で思う所があったんだ。でも、この世界には俺がいる。俺がこの世界を買って戦争なんてくだらないことやめさせてやる」
「あんたは強いけど、所詮男。戦争を終わらせるだなんて無理ね」
あっさりと否定された誠志郎は、重たい体を起こし、アイシスに視線を落とした。二人の瞳は向かい合い、その想いを解りあっている様だった。
その、証拠にアイシスから言葉を漏らしていた。
「あ、あなた、本気で世界を買うつもり?」
その質問に誠志郎は笑みを浮かべて答えた。
「この世界は間違ってる。人はいつか死ぬ生き物なのに何故殺しあう?この広い世界に何を奪い合う?俺は、俺の目的を果たしたら、この世界から意味のない殺し合い、いがみ合いを無くす。その先には、きっと…アイシスが女の子らしく過ごせる未来があるよ」




